表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 ガゼンランの塔
522/1358

(4)平常運転

 ガゼンランの塔・第一層の下見を終えた考助達は、その日のうちに塔攻略の下準備を始めた。

 ただし、下準備と言っても数日前まで森を移動していたので、さほど大きな買い物は必要が無い。

 あるとすれば、消耗品の買い足しくらいだった。

 そうした物を買った後は、予定通り(?)街の中をうろついて何か良い食事が無いかを探し始めた。

 ただし、探すと言っても何か目標があるわけではなく、あくまでも行き当たりばったりだ。

 今回の「ウロツキ」で見つけた物で、考助にヒットしたのはクレープのような食べ物だった。

 残念ながら生地自体に甘味は無かったのだが、上に乗せてある果物類で十分な甘さがあった。

 旅行中はあまり甘い物も口に出来ないので、そう言った意味でも楽しむことが出来た。

 

 そんな風にセイチュンの街を楽しんだ後は、宿に戻って明日以降の攻略に向けて英気を養うことにした。

 宿に関しては、一度払い戻しをするのではなく、払いっぱなしにしておく。

 塔の中で夜営をする場合は無駄になってしまうが、街に戻って来た場合に宿が無い方が困る。

 多くの冒険者達も同じように、長期滞在にして部屋を確保しておくのが普通なのだ。

 それが嫌な場合は、飛び込みを狙うか、さっさと家を借りてしまうのである。

 ギルドを作るとなると、拠点となるホームも必要になるのだが、残念ながらセイチュンでギルドと認められるのは、ガゼンランの塔の第二十一層からになる。

 初級クラスを卒業してようやく、ギルドを作る資格ありと認められるのである。

 考助達のような元々実力のある者にとっては面倒な制度だが、それなりに意味のある制度でもある。

 ガゼンランの塔で第二十層を越えたとなれば、少なくとも西大陸においては実力者として認められる。

 そこで作ったギルドとなれば、それなりに知名度も得ることが出来るのだ。

 ガゼンランの塔のおひざ元であるセイチュンにとっても、ギルドを作ることを考えている冒険者たちにとっても悪いことばかりではないのだ。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 準備も万端の状態で、考助達はガゼンランの塔の攻略を始めた。

 何処となくナナの様子も浮ついているように見える。

 塔の中の雰囲気が、アマミヤの塔と同じように感じているのだろう。

「ナナ。はしゃぐのはいいけれど、浮かれすぎるなよ」

「ワフ!」

 考助の忠告に、ナナが「当然!」と言いたげに返事を返して来た。

 どうやら余計な忠告だったようだ。

 そんな一人と一匹のやり取りをコウヒとミツキが、笑いながら見ていた。

 いつも通りといえばいつも通りの光景と言えるだろう。

 そうして始まったガゼンランの塔の攻略は、考助達にとってはごく日常のやり取りと言えるのであった。

 

 ガゼンランの塔は、アマミヤの塔と比べて大体五分の四くらいの広さだった。

 そこから考えれば、高さは八十層くらいにになると考えられるが、はっきりとは分からない。

 恐らく当分は判明することは無いだろう。

 何故なら考助達も最後まで攻略する予定が無いためだ。

 今回考助達がガゼンランの塔を攻略するのは、あくまでもギルドを作ってセイチュン内での発言権を上げるためである。

 勿論、攻略を済ませてしまえば発言権も上がるが、それに付随する面倒も大きくなる。

 それに、ギルドを作るのは考助自身の為ではなく、クラウンの為である。

 考助としてもわざわざ新たな面倒事を抱えるつもりはないのだ。

 ある程度ギルドを大きくすることが出来れば、後はクラウンに引き渡して終わるつもりでいる考助であった。

 

 そんな考助の思惑のために、一行は順調に塔の攻略を進めて行った。

 今回は人の目もあるので、聖魔の塔や四属性の塔を攻略した時のように、高速で攻略する気はなかった。

 といっても、一日に付き一階層と半分くらいは攻略していたので、カードを作ったばかりの新人とは思えないくらいのスピードではある。

 ただし、ある程度の実力者であれば不可能ではない速度なので、変に注目を受けることもないだろう。

 と、この時の考助は気楽に考えていた。

 その目論見が甘かったと頭を抱えることになるのは、今回の攻略を終えた後の事だ。

 そんな未来の事は予測できるはずもなく、考助達は日々階層の攻略を進めていくのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 考助達がガゼンランの塔に入って半月。

 特に大きな事件も起こるわけではなく、無事に第二十一層まで攻略することが出来た。

 第二十一層に行くまでの間の事も特筆すべきことは無かった。

 あえて言えば、アマミヤの塔とはまた違った種類のモンスター達が出てきていたという事だろうか。

 付け加えると、セイチュンの街周辺で出てくるモンスターとも違っていた。

 モンスターランク的には全て初級クラスだったので、考助達にとっては手間取るような相手ではなかった。

 考助達は半月の間、ゆったりまったりと塔の階層を進んでいたという事になる。

 勿論これは、考助達の主観であるが。

 

 第二十一層に抜けた考助達は、階層の中央にある外に抜ける用の転移門に向かった。

 五層ごとにある短縮用の転移門は、それぞれの階層の中央にあるのだ。

 目的の転移門に着いた考助達は、馬車ごとカードを使って第一層へと転移した。

「おー。ちゃんと戻ってる」

 アマミヤの塔で何度も同じことを経験しているはずの考助が、感嘆の声を上げた。

「そうね。こうやって実感すると面白いわね」

 言外に、他の塔で実感すると、という思いを込めてミツキが言って来た。

 隣にいるコウヒも同じように頷いていることから、やはりアマミヤの塔とはまた違った感覚があるのだ。

 それが具体的に何か、と問われても答えられるわけではないのだが。

 

 塔の出入口は、馬車が通れるくらいの広さがあるとはいえ、他の冒険者達も長期戦を覚悟して馬車で向かう者達がいる。

 そのため、塔に入る馬車と出ていく馬車で出入口は混雑することがある。

 特に塔に入る冒険者が多くなる朝方と戻って来るものが多くなる夕方が混雑するのだが、考助達が帰ろうとした時間帯が丁度その時間帯だった。

 仕方ないので大人しく待機列に並んで順番を待っていると、突然馬車の下から声が聞こえて来た。

「あ、今日戻って来たんですか」

 その女性の声に、たまたま御者をしていた考助が声のした方を見ると、見覚えのある女性が立っていた。

 ガゼンランの塔に入るためのカードを作った時に、手続きをしてくれた女性だった。

「ええ。何とか目標階層まで行けたので、戻ってきました。しかし、よく覚えていましたね」

 たった一度のカードを作るだけの作業だったはずなので、考助はまさか覚えられているとは思っていなかった。

 だが、そう言った考助に対してその女性は微妙な表情になった。

「いえ、まあ。あれだけの美人二人を侍らせていたら、忘れられませんよ」

「あ、あー。なるほど。ところで、ここで何を?」

 話題をそらすために、考助は気になっていたことを聞いた。

「私達の職務には、こうして待機列を整理することもあるんです。トラブルが起こることもありますからね」

「へー。そうなんですか」

 てっきり個人個人のモラルに任せていたのかと考えていた考助だったのだが、意外にもしっかりと管理されていた。

 ここまでやってくれているのであれば、カードを作る際に登録料を支払った意味も出てくる。

 まあ、そんなことをしていても馬鹿な真似をする者は出てくるのだが。

 今現在考助達の目の前で起こっているように。

「ところで、あれ、大丈夫ですかね?」

「あれ? わっ、ご、ごめんなさい。ちょっと行ってきます」

 女性職員はそう言って、トラブルが発生している所に向かって行った。

 よく見ると、同じように職員らしき人達が何人か集まっていた。

 それを見た考助は、思った以上にしっかりと運営されているんだと感心するのであった。

塔の攻略がいつもの通りさっくりと終わってしまったので、後半は運営のちょっとした日常のつもりで書きました。

ちなみに、カードを作っているギルドは塔を支配しているわけではなく、昔からある塔のカードを作る仕組みを使って業務を行っているだけです。

業務内容が業務内容だけに、普段は公正中立をうたっています。

公的ギルドと似たような組織になっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ