(6)更なる発展へ(その3)
なろうコンの影響ってやはり大きいですね。
ランキング外にいたのがいきなり130位まで上がっていました。
ありがとうございます。
神能刻印機の増加が決定したという報告と共に、サラーサはさらに別の報告も加えた。
「それから現在の東西南北の転移門ですが、倍の数に増やすことになりました」
これには会議の出席者達がどよめいた。
どちらかと言えば歓迎の意図を意味するどよめきだ。
それらは、転移門が増えることにより、更に流通量が増やせることへの期待だ。
逆にため息を吐いたり諦めたような表情になっているのは、忙しくなることへの諦めだ。
もっとも、この場にいる全員は商人なのだ。
利益が増えることがわかっているこの変化を歓迎しない者は一人もいないのである。
今回の転移門の倍増計画だが、元々転移門が設置されている場所にさらに転移門を増やすというわけではなく、それぞれの町の港に近い位置に設置することになっている。
他大陸への玄関口である港に近い場所に設置することにより、物流に特化した使い方が出来ることを期待しているのだ。
更に、今まで物流と人の移動を混ぜて行っていた元の転移門も、物流が新しい転移門に移動した分人の移動を多くできることも見越している。
実際にはそこまで綺麗に区分けされるかは未知数だが、少なくとも今までのようにわざわざ港まで物を移動していた分のコストは減らすことが出来る。
ここまで考えるとクラウンにとってはデメリットが無いように思えるが、そんなことは無い。
その最たるものが転移門の使用料だ。
「転移門が増えて、利用料に何か変化はあるのでしょうか?」
流通担当の責任者が、サラーサにそう問いかけた。
現在、転移門の権利保有者はラゼクアマミヤが保持していることになっている。
設置されている転移門の全ては、ラゼクアマミヤの首都がある第五層に集まっているのだからそれも当然だろう。
あくまで第五層への人の出入りを管理しているのは、クラウンではなくラゼクアマミヤなのだ。
それはラゼクアマミヤという国家の前身である行政組織だった時から変わっていないことだった。
そのため、クラウンはラゼクアマミヤに大量の転移門の使用料を払っているのである。
ラゼクアマミヤから見れば、クラウンは転移門使用の大口顧客なのだ。
その担当者の問いに、サラーサは首を振った。
「今はまだ正式な通達はないわ。多分今までと変わらない、としか今は言えないわ」
「そうですか」
「後は、ラゼクアマミヤが決めることですからね」
「それもそうですな」
転移門の使用料は、今では人の移動に関しては一人いくら、物流に関しては量に対していくら、という料金になっている。
それが大きく変わることは無いだろうが、細かい料金の変更はあるかもしれない。
今までセントラル大陸内では、どこへ行くにも同じ料金だった使用料が変動するのだ。
転移門の使用料がクラウン運営コストに含まれるクラウンにとっては、転移門の使用料は一番敏感にならざるを得ない部分なのだ。
特に、コストとして売価に使用料を含めることが出来る商人部門はともかくとして、人の移動が前提となっている冒険者部門にとっては頭の痛い問題だったりする。
もっとも、第五層の街は冒険者がいないと成り立たない街なので、冒険者に限っては使用料はかなり優遇されている。
それでも完全無料というわけにはいかないので、かなり抑えた料金が設定されているのだ。
クラウンカードがあれば使用料を払わなくていいというのは、あくまでもクラウンに所属している冒険者達であって、それをクラウンが立て替えているだけだ。
転移門の利用料によってクラウンがつぶれてしまう事はあり得ないが、それでもクラウンの運営上大きなコストになっていることは間違いないのである。
ただしそれは、今までの料金が維持されれば、という条件が付く。
いきなり倍の料金になったりすると、流石にいくらクラウンといえども厳しい状況になる。
ラゼクアマミヤがそんな無茶をするはずがないのだが、最悪の想定をしたうえで組織運営をして行くことは、最低限必要なことだ。
もし転移門の使用料を倍の料金にした場合は、まず間違いなく塔への人の出入りが激減することになる。
クラウンに所属している者でも冒険者以外は業務中は除いて、転移門での移動は自己負担なのだから気軽に塔への出入りが出来なくなってしまう。
塔と外の世界の出入りが無くなってしまえば、間違いなく第五層の街の発展は減速するだろう。
物や冒険者だけが出入りしても、大きな発展は見込めないのである。
そのことを当然熟知しているラゼクアマミヤが、そのような対応をするはずがない。
とはいえ、ラゼクアマミヤも人が運営している組織であることは間違いない。
突然、運営方針が大きく変わることもあり得る。
それにどう対応していくのか、きちんと考えておくことが重要なのである。
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「そう言えば、転移門を新たに設置するという事は、あの方も動いているという事ですか?」
会議参加者の一人がサラーサにそう聞いてきた。
「当然です。私は、そちら経由で話を聞きましたから」
「なるほど」
サラーサの答えに、多くの者達が納得するように頷いていた。
転移門を管理しているのはラゼクアマミヤだとしても、設置をするのはあくまでも管理者、即ち現人神であることはここにいる全員が知っているのだ。
現人神を無視して、勝手に転移門を設置することは出来ないのだ。
そう言う意味では、ラゼクアマミヤ王国もクラウンも現人神の恩恵を大いに受けて成長して来た組織と言える。
勿論、どちらも大元は現人神が始めた組織であるために、兄弟組織と言えるかもしれない。
もっともその内容は大きく違っているのだが。
「・・・・・・何というか、行き詰まりを見せるとあの方が常に助けてくれますね」
とある幹部の物言いに、何人かが苦笑していた。
本部が塔の中にある以上は、管理者に頼った運営になるのは当たり前なのだが、クラウンの特に商人部門にとっては、それ以外にも色々と助けてもらっている。
主に魔道具の生産に関しては。
そもそも塔の中で取れる素材は、それを使う製品があるからこそ売れるのだ。
そうした製品でモンスターの素材が多く使われるのが、魔道具なのだ。
管理者であるコウスケ神は、次々と革新的な魔道具を作り出しては、それを売り出すクラウンに大きな恩恵をもたらして来た。
急成長してきたにもかかわらず、商人部門がここまで安定して運営を行えるのは、そうした魔道具の存在も欠かせない。
クラウンという組織から見れば、コウスケ神は冒険者の神であり、革新的な魔道具を作り出す神なのだ。
その幹部の言葉に、シュミットは一度ため息を吐いた。
「いつまでもあの方に頼った経営をしてはいけないのでしょうが、あの方が作った物を他にわざわざ譲るのも面白くないですからね」
「というよりも、そんなことは考助様は少しも考えたことが無いと思うわよ?」
シュミットのボヤキに、サラーサが真顔で返して来た。
これまで何度も考助と対面して来たシュミットもそのことは分かっている。
例え贔屓だと言われようと、考助はクラウンに開発した魔道具の販売権を渡すだろう。
相手が神という存在である以上、その関係がいつまで続くかは分からないが、出来ることなら未来永劫続いてほしいと願うシュミットなのであった。
最後に魔道具に関して触れたのは、次話へのつなぎですw




