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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 セウリの森編
516/1358

(16)手紙

 アシルの街にあるとある酒場。

 現在、アシルの街にはセウリの森の街道を巡回している軍が駐留している。

 彼らはまた数日後には、巡回のために森に入る予定になっている。

 そんな軍人たちで、酒場が賑わっていた。

 数日間の街の滞在は、彼らにとっては貴重な時間なのだ。

 その時間を使って思いっきりハメを外すのが彼らの定番だった。

 勿論、外しすぎないように厳命はされているのだが。

 

 そんな軍人たちでにぎわいを見せる酒場に、新しいお客が入って来た。

 そのお客に軍人たちの視線が集まり、すぐに驚きの顔になり、その後で首を傾げることになった。

 驚きの顔になったのは、入って来た客が美貌の女性で彼らにとっても見覚えがあったためだ。

 その後で首を傾げることになったのは、彼女が数日前にセウリの森の奥へ入って行ったことを知っていたからである。

 数日前に森の中で会った二人の美人女性の話は、軍人たちの間でもちきりだったのだ。

 コウヒとミツキの名前は、軍人たちの間にすぐに広まり、同時に一緒に行動している考助に対して怨嗟の声が上げられたのは、ある意味当然の反応といえた。


 その二人の美女の内の一人であるコウヒは、酒場に入ってすぐに誰かを探すようにキョロキョロしだした。

 そんな彼女の気を引きたい軍人たちがすぐに声を掛けて来た。

「誰を探しているんだい、コウヒさん~?」

「今日は、相棒はいないのか~?」

 やんややんやと自分に話しかけて来た軍人たちに、コウヒは首を傾げて問いかけた。

「こちらに隊長がいるとお伺いして来たのですが」

 コウヒがそう言うと、酒場の一角を占めていたスペースに軍人たちの視線が集まった。

 

 その視線を受けて、苦笑しながら隊長が立ち上がった。

「お前ら。あっさりと上官の居場所をばらしてどうするよ?」

 そんなことを言った隊長だったが、すぐに立ったことからも特に咎めていないことは分かる。

 周囲の者達もそれがわかっているのだろう。

 笑い声だけが、店内に響いていた。

 そんな部下たちを一度だけ見回して、隊長はすぐにコウヒへと視線を向けた。

「それで? 俺に用らしいが何があった?」

 若干厳しい視線をコウヒへと向けた隊長だが、これはコウヒを責めているわけではなく、森の奥へと進んだはずの彼女がこの場に居ることで、何かが発生したと考えたのだ。

 その隊長の予想に違わず、コウヒは懐から一通の手紙を出した。

「まずはこれを。詳しい話はその後で」

 それだけを言って、手紙を差し出したコウヒに一度だけ頷いてから、隊長は手紙を受け取った。

「これは、この場で読んでもいいのか?」

「問題ありませんが、出来れば周りには見せない方が良いかと」

 コウヒがそう言うと、周囲で様子を窺っていた軍人たちは、わざとらしく騒ぎ出した。

 普段は酔いに任せて騒いでいるのに、突然静まり返ったりするとまずいと判断した一部の者達が、それまでと同じような態度を取ったのだ。

 それに合わせて他の者達も騒ぎ出した。

 それを見たコウヒは、頭の中でよく訓練されている兵たちだと考えていた。

 勿論、表情に出したりはしていない。

 

 そんな中で、隊長はコウヒから受け取った手紙を開けた。

 それを覗き見るような不届き者はいなかった。

 例え密書だったり秘匿されているような文書でなくとも、許可が出るまでは見ないと徹底されているのだ。

 それでも周囲の高官たちは、隊長の様子を窺っているのがわかる。

 手紙を見ていた隊長の表情は、軍人らしく変わることが無かったが、目の前にいるコウヒには目の色が変わるのが分かった。

 手紙に書かれている内容の重要性が分かったのだろう。

 

 視線を手紙からコウヒへと移してから聞いてきた。

「例の物は?」

「ここに」

 隊長に促されてコウヒは再び懐からある物を取り出した。

 それは、考助から預かって来た『王の褒章』だった。

 隊長はそれを受け取ろうとはせずに、コウヒの手の上に乗る物を確認する。

 幾ら軍の一隊を任せられている隊長とはいえ、よその国の物まで正確に把握しているわけではない。

 ただし、コウヒの手の上にある紋章には、間違いなくタウゼン王国の王家の紋章が描かれていた。

 王家の紋章が入っている物は、そうそう気軽に扱えるようなものではないのだ。

 それだけで、手紙に書かれている内容の一部が正しいことが証明できる。

 

「・・・・・・話は分かった。それで、其方らはこれからどうする?」

 手紙には、セウリの森で起こっていることの真相(?)については書かれていたが、考助達がこれからどうするかは書かれていなかったのだ。

 その問いにコウヒは少しだけ首を傾げたが、すぐに答える。

「どうすると言われましても。これまで通り旅を続けると思いますが?」

 考助はセウリの森にいるエルフ達について色々考えているようだったが、人さらいの件に関しては特にこれ以上首を突っ込む気はないようだった。

 であれば、コウヒとしても手紙を届ける以上の事は特に何かするつもりはない。

 考助からも手助けするようにとかは言われていないのだ。


「それでは駄目だろう。事実と確認されれば、連合で報酬などの受け渡しもあるはずだ」

 隊長の申し出に、コウヒは首を振った。

「主様は、報酬の受け取りはなさらないと思います。この流れで受け取ると、タウゼン王国の所属だと思われるでしょうから」

「タウゼンの所属ではないのか?」

 そう言って首を傾げた隊長に、コウヒは再び首を左右に振る。

「今回は信用を得るために使いましたが、それだけの事です。特にタウゼン王国に所属しているわけではないです」

「ふむ。そういう事か」

 コウヒの言い分を理解した隊長が、納得したように頷いた。

「とにかく、手紙の内容に関しては分かったと伝えてくれ。無論、こちらでも調査は行うが」

「当然でしょう。しっかりとお伝えいたします。それでは」

 聞きたいことが聞けたコウヒは、もう用事はないとばかりにあっさりとそう言ってその場を後にした。

 

 残された隊長は、周囲の視線を感じながらも、さてこの件はどうする、と内心で頭を抱えながらも考えるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 考助とロマナの話し合いが終わった翌日。

 セウリの森の里のエルフ達の中で、とある噂が流れていた。

 その噂とは、里とセントラル大陸にある塔の間で、転移門が結ばれるという物だった。

 遥か悠久の彼方から里のみで閉鎖して暮らして来たエルフ達は、その話を最初は眉唾物として聞いていた。

 だが、その噂に付け加えられたある話で、それが現実味を帯びていることを察した。

 その話とは、塔の中にあるエルフの里では出生率が上がっているというものだった。

 ロマナの予想通り、もし本当に出生率が上がるのならば、と好意的に捉えられた上で噂話が広まっているのだ。

 まさしくエルフ達にとっては、藁をもつかむ思いなのだ。

 降ってわいたような話に、飛びつきたくなるのも無理はないだろう。

 

 ちなみに、セウリの森の里に風穴を開けるつもりで話を進めている考助だが、勿論それ以外の意図もある。

 以前からコレットとも話をしていたのだが、一つの里で婚姻を繰り返すとどうしても問題は起こってくる。

 そうした問題を解決するために、里の長も含めて色々と話し合っていたのだが、中々いい解決方法が無かった。

 そこでこの里の問題が出てきたためこれ幸いと利用することにしたのである。

 今頃、考助が塔へ送ったコレットが転移門の話をしているだろう。

 同じエルフ同士で交流が出来るとなれば、塔の里も混乱は最小限で済む。

 そうした意味でも今回の話は、塔にとっても意味のある話になったのであった。

隊長さん、再登場です。

でも名前は出てきませんでした><

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