(14)経緯
急展開に継ぐ急展開に観客たちがざわめく中、考助とコレットも壇上から降りた。
後のことはシオマラに任せればいい。
これ以上は、セウリの里のエルフ達の問題だ。
里の代表であるロマナがシオマラの屋敷を尋ねて来たのは、儀式があった翌日の昼だった。
大抵の事において、ゆったりとした時間を使うエルフも今回の問題は流石に無視できなかったのだ。
たった半日である程度の結果が出たようだった。
シオマラに案内をされて考助達の前に座ることになったロマナは、考助に深く頭を下げた。
「改めまして、この度は御身を煩わせる結果になりまして、誠に申し訳ありませんでした」
既に考助の事は、シオマラから話を聞いているのだろう。
殊更丁寧な態度を取って来た。
それに対して面映ゆく感じながらも、考助は小さく頷いた。
「まあ、僕自身は特に何もしていないしね。礼を言うならスピカ神を降神したコレットにするべきだと思うよ?」
考助の言葉に代表は小さく頷き、コレットへと向き直って頭を下げる。
「里を代表して感謝する」
それに対してコレットも小さく頷いた。
「まあ、私は言われるがままに儀式をしただけですからね。その結果がこうなったというだけです」
「スピカ神のお土産のおかげで、大分騒ぎの方も解明したのですよね?」
これ以上頭を下げられてもお互いに良い気分にならないので、考助はさっさと話を本題に戻した。
その意思を感じ取ったのか、ロマナも頷いて今分かっていることを話しだした。
「昨日、現人神様のお仲間が捕らえた者達から聞いた話を纏めると、里を出たがっている者達を手引きして外に出していたようです」
「手引きって・・・・・・相手は奴隷商でしょう?」
首を傾げた考助に、ロマナは苦い顔になった。
「それが、最初のうちは国が相手だと思っていたようです」
「というと?」
「そもそも、森の監視にあたっていた者が最初に接触したのが、国の国境警備兵らしくその伝手で森を出た時の職業斡旋してくれる者だと紹介されたらしいですね」
何ともおまぬけな内容に、考助は口を半開きに開け、コレットは右手を額に当て頭が痛いといった表情になった。
「・・・・・・なんというか。世間知らずにも程がありませんか?!」
例え国の軍人であっても簡単に人の言う事を信じてはいけないという基本的な教えは、この世界では当たり前の事として子供の時に叩き込まれる。
ロマナはさらに苦い顔を深めて頷いた。
「外の世界を全く知らない故の無知、とは言えないでしょうね」
「私が外に出る時でもその程度の事は知っていたのに、何故そんなのに騙されたの?」
信じられないとあきれ果てるコレットに、ロマナは深くため息を吐いた。
「全く以って同感ですが、そもそもは警備兵たちと何度か森で会う機会があって親交を深めていったようですね」
「あ~。なるほど」
里のエルフは良い意味でも悪い意味でも純粋培養だ。
何度か交流をして行くうちに、相手のことを信用するというのはあり得るかもしれない。
ただし、納得したのは考助だけで、エルフ三人は首を振った。
「そもそも森の警備に当たれるのはエルフの中でも厳格な者だけで、簡単に外の者と交流を持とうとはしない・・・・・・はずだったんですがね」
「私の時も警備の目をごまかして外に抜けるのは大変だったからね」
さっくりと黙って抜け出したことを告白したコレットだったが、それを聞いたロマナが再びため息を吐いた。
「どうやらそれも原因の一つにあるようですがね」
「はい?」
思わぬことを言われて、コレットが目を丸くした。
「あの当時、貴方に里を簡単に抜けられて、警備の者達が責められたことがあったのですよ。どうやらそれに対して腐った者が今回の件を引き起こしたようで・・・・・・。いえ、勘違いされないでください。コレットの責任だと言っているわけではないですから」
考助が思わず非難の視線を向けると、ロマナが慌てて釈明(?)した。
「そもそもコレットが里を去ったこと自体は、ほとんどの者は問題視しなかったんですよ。どちらかといえば、その、厄介者が去ったという事で安堵した者が多かったくらいでした。当時は」
「ああ、それはありそうね」
考助は聞いていて気分が悪くなったが、コレットがあっさりと頷いたのを見て、それ以上何かを言うのを止めた。
「警備が責められた云々という話は、小娘一人見つけられなかったというもので、ごく一部の者がからかい半分に口にしていたものです」
言っていた当人たちは軽く言っていたつもりだったが、言われた警備の一部の者達はそうは受け取らなかった。
そもそも森の警備に当たれるのは、エルフの中でも優秀な者達なので、そのプライドを刺激したようだった。
「後から騙されたと気付いたようですが、その時には既に遅かったらしく、結局ずるずると今の関係を続けていたようです」
呆れた経緯に、考助は再び大きくため息を吐いた。
「何というか、変な裏組織に騙されて勧誘されてそのままずっぽりはまった組員みたいな感じですね」
「コウスケ。みたい、ではなく、まさしくそのものだと思うわよ?」
一応気を使って言った考助に、コレットが一刀両断した。
それに対して、ロマナも深く頷いた。
「国家ぐるみかどうかはともかくとして、騙された者達が阿呆でした。それに気づかなかった我々も」
「あ~。こういう時は、何と言うべきなんでしょうね」
流石にかける言葉もなく、そう言うしかなかった考助なのであった。
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「ところで、国が介入しているというのは、どこまで分かっているのですか?」
考助の質問に、ロマナは首を左右に振った。
「警備兵が関わっているという事は分かっているくらいで、それ以外は特に」
「今、森に調査団が入っているようですが、それは?」
「彼らとは連絡を取り合っているわけではないので、何とも言えません。それに、彼らとも繋がりが無いとも言えないですから」
もっともなロマナの言葉に、考助は少し考える様子を見せた。
「・・・・・・コウヒ。通信具出して」
突然の考助の言葉に、コウヒは全く表情も変えずにアイテムボックスから通信具を出した。
考助はコウヒからその通信具を受け取り、ある場所へと通信を行った。
突然の通信だったにもかかわらず、相手はすぐに出て来た。
「何かありましたかな? 現人神」
考助が作った通信具は、誰が通信を行ってきているのか区別が出来るようになっている。
出た相手も考助が掛けて来たのを分かって出ているのだ。
ロマナやシオマラは、相手がだれか分からずに首を傾げていたが、次に考助が出した名前に驚くことになる。
「ええ。ちょっとした情報がありまして連絡しました。エルネスト国王」
考助が通信をした相手は、タウゼン王国のエルネスト国王だったのである。
考助は、里に入る前の街や村で聞いた話から始めて、今のエルフの里の状況を国王へと話した。
「何というか・・・・・・。相変わらず厄介ごとに巻き込まれますね、現人神」
そのエルネスト国王の言葉に、考助は苦い顔になり、コウヒやミツキ、コレットは忍び笑いをしていた。
「それで? 私に何かしてほしいのですかな?」
そう聞いてきたエルネスト国王に対して、考助は首を振った。
「いえ。単に、貴方にもらった例のあれを使っていいかを確認したかっただけです」
「・・・・・・ああ、なるほど。まあ、信用を得るため程度でしたら構わないですよ」
考助が確認したかったのは、以前に報酬としてもらった『王の褒章』の事だ。
セウリの森がある場所は、タウゼン王国とは接していないので直接的な影響はないが、相手の信用を得るためには十分使える。
ただし、国外で使う事になるので、一応国王の許可を得ておきたかったのである。
「そうですか。それはよかった」
「現人神。あまり事を大きくしないように願いますよ」
そう釘を刺して来たエルネスト国王に、考助は苦笑いをすることしかできないのであった。
はい。エルネスト国王再びの登場でした。
これで終わりですがw
ちなみに、お馬鹿さん達のことにはあえて触れません。




