(21)現人神
国王との面会が決まった時に考助が決めたことは二つある。
一つは、献上品の目的を国王本人から聞き出すこと。
もう一つが、エルネスト国王の資質を見極めること。
その結果が、考助が創りだした空間でフローリアから直接通信具を渡してもらう事になった、というわけだ。
フローリアには前もって何も言っていなかったのだが、この空間に呼ぶ直前に通信具だけ持っているように心話で伝えていた。
そこまでの事情は知らないが、エルネスト国王としてもここで通信具を渡されたことは、喜ばしいことだった。
何者にも阻害されず、国同士のトップが直接の会話を持てるということは、それだけで強いつながりになる。
例え将来敵対することがあったとしても、そうしたルートを持っているべきなのだ。
こうした物が何もない方が、長期化してしまうのだ。
「ありがたく頂戴するが、本当に良いのか?」
エルネスト国王がフローリアへと問いかけた。
「良いも何も・・・・・・現人神のお墨付きなんだが、何か問題でもあるのか?」
ここぞとばかりに神であることを強調するフローリアに、考助は内心で苦笑しているが敢えて余計なことは言わないでおいた。
「む・・・・・・いや、そうか」
一瞬考助へと視線を向けたエルネスト国王は、納得したように頷いた。
「ともかく詳しいことは、後ほどそれを使って話すとしよう。この場はさほど長くはもたないのであろう?」
「ああ。そうだね。今すぐどうこうというわけではないけれどね」
フローリアに水を向けられた考助は、頷きながら答えた。
「それからエルネスト国王。この場から元の場所に戻った時は、ほんの数秒しかたっていません。多少の違和感があるかも知れませんが、ご承知おきください」
「承知した。・・・・・・しかし、今更であるがこのような態度でよろしいのか?」
神であることを知っても考助とフローリアの態度に流されて、神に対するような物言いをしてなかったことに今更ながらに気付いたエルネスト国王だった。
「ははっ。それこそ今更であるぞ、エルネスト国王。コウスケは元々こういう存在だ。そんなことで一々目くじらを立てるような者ではない」
「そうか」
「それに、向こうに戻れば僕の立場はあくまでCランク冒険者です」
その一言で、エルネスト国王は考助が何を望んでいるのかを察した。
「なるほど。確かに神の勅命、承った」
冗談めかしたエルネスト国王の言葉に、フローリアが楽しそうに笑った。
「なるほど。考助のお眼鏡は確かだな」
考助が現人神であることを知っても態度を変えない者は、それだけで貴重な存在だ。
エルネスト国王の言葉からそれを感じ取ったフローリアがそう言うと、考助も大きく頷いた。
同時に残念そうな表情になる。
「ああ。残念ながらそろそろ時間切れだ」
考助がそう言うと同時に、エルネスト国王の視界が元の部屋へと戻るのであった。
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考助が創りだした空間から戻ったエルネスト国王は、急激な視界の変化に一度だけ瞼を瞬いた。
経っている時間が数秒であることに、まだ頭が付いてきていないのだ。
「エルネスト国王?」
数十秒ほどのことだったが、違和感を覚えたのか側近の一人がエルネスト国王へと話しかけて来た。
それを片手で制した国王は、言葉を続けた。
周囲の者達には、何かを考えていたように見えただろう。
「いや。何でもない。それで、渡したいものとはこれで終わりか?」
エルネスト国王から視線を向けられた考助は、一つ大きく頷いた。
「ええ。希望をお聞きくださりありがとうございました」
「ふむ・・・・・・。だが、褒美としては足りない気がするな」
何食わぬ顔でそう会話を続けたエルネスト国王だが、要は献上品の輸送に加えてラゼクアマミヤとの通信具の件も加えると、褒美としては全く足りていないと言いたいのだ。
そう言われた考助は首を傾げた。
「そう言われましても・・・・・・。私としては先の二つで十分ですし、適当な褒美など思いつきません」
考助の言葉を聞いたエルネスト国王は、内心でそうだろうなと考えている。
何しろ相手は現人神だ。
いや。例え神でなくとも、噂どおりであるならば、十分すぎるほどの資産を稼いでいる。
金も物も十分に満足させられるような褒美が何も思いつかないエルネスト国王は、しばらく考え込むように上を見上げていた。
だがそれも数十秒の事で、やがて真っ直ぐ考助に視線を向けた。
「では、其方たちには『王の褒章』を渡すことにしよう」
それを聞いた考助は首を傾げるだけだったが、周囲にいた者達は騒めきだした。
「王。本気ですか?」
側近の一人が問いただして来たが、エルネスト国王は首を縦に振った。
「ああ。この者達には、あれが一番良い褒美になろう」
「ですが、それではあまりにも・・・・・・」
釣り合いが取れない、と言おうとした側近だったが、国王はそれを制した。
「『王の褒章』に関して決める権限があるのは、国王である吾一人だ。其方らは、それに口を挟むのか? ついでに言えば、過去にも貴族以外に渡されている者もおる」
エルネスト国王がそう言うと、諌めようとした側近も含めて周囲の者達のざわめきが収まった。
「ふむ。では決定という事でいいな?」
国王のその言葉に、顔をしかめる者はいたがそれ以上口で何かを言おうとする者はいなかった。
周囲を見回してそれを確認した国王は、改めて考助へと視線を向けた。
「冒険者コウ。それからコウヒとミツキ、だったか。其方らには『王の褒章』を褒美として渡すことにする。この褒章を持っていれば、国内であれば王の威光に守られていることが示すことが出来る」
簡単に言えば、『王の褒章』を持っている者は国王に守られている事を示すため、下手に手出しすることが出来なくなる。
国内においてもそうだが、国外においてもこの褒章を持つ者はタウゼン王国と強いつながりを示すことが出来るのだ。
もっとも考助達はそのような物は必要としないので、わざわざそれを表に出すことはしないだろう。
逆にタウゼン王国以外で出した場合は、王国の者だと勘違いされてしまう。
「ありがたく頂戴いたします」
いらないと拒否してもいいのだが、敢えて考助は受け取ることにした。
それは、エルネスト国王の思惑をしっかりと読み取ったためだ。
『王の褒章』は、考助達のためだけに渡すのではない。
どちらかといえば、タウゼン王国のために渡すのだ。
この褒章を持っていることで、国内の者達は貴族も含めて余計な手出しができなくなる。
考助達に手出しをして、馬鹿な者が暴走をすることを防ぐ目的がある。
考助達にとっても、煩わしいちょっかいが無くなるので丁度いい。
一般の者達に『王の褒章』を見せても何の効果もないが、総じて立場を利用して馬鹿なことをすることが多い貴族たちにとっては、かなり効果がみこめる。
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考助が『王の褒章』を受け取ったことにより、今回の対面は無事に(?)終了となった。
エルネスト国王とフローリア女王が対面していたという事は、当然他の誰にも知られることは無く、次代の国王だけが知る事実となる。
次代の国王である息子に、エルネスト国王は後にこの時の対面のことをこう語った。
「あの方のことを現人神というのは、上手く表現していると思ったよ」
人でありながら神という存在でもある現人神。
考助の在りようは、エルネスト国王にとってまさしく現人神そのものに感じたのであった。
というわけで、なぜかエルネスト国王から過大評価(?)を得た考助でしたw
これで献上品に纏わる話は終わりです。
次は・・・・・・どうしましょうか。
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ちょっと宣伝もどきを。
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以上、もどきではない露骨な宣伝(?)でしたw




