(3)攻略開始!
セイチュンの街の主要な店を巡った考助達は、最後にガゼランと話をすることにした。
ついでにドルも呼んでもらったので、三者会談となった。
といっても話自体はすぐに終わった。
考助から話を聞いたガゼランとドルが、好きにするといい、と言ってきたためだ。
元々クラウンでも考助が考えたようなやり方で支部を作ることは検討されていたらしい。
ただ、長期の任務になる上に成功するかどうかも分からないため、担当の人選に苦慮していたそうだ。
冒険者部門にしてみれば、考助達がその役をやってくれるのであれば、願ったり叶ったりという事なのだ。
冒険者部門が先行してギルドを作るという話は、既に他の部署にも通っているので、特に今回の件で話に加える必要はない。
そのため、考助達がセイチュンの街で冒険者ギルドを作って、後々クラウンの支部にするという話は、本部確定の事項として進むことになるのであった。
そんな真面目(?)な話を終えて、考助がふと疑問に思ったことをガゼランに聞いた。
「そう言えば、ガゼランの名前ってここの塔の名前と似てるけど、何か由来でもあるの?」
「由来も何も。俺の名前はガゼンランの塔から取った名前だぜ?」
あっさりとそう言って来たガゼランに、考助は目をぱちくりとさせた。
「そうなの?」
「ああ。俺の両親は元々そっち出身の冒険者でな。その塔を懐かしんで付けたそうだ。俺はずっとこっちだったから行く機会が無かったが、転移門が出来れば行くことが出来るかもな」
意外と言うべきか、それとも納得できるというべきか、その理由を聞いた考助は笑顔になった。
「そうなんだ。それじゃあ、なるべく早く来てもらえるように全力で頑張らなきゃね」
そう言った考助に、笑っていたガゼランの顔がピシリと固まった。
「おい、こら待て。全力は出さなくても良い、全力は」
頼むから止めてくれと懇願し始めたガゼランに、考助は首を傾げる。
ガゼランと一緒にいるドルを見ると、彼も同じように固まっていた。
「えー?」
そう言って不満そうな表情を見せる考助に、ガゼランが必死に止めにかかった。
「お前だけならともかく、コウヒやミツキもいるんだろう? 二人が全力を出したら塔自体が壊れかねんだろう?」
「そんなことないよ。塔は頑丈だから」
「そう言う問題じゃない! とにかく、全力は止めろ全力は。せめて人の中でも化け物と言われるくらいには抑えろ」
何だかガゼランの中での考助の位置が、とんでもない所に行っている気がする。
そう考えた考助は、ポツリと呟いた。
「ひどいなあ。コウヒとかミツキはともかく、僕はそんな力はないんだけれど?」
考助がそう言うと、ガゼランとドルが口をそろえて「どの口がそれを言う」と言って来た。
「分かった、分かったよ。ほどほどに、抑えて活動するよ」
最終的にそう言った考助に、それでも安心できなかったのか、ガゼランはコウヒとミツキに向かって言った。
「頼む。コウスケは無自覚な所で暴走する癖があるからな。そう言うときはお前たちが抑えてくれ。この先のコウスケが、安心してこの世界で暮らしていけるようにするためだ」
場合によっては考助のために暴走する二人だが、基本的には考助の平穏な生活を守るためには、主の暴走を止めることも出来る。
ガゼランもそれがわかっていて二人にそう話した。
「わかっています」
「当然よね」
ガゼランの念押しに、コウヒとミツキがそう言って頷いた。
そのやり取りを見た考助は、ちゃんと抑えるべき時は抑えているんだけどねえ、と呟いた。
ガゼランに抑えるように言われてしまった考助だったが、基本的には騒ぎを起こすような行動を取っているつもりはない。
普段から神威だって抑えている。
ただ、残念ながら騒ぎの方が向こうからやってくるのだからしょうがない、と割り切っている所があるだけだ。
そんなことを考えていた考助だったが、客観的に見れば暴走していると思われても仕方がない場合がある。
考助としては、降りかかりそうになった火の粉を払うつもりだったのが、結果として周囲を水浸しにしてしまうことが多々あるのだから。
これは反省するべきだろうなあ、と内心で考える考助であった。
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そんなやり取りがあった翌日。
考助達は早速ガゼンランの塔の麓に来ていた。
その雰囲気は、やはり考助達がセントラル大陸で見て来た他の塔と同じような感じだった。
ただ、一点だけ違う所がある。
それは、塔の入口のすぐ傍に、一軒家くらいの大きさの建物が建っているのだ。
その建物がガゼンランの塔の最大の特徴であり、人気がある秘密でもあった。
考助達は、すぐにその建物の中へ入って行った。
「これが塔で活動するための通行証か」
建物で手続きを終えた考助は、一枚のカードを手にしていた。
「転移門の認証カードと似ていますね」
考助と同じようにカードを手にしているコウヒがそう言った。
「まあ、実際そうなんだと思うよ。中で聞いた機能から考えると」
「一定階数を超えるとそこから行けるなんて、まさしくその通りの機能だものね」
考助の言葉に、ミツキも同意するように頷いていた。
この建物は、塔攻略ギルドが運営している建物になる。
ガゼンランの塔は、アースガルドに点在する塔の中でも珍しく、塔の中に入るために登録が必要な場所なのだ。
勿論、ガゼンランの塔自体が誰かに攻略されているというわけではない。
最初からそう言った機能があったと伝えられているのだ。
兎に角、登録を終えてカードを手にすることが出来ると、ようやくそのカードを使って塔の中に入ることが出来る。
そのカードは、塔を攻略する者にとっては便利な機能が付いていて、到達した最高階層の表示がされたりする。
それだけではなく、今確認されている階層では、五階層ごとにスタート地点が変えられる機能があるのだ。
要するに、最初から始めて六階層に到達することが出来れば、次に塔に入るときには六階層から始めることが出来るのである。
その機能は五階層毎なので、六・十一・十六・・・・・・と飛ばすことが出来るのだ。
現在到達している最高階層は第五十三階層らしいので、それ以降の階層がどうなっているのか確認することは出来ていないらしいが。
ちなみに、当然と言べきか、一緒に付いてきているナナにはカードは配られていない。
従魔はあくまでもマスター、この場合は考助の付属物扱いになるそうで、例えナナだけが先の階層に進んでもそれは認められないそうである。
ナナの戦力を考えれば残念だが、それは仕方がない。
そんなこんなで、手続きを終えた考助達は、早速塔の中へと入ることにした。
まずは様子見である。
考助達がセントラル大陸で最後の塔を攻略してから、既に十年以上が経っている。
何となく懐かしい気持ちで塔の中に入った考助だったが、すぐに脱力することになった。
「あ~。やっぱりこうなっているわけか」
目の前に広がる光景に、何処となく懐かしい思いを感じながらも、若干呆れた気持ちもある。
塔の門をくぐったと思った先には、どこかで見た時と同じ様に草原地帯が広がっていたのだ。
考助の様子を見て、ミツキが苦笑しながら言った。
「まあ、これも予想の範囲内でしょう? むしろ別のパターンがあった方が驚くわよ」
「まあ、そうなんだけどね」
考助はそう答えながら、脱力した考助を見て「どうしたの?」と言わんばかりに首を傾げていたナナを撫でてあげる。
「これならば、いっそのこと馬車で攻略したほうがいいかもしれませんね」
考助達の様子を見ながら、コウヒが冷静にそう分析していた。
「そうね。他にも馬車ごと入っていくパーティもあるみたいだし」
ミツキもそう言いながら、次々に馬車が入ってくる様子を見ている。
「まあ、それは後で考えよう。今は第一階層の様子だけ見てから宿に戻ろう」
考助がそう声を掛けると、コウヒやミツキが頷きながら塔の中へと歩を進み始めた。
そして、これが考助達のガゼンランの塔攻略の第一歩となるのであった。
はい。脱力した考助でしたw
そんなに毎回違ったパターンは出てきません。
折角新しく馬車も作ったので、そのまま活躍してもらう事にしました。




