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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第1章 タウゼン王国編
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(19)報酬

「さて。聞きたいことは大体聞けた」

 エルネスト国王はそう前置きをしてから視線を考助から外して、他の者達へと向けた。

 その視線を受けたレネー達は、緊張に身を固めた。

「そう固くなるでない。其方たちに褒美を取らせようと思っただけだ。何がいい?」

 突然の申し出に、それまで以上に身を固める一行。

 それを見た考助は、苦笑をして助け舟を出した。

「王。突然そんなことを言われても緊張で思い付きなどしませんよ」

「・・・・・・ふむ。それは困ったな。出来ることなら、間に余計な者を挟まないで聞いてみたかったのだが」

 エルネスト国王の言葉を聞いた考助は、彼が言いたいことを正確に理解した。

 事前に褒美を知らせるとなると、どうしても官僚などの意見が入ってしまう。

 そのため、直接聞くことによって何を褒美として欲しがるのかを知りたかったのだ。

 とはいえ、レネー達も今回の件がどれくらいの物を要求できるのかが分からない。

 間に官僚が立つのは、ともすれば不正の温床になり兼ねないが、そうした手助けなども含まれているのだ。

 

 相変わらず固まったままのレネー達に、考助が助け舟を出すことにした。

「護衛の最中に話していた物があるでしょう。あの程度は要求しても問題ないと思いますよ」

 今度は考助の言葉に、レネー達がぽかんとなった。

 確かに旅の間に「もし謝礼が貰えるなら何がいいか」という話を冗談交じりに話していたことがある。

 まさか、本当にこんな機会に巡り合うことになるとは思っていなかっただけだ。

「ほ、本当にか?」

 一番早く立ち直ったクレールが、恐る恐る考助に聞いてきた。

「ええ。国王から話を聞いた限りでは、問題ないかと思います」

「なんだ? 欲しい物があるのか? 取りあえず言ってみよ。駄目だったら駄目と答えるだけだ」

 考助の助け舟に国王も乗っかって来た。

 傍にいる王国側の人間たちは、国王の申し出だけに止めることも出来ず、一部の者達は苦虫を噛み潰したような表情になっていた。

 

 考助とエルネスト国王の勢いに恐れてか、一度ごくりと唾を飲み込んでからクレールがそっと希望する物を言葉にした。

「で、では・・・・・・パーティメンバー分の武器を、出来れば所望したく・・・・・・」

 ガチガチに緊張しているせいか、言葉使いが多少怪しかったがそれでも何とか希望を口にすることが出来た。

 それを聞いた国王は、キョトンとした表情になった。

「なんだ、その程度でいいのか? よかろう。後ほど其方たちのメンバー分の武器を送ることにする。他の者達は?」

「で、では、私達も同じ物を!」

「わ、私は出来れば行商用の馬車を頂ければ・・・・・・」

 クレールの後に続けとばかりに、他の二人もそれぞれの希望を申し出ることが出来た。

「そろいもそろって欲がないのだが。その程度であれば問題などあろうはずがない。しっかりと贈ることにしよう」

 そう言った国王の言葉に、レネー達三人は顔を輝かせることになった。

 それを満足げに見た国王は、最後に考助へと視線を向けてニヤリと笑った。


「さて。其方が一番厄介になりそうだな」

 その言葉に、考助は肩を竦めた。

「そんなことは無いと思いますが・・・・・・希望は、二つあります」

「む?」

 まさか褒美を二つ望むと思っていなかった国王は、首を傾げた。

 前代未聞の申し出に、周囲の者達も騒めいている。

「先に断わっておきますが、金銭とかではありません」

「フム・・・・・・もうしてみよ」

「はい。では・・・・・・一つ目はある質問するので、それに対する答えが欲しいです。勿論、答えを出すか出さないかは国王に任せます」

 意味の分からない褒美に、非常識なと騒めいていた周囲の者達も別の雰囲気になった。

 質問の答えを褒美としたいなど、それこそ前代未聞なのだ。

 

 考助としては、これが聞きたかったために国王の呼び出しに応じたと言っても良い。

 そんな考助の意図を感じたのか、今まで楽しそうな表情だった国王の表情が真面目な物に戻った。

「む・・・・・・。申してみよ」

「そうですね・・・・・・。今回の件で、欲しかった物は手に入りましたか?」

 これが、考助が国王に聞いてみたかった質問だった。

 単純に献上品について聞いているようにも思えるが、勿論そんなことはない。

 考助が聞きたいことは、この献上品輸送の本来の目的だ。

 だが、普通に聞いても周囲の者達がいるためまともには答えてくれないだろう。

 だからこそ敢えてこんな聞き方をしたのだ。

 国王にきちんとその意図が通じると分かった上でのことである。

 

 そもそも今回の献上品の輸送にはおかしなことがある。

 献上品の中身自体は、高ランクの冒険者でも狩ることが出来るモンスターの素材だ。

 金さえ出せば、簡単に手に入れることなど出来るだろう。

 わざわざ献上品だと周囲の者に知らせてまで、運ぶような物ではない。

 しかも、こうした献上品の輸送は、ヘイノから聞いた所によると中身が色々変わって、昔から行われているという事だった。

 それこそタウゼン王国の建国当初からだ。

 ならば別の目的があると考えるのは自然のことだろう。

 その目的が何なのかは、今まで色々と探られてきていたのだが、今もって判明してはいなかった。

 だが、国王に会うまでは確信が持てなかった考助も、先ほどまでの話で確証を持つことが出来た。

 だからこそ、先程の質問をしたのだ。

 別に答えを得られなくとも構わないのだ。

 

「ふむ・・・・・・」

 質問を受けた国王は、少しの間じっと考助を見て、更に周囲を見回してから答えた。

「ああ。中々いい品を持ってきてくれた。だからこその褒美だ」

 献上品については、という意味にしか取れないような言葉だったが、国王の態度で十分すぎるほどの答えを貰えた。

「なるほど。それはよかったです」

 そのため考助もそう短く答えた。

 二人のやり取りの本当の意味に気付けたものは、きわめて限られた者達だけだった。

 考助が見た感じだと、国王の傍にいる側近の一人だけが気づいていたように見えた。

 それ以外の者達は、表向きは表情を変えていたりはしていないが、意味が分かっていないように感じた。

 

 この献上品の輸送は、国内の貴族たちの動きを王家が見張るために行われていたのだ。

 今回は表向き第一騎士団と第三騎士団の争いが起こっていたが、それ以外にも考助達の分からない所で色々な動きを起こしていただろう。

 そうした行動を見て、国内における貴族たちの立ち回りなどを見ているのである。

 場合によっては、やりすぎた者は処分なども行われることになる。

 今回も犯罪組織を使ってあまつさえ、輸送者の命も狙っていたのだ。

 ここまで予想して冒険者ギルドに王家として依頼を出したのかは分からないが、王家に対する「献上品」を狙った者は、それなりの処分が下されることになるのだろう。

 どういう処罰が下されるのか、あるいは裏で別の取引があるのかは考助には分からない。

 献上品輸送は、いわば王家の国内統治の手段の一つとなっているというのが考助の考えだった。

 そして、それは間違っていないと今の王の態度で知ることが出来た、というわけだ。

 これ以上は考助もどうこう言うつもりはない。

 後は国王と王国で決めることになる。

 前にも語った通り、冒険者の役目は依頼を受けてそれが達成できればそれでいいのだ。

 依頼主の本来の思惑などは、犯罪などに使われるとかでない限りは、関係ない。

 それ故に、今回は「報酬」という形で答えを貰ったということにしたというわけだ。

 結果としては、十分すぎるほど満足な答えを得られた。

 

 これで「報酬」の一つは得ることが出来た。

 考助が望んだ「報酬」はさらにもう一つ。

 その「報酬」は、考助というよりもむしろタウゼン王国にとっての大きな「報酬」になったと、後にエルネスト国王は、自身の後継者である息子に語ることになる。

報酬の話でした。

他にも裏では色々動いていることになっていますが、考助にはかかわりがないので話としては書きません。

書くといつまでたっても終わらないですしw


長くなった「献上品輸送編」ですが、ようやく終わりが見えてきました。

もう一つの褒美をもらった後は、王都を旅立つことになります。

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