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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 セウリの森編
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(9)きっかけ

 コレットとその両親の対面は、短時間で終わった。

 対面が行われたのはシオマラの屋敷だったのだが、屋敷に呼ばれた理由を知らされていなかったのか、部屋にいたコレットを見て二人は驚いていた。

 その時、考助の印象に残ったのは、父親の後悔したような表情だった。

 その表情が出たのは一瞬だけだったのだが、確かにコレットによく似た口元が歪んでいた。

 もっとも、その後はただ淡々と三人の話が続いただけだった。

 傍から見ている考助にも、既にそれぞれが家族として認識していないのだと理解できた。

 コレット自身も、両親の事を特に恨みに思っているなどはなさそうで、単に事実の確認をして行ってるような印象を受けた。

 既にそれぞれがそれぞれの道を歩いているんだというのが考助の印象だった。

 これを見た考助としても、わざわざ関係改善に手を入れようとは思わなかった。

 コレットが納得しているのであれば、それでいいのだ。

 勿論、コレット自身に何か悪事を行おうというのであれば、それに全力で立ち向かうつもりでいるつもりだ。

 

 対面を終えた時のコレットの表情は、ひどくさっぱりとした表情になっていた。

 考助からみれば、完全に過去を断ち切れたんだろうと想像したが、本当の心の内は分からない。

 この後もコレットから両親について聞く機会はほとんど訪れなかったのだ。

 考助としても無理に穿り返すつもりはない。

 本人が話したければ話せばいいというのが考助のスタンスだった。

 もっとも、このことが本人に悪影響を及ぼすのであれば、遠慮なく突っ込んだりはしただろうが、コレットも両親の事が影響するという事がほとんどなかったのだ。

 この時に考助が感じた過去を断ち切れたという感想は、間違っていなかったという事になる。

 

 コレットが吹っ切れた表情をしていたのと対照的に、この席を設けたシオマラは寂しそうな表情になっていた。

 両親と対面したあとで、しばらく一人になりたいと言ったコレットを気遣って一人にさせた時にポツリと呟いていた。

「・・・・・・結局、元の鞘には戻りませんでしたか」

 そのシオマラの言葉に、考助が反応した。

「元の鞘というと、妹が生まれる前の事ですか?」

「ええ。あの頃は、周囲の状態にもかかわらず、仲が良かったですから」

 昔を懐かしむように目を細めるシオマラに、考助は別の感想を抱いた。

「なるほど。エルフか、あるいはハイエルフというのは、本当に現状が変わることを忌避するのですね」

「え?」

 自分の言葉から何故そのような感想を抱いたのか分からずに、シオマラは目を瞬いた。

 それを見て考助は自嘲気味に苦笑した。

「人、特にヒューマンは、時の流れに身を任せてその時々で判断します。・・・・・・それが良いか悪いかは別にして。だからこそ、今回のようなときはそれぞれの道を進んで行けばいいと考えます」

 考助は一旦そこで話を区切ってから更に続ける。

「ところが、貴方は昔の在りし日の事を思い浮かべて、その時に戻ればいいと仰った。昔の関係が良かったときのことを思い出して、その時の関係が続いていればよかったと考えたわけです」

 勿論、一概に全てのヒューマンがそうである、あるいはエルフがそうであるとは言えない。

 それに同じ人でも、それぞれの状況で対応が変わることが往々にしてあるだろう。

 だが、この世界で色々な種族と接触して来た考助には、どうしても種族ごとのそうした気質があるように感じてならないのだ。

 あくまでも考助が個人的に感じている事であって、実際にそうであると証明できることではないのだが。

 

「それは・・・・・・」

 考助の話を聞いて、考え込むような表情になったシオマラだった。

 それを見た考助は、慌てて右手を左右に振った。

「あ、勘違いしないでくださいね。それが悪いことだと言っているわけではないのです。むしろ、いい事だってあるでしょう」

「え?」

 思わずと言った感じで目を瞬いたシオマラを見て、考助は苦笑した。

「もし、ヒューマンの在りようが本当に良い事なのであれば、どの種族だって取り入れているでしょう。そうでないという事は、どこかに悪い面もあるんですよ。必ず」

 そうでなければ、別の考え方をする種族は駆逐されているはずです、といささか乱暴な物言いをする考助に、シオマラはクスリと笑った。

 少しだけ落ち込んでいるシオマラを勇気づけるために、わざとそうした言い方をしたことがわかったのだ。

「・・・・・・コレットがあそこまで変わることが出来たのは、貴方のおかげなのでしょうね」

 突然そんなことを言い出したシオマラに、考助は目をぱちくりとさせた。

「いや。先ほどコレットも言っていたと思いますよ。僕のせいではなく、シルヴィアという女性のおかげだと」

 そんな考助の言葉に、シオマラは首を左右に振った。

「きっかけはそうでしょうが、今のコレットがいるのは貴方のおかげだと思いますよ? これは女性の勘です」

 シオマラの最後の言葉に、考助は言葉を詰まらせた。

 女性の勘を持ち出されると、男性の身としては否定しづらくなる。

 

 そんな考助を見て、予想外のところからシオマラの援軍が来た。

 二人の話を黙って聞いていたミツキだ。

「シオマラの話は当たっているわよ。コレットがあそこまで変わったのは、間違いなく貴方のおかげ」

 そのミツキを援護するように、コウヒもコクコクと頷いていた。

「あら、やはりそうでしたか」

 コウヒとミツキの様子を見て、シオマラが顔を輝かせた。

 それを見た考助は、嫌な予感を覚えた。

 どう見ても、女性同士の恋話が始まりそうな気がする。

 しかも話の中心は自分とコレットだ。

 出来ればその話は避けたいと考えた考助だったが、残念ながら逃げることはできなかった。

 考助達のいる部屋に戻って来たコレットが、彼女達の話に加わったのだ。

 

 結局そのあとは、コレットの考助自慢が始まり、それにコウヒとミツキが同調して、考助としては身の置き所がない状態となってしまうのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 <活霊の儀>にコレットが加わるということは、エルフの里の者達には一切知らされることは無かった。

 そもそもコレットが、セウリの里にいることはほとんどのエルフは知らない。

 シオマラの屋敷で働いている者達の中でもごくわずかな者達が知るだけだった。

 その者達にもコレットが<活霊の儀>を行う事は知らせていないのだから、誰にも伝わらないのは当然の事だった。

 考助にしてみれば、そんなんで儀式をしても大丈夫なのか、という思いだったのだが、コレットとシオマラ二人に速攻で大丈夫だと頷かれてしまった。

「<活霊の儀>に関しては、巫女が一手に引き受けている儀式だもの。他からの口出しはないわ」

「あったとしても、周りから叩かれるでしょうね」

 <活霊の儀>で巫女がやることに口を出せば、それだけで世界樹に対して口出しをしているということになるらしい。

 世界樹に守られているエルフの社会では、世界樹に口を出すことは神に文句を付けるのと同じことなのだ。

 

 二人の説明に納得して頷いていた考助は、ふと思い出したようにコレットをみた。

「あれ? そう言えば、あっちでは<活霊の儀>なんてやってた?」

「やっているわよ、勿論。<活霊の儀>って要するに、世界樹が汲み上げている力の一部を貰いましょう、って儀式だもの」

 コレットの説明によると、世界樹が変換している神力の一部を貰って、周辺の生物たちの成長に活用するのが<活霊の儀>ということだった。

 もっとも、コレットも<活霊の儀>の本来の意味が分かったのは、神力を扱えるようになってかららしい。

 現に、コレットの話を聞いたシオマラが、大きく頷いていた。

「てことは、今日はあっちでは、儀式は・・・・・・」

「先に行ってやってくるわよ。本来の儀式自体は短時間で終わるから」

「ご迷惑をおかけします」

 シオマラがそう言って頭を下げるのを見て、コレットが慌てて首を振った。

「迷惑だなんて思っていませんから、止めてください」

 そもそもが此方の世界樹からの要請なのだ。

 断れるはずもないし、断る気もなかったコレットである。

 

 のちのセウリの里で、<ユッタの大変革>と呼ばれるようになる最初のきっかけまで、あと少しなのであった。

コレットと両親の対面でした。

色々なご意見はあるでしょうが、結局こういう結論にしました。

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