(19) 神能刻印機
この話で第四章本編は終了です。
次話は閑話が一話入って次々話から第五章開始になります。
ミクセンでピーチを仲間に加えた後は、一度塔を経由して大陸の北西にあるケネルセンの街に向かった。
と言ってもケネルセンでは、特に大きなイベントは起こらなかった。
まあ街に行くたびに何か起こってた今までが、ある意味で異常ともいえるのだが。
ケネルセン周辺は、大陸の他の都市に比べて、比較的モンスターの生息が少ない地域である。
その特性と広い平地を生かして、農業地帯になっている。
と言っても、他の街に比べて農業地域が大きいというだけで、内陸の奥深くに行くと魔物が増えるのは変わらない。
当然ながら冒険者たちの需要もあるわけで、畑などの巡回や周辺のモンスターの討伐が主な仕事になっていた。
このケネルセンにも門を建てる予定だが、これは冒険者を集めるためというよりも、将来的に塔に畑などを作った際の技術者(農夫など)を呼び込むためになりそうだった。
もちろん大陸の北東、南東、南西と門を作る(あるいは作った)わけだから、北西にも作っておきたいという理由もある。
それで塔の村が流通の拠点になればいい。
複数の門を自由に使える商人は、クラウンのメンバーだけになるが、メンバーになってない者にとっても十分利益は出せると、シュミットと話していた。
そういうわけで、ケネルセンは考助にとって特に見るべきところもないので、視察をある程度で終わらせて、塔へと戻った。
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考助がケネルセンから戻ってきたその日のうちに、塔の村の神殿で話し合いが行われていた。
メンバーは、考助、コウヒ、ワーヒド、シュミットである。
もっともコウヒに関しては、いつも通り考助の護衛のみで話すことは無いだろう。
集まった会議室で、考助は一枚のカードを差し出した。
クラウンカードである。
イグリッド族に頼んでいた装飾が出来たので、持ってきたのだ。
「これは、また素晴らしい出来ですね」
カードをみたシュミットの感想だ。
横ではワーヒドも頷いていた。
「これを一応の完成形として、クラウンカードを発行していきたいんだけど大丈夫かな?」
「問題ないかと」
ワーヒドが、カードを見ながら頷いた。
「ただ、これだとかなり値が張るのでは? それと作成数は大丈夫なんでしょうか?」
シュミットが、もっともらしい質問をしてきた。
「数に関しては、前に聞いた数で、特に問題ないって確認できてる。あとは、値段なんだけど・・・今は厚意で作ってもらってる状態だから、いずれはきちんと対価を出さないといけないだろうね」
「なるほど・・・」
シュミットは、このカードをどうやって作っているかは聞いていない。
とはいえ、鈍いわけではないので、ある程度の当たりは付けている。
塔の中にヒューマンの村を作ろうとしているくらいだ。
他の種族だって呼び込んでいてもおかしくはない、という想像くらいはできる。
「基本的には、現物で納品することになると思うけど、その辺は大丈夫ですか?」
当然そういった物の仕入れは、クラウンの商業部(正式名はまだ未定)が行うことになる。
「問題ありません」
「よかった」
シュミットの返事に、考助が頷いた。
「あ、あとクラウンカード作成機だけど、一応『神能刻印機』って呼ぶことにしたけど、どう?」
「神能刻印機ですか・・・?」
「うん、まあ、いつまでもギルドカード作成機とかだと、他のギルドの物と被りそうだし、一応ね」
「ああ、なるほど。そういうことですか」
今度はワーヒドが頷いた。
シュミットは、あくまでも商業部門のトップだ。
クラウンの統括は、今のところワーヒドになっている。
「問題ないでしょう」
「じゃあ、今後はそれでよろしく。それで、あと門に関しては、ケネルセンも問題ないみたいだから、進めてしまっていいよ」
ナンセンとミクセンに関しては既に伝えてある。
「かしこまりました」
「・・・やはり、三つ同時に開通するのですか?」
考助とワーヒドのやり取りに、シュミットが疑問を投げかけてきた。
「うん。何か問題ですか?」
「問題というより・・・インパクトは大きいでしょうね」
「リュウセンが開通した時より?」
「・・・まあ、間違いなく」
他三つの予定している門が開通すれば、間違いなく大陸内の商品の流通に大きな影響を及ぼすことになる。
それに各地の商業ギルドが、気づかないはずがない。
「うーん・・・まあ、どうやって食い込んでいくかは、シュミットさんとワーヒドに任せます」
時には、武力を使うことになることもあり得るだろう。
場合によっては、コウヒとミツキの出番ということも厭わない。
まあ、その前には、ワーヒド達がいるわけだが。
「一番いいのはやはり、この塔の産物でそれぞれの街に無い物を出していくことでしょうね」
自分たちも利益になると分かれば、滅多なことはしてこないだろう。
彼らには塔を攻略できるだけの力は無いのだから。
「ああ、そうだ。それで思い出した。シュミットさん、ドラゴンってやっぱり素材としては、高級品?」
「それは、勿論・・・ということは、まさか!?」
考助の突然の質問に、出会った時のやり取りを思い出したのか、シュミットは驚きの表情を浮かべた。
「うん、まあ、あれをクラウン結成の目玉商品として使えないかな~、とか思ったり」
「・・・やはり、あるんですか・・・」
シュミットは、思わず頭に手を当てた。
ドラゴンの素材など、まず出回ることなどない。
そもそも討伐されること自体が無いのだから当然だ。
ドラゴンと呼ばれているモンスターにも当然、上下のランクはあるが、下に位置するドラゴンですら、ここ数十年は討伐されたという話は聞いたことが無かった。
「あります、というかそもそもドラゴン倒せないと、この塔を攻略することはできないわけで・・・」
そう言われてみれば、シュミットも納得する。
そもそも考助たちが、この塔を攻略しているからこそ、その中に村を作るなんて言う芸当もできるわけだ。
「・・・・・・まあ、これ以上ないほどの宣伝にはなるでしょうね」
「ちなみに、複数頭分出せますので、商業ギルドには、それを餌にすることも可能ですよね?」
考助のその確認に、シュミットは完全に座っていたソファに沈んでしまった。
餌どころではなく、逆に余計なものまで呼び込みそうである。
とはいえ、それらを奪ったりすることなど、ほぼ不可能なのだが。
逆に、ドラゴンを倒せるものがいるという事実が、クラウンを守る最大の防御になるだろう。
「・・・・・・まあ、これ以上ないほどの餌になるでしょうね」
完全に呆けたシュミットは、やっとの思いでそう絞り出した。
はっきり言って、どれほどの利益になるか想像すらつかない。
クラウン結成の資金としては、十分すぎるほどの資金になるだろう。
その後は、クラウン結成はいつにするかとか、その宣伝はどうするかなど細かい話をして、その日の話し合いは終わった。
人員そのほかの問題があるため、今すぐというわけにもいかないのである。
取りあえずドラゴンの素材は小出しにすることにして、最初だけ一頭分をまとめて出すことになった。
クラウン結成は、リュウセン以外の三つの門を開通する一週間ほど前にすることにした。
それまでに、細かい規定などを決めなければならないが、その辺は他のギルドを参考に、ワーヒド達が考えることになっている。
クラウン運営に関しては、軌道にさえ乗れば、後は考助も直接手を出すことがほとんどなくなるだろう。
まあその軌道に乗せるまでが、大変なのだが。
そんなわけで、考助が去って行った後もワーヒドとシュミットは、更に細かい話し合いを続けるのであった。
やっとギルドカード作成機の正式名称が出てきました。
神能刻印機・・・・・・自分ではこれが限界でした。
神力を使って能力を刻む機械、みたいな?
ご意見をいただいた方、大変参考になりました。ありがとうございました。
2014/6/9 誤字脱字訂正




