(6)珍しい条件
本来であれば、護衛任務に就いている冒険者たちの食事は複数回に分けられる。
ところが、考助達が含まれるとその必要がなくなる。
何故なら食事中であっても索敵に優れるナナがいるためだ。
そのため、初めての食事の時から一度に行われることになっていた。
そのメリットは、複数回に分ける必要が無いので、食事の時間が短くて済むという事だ。
その分、出発を早めることが出来る。
移動中の食事の食材に関しては、レネー達商人が用意している。
元々の予定では彼らが食事まで用意することになっていたのだが、ミツキが食事を作った時から完全に彼女が担当することになっていた。
出来るだけ美味しい食事を取りたいというのは、全ての人の欲求なのだ。
「今回の依頼は色々な意味で良い依頼だが、この食事だけでも同行する価値はあるな」
「まったくだぜ」
「まったくおしいな。是非とも仲間に入ってほしかったが」
「まあ、あの様子じゃあ無理だろうな」
「諦めろ」
食事をとっている冒険者たちから、口々にミツキを褒め称える言葉が出てきていた。
勿論、冒険者たちはミツキだけではなくコウヒにも注目している。
実際の戦闘はまだ行われていないが、Cランクというだけで勧誘の対象になるのだ。
ましてや二人の美貌では、勧誘されないはずがない。
考助もそれは分かっているので、勧誘すること自体は止めることは無かった。
もっとも、コウヒもミツキも最初の頃にきっぱりと拒絶したため、今では勧誘が行われることはない。
冒険者の一人が少しばかり強引に誘おうとしたのだが、二人を怒らせたことがあってからピタリと止まったのだ。
一緒に同行している冒険者たちは、全員がDランク以下なので、実力では敵わないと分かっているのである。
その上でわざわざ逆鱗に触れようとする愚か者は、幸いにしてこの中には居なかった。
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今回の商隊では、普通ではありえないことに夜食の最中に多少の飲酒が許されていた。
ナナという最高の護衛がいるため、全員が夜営に立つことなく眠ることが出来るためだ。
流石に酒は自費となる。
普通は飲めるはずがない酒が飲めるようになったのは、ナナの事を理解しつつあったレネーが考助に夜の警戒が出来ることを尋ねた時のことだ。
当然考助は、大丈夫だと答えたのだが、それを聞いたレネーが行商用に積み込んでいた酒のいくつかを冒険者たちのために封を開けたのだ。
勿論善意ではなく、冒険者達に酒を売るためだ。
卸売として商店に卸すよりも、冒険者たちに売った方が利益が高い。
元々注文されている以外の商品は、レネーが手を付けても問題ないのだ。
そんなわけで、レネーの商売と冒険者たちのちょっとした楽しみとして、飲酒が解禁されているというわけだ。
いくら飲酒が許されているとはいえ、べろんべろんに酔えるほどの深酒が許されているわけではない。
ナナが警戒しているが、戦闘が全く起こらないわけではないのだ。
とはいえ、中には酒の勢いで羽目を外してしまう者も出てくる。
今、考助に絡んでいる若い冒険者は完全に酒に飲まれていた。
「・・・・・・大体、なんであんたみたいのが、パーティのリーダをやっているんだ? コウヒさんかミツキさんがすべきだろう?!」
酒の勢いで口が滑ったのか、あるいは元々言おうと思っていたのかどちらか分からないが、そんなことを言って来た。
考助も相手が酔っていることを承知しているので、特に気にしたりはせずに軽く受け流している。
「ハハ。まあ、そうかもね。でも二人が良いって言ってくれているからね」
ところが、相手はその答えが気に入らなかったのか、眉をよせてさらに詰め寄って来た。
「守られているだけで、情けないとは思わないのか!? 大体っ・・・・・・?!」
更に何かを言おうとしたところで、パーティの仲間の一人に止められた。
「ユーリー、止せ」
「カルラさん、けど・・・・・・!」
更に何かを言おうとしたユーリーに、カルラは首を振った。
「あんたは勘違いしているようだが、コウはわたしらが束になっても敵わないよ」
「えっ・・・・・・!?」
「ほう。そこまでか?」
カルラの言葉に、ユーリーは呆然として、同じパーティのリーダーであるクレールが興味を示した。
「なんだい。リーダーも気づいてなかったのかい?」
「俺より強いとは思っていたがな。全員でかかっても敵わないとは思っていなかった」
「まあ、そんなもんか」
カルラは一つ頷いてから話を続けた。
「私が普段使っている精霊たちが、コウの周囲でざわめいているからね。そこまで精霊たちに好かれている人を見るのは初めてだよ。他にも色々隠しているだろう?」
「貴方は精霊が見えるのですか?」
思ってもみなかった言葉に、考助が目を瞬いた。
まさかカルラが精霊使いだとは思っていなかったのだ。
「見えるほどではないよ。せいぜい感じる、と言った所だね。魔法として使えるのも弱い力だけだし」
カルラはメインは魔法使いだが、精霊も多少は使える。
使えると言っても魔法の力の方が強いので、いざというときの切り札として精霊を使っているのだ。
そうは言っても、実行できる力は弱いので、不意打ちとかになるのだが。
それはともかくとして、精霊を感じる力に関しては、並みの精霊使いより遥かに強い。
そのカルラは、考助の周りに多くの精霊たちが集まっていることを感じ取っていた。
これは、四大妖精を従える考助の傍に精霊たちが寄ってきているのだが、そこまではカルラには分かっていない。
「なるほど。そうでしたか」
考助も納得したように頷いた。
神威は完全に抑え込んでいるので、神と気付かれているとは思っていなかったが、精霊の力に関しては盲点だった。
何が何でも隠すつもりだったわけではないので、特に口止めしたりするつもりもない。
「やっぱり、あんたも精霊を使うんだね」
「まあ、似たようなものですね」
正確には精霊ではなく妖精なのだが、そこまで言うつもりはない。
今更遅い気もするが、余計なことで注目を浴びるのは本意ではないのだ。
これ以上さらに目立つ要素を加えるつもりはない。
「そうかい。まあ、これ以上は聞かないよ」
そうした考助の想いに気付いたのか、カルラはそれ以上は聞いてこなかった。
黙って二人のやり取りを聞いていたクレールも同じだ。
だが、その二人に反して、若いユーリーはそれでは収まらなかった。
「なんだ。結局、ただの口先だけじゃないのか?」
先輩二人の言葉を差し置いて、そんなことを言って来た。
それに対して考助が何かを言うより早く、クレールがユーリーを抑えにかかった。
「・・・・・・ユーリーお前は飲み過ぎだ。罰金に関しては、明日酔いがさめてから話そうか」
そう言ってユーリーを引っ張って行った。
ちなみに、飲酒が許されているのはほろ酔い程度までで、それを越えると罰金がある。
折角の良い条件の護衛依頼の報酬を減らすつもりがない冒険者達は、しっかりと加減して飲酒していたが、若いユーリーは抑えがきかなかったようだ。
「済まないね。ユーリーの奴もあれさえなければ、もっと伸びるだろうに」
暗にいつもユーリーが酒に飲まれていることを示唆したカルラだったが、仲間の振る舞いにはしっかりと頭を下げて来た。
それに、考助は右手を振ってこたえた。
「まあ、若いうちは失敗も糧の内ですからね」
そう笑って答える考助に、カルラは目を細めた。
「あんたもそう年が行っているようには見えないがね。まあ、これ以上は止めておくか。それじゃあ、私もそろそろ行くよ」
「ええ。明日からもよろしくお願いします」
「ああ。それはこちらも一緒だ。また明日」
カルラはそう言って割り当てられたテントへと向かった。
周囲を見ると、既に夜食も終えてお開きの時間になりつつある。
三人を見送った考助もコウヒとミツキを連れ立って、テントへと向かうのであった。
はい。飲酒が許された護衛依頼でした。
本文では珍しいと書きましたが、夜営に立たない冒険者がこっそりと自前の酒を口にすることはよくあることです。
といっても、一晩中一度も夜営に立たずに済むほど冒険者を雇える商隊はそうそうないですがw




