(6)変化
戦闘があった場所では簡単な挨拶で済ませて、すぐさま出発となった。
ゴゼンの雇い主である商人が、モンスターに襲われた場所から離れたがったのだ。
輸送中の行商人にとっては、モンスターに襲われるというのは、決して喜ばしいことではないのだ。
すぐに現場から離れたがるのはどの雇い主も同じだ、とゴゼンが笑っていた。
逆に護衛の冒険者達は、出来るだけ素材を回収したがる。
商人が使っている馬車があるので、重くて持ち運べないという事も少なくなるのだ。
もっとも、メインが護衛なので、基本的には商人の意見が通ることが多いのだった。
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ゴゼン達が襲われていた場所は、あと数時間も移動せずに町に着けるという所だったので、移動中は大した話もせずに町に着いた。
本格的にゴゼンと話をすることになったのは、町に付いてからだった。
数日はこの街に泊まって運んでいる商品を町で売るつもりらしい。
次の町に向かうまでの間、護衛達は休息となる。
半分は、この町で別れて新しい冒険者を補充するのだが、残り半分は行商の最後まで護衛を続けることになっている。
隊長を任されているゴゼンは、契約上最初から最後まで着くことになっているのだ。
「いや、ほんとに久しぶりだな」
宿の下に設けられている食堂で、ゴゼンがそう言った。
既に最初の乾杯もどきは済ませてある。
「ええ。そうですね」
「そして、相変わらずお前は固いな」
考助の態度に、ゴゼンは苦笑している。
「性分ですから仕方ありません。それにしても、ゴゼンさんはよく覚えていましたね」
こうして直接会うのは、考助達がアマミヤの塔を攻略する前の事だ。
年数にすれば、十年以上の年月が経っている。
そんな考助にゴゼンは笑い飛ばした。
「ワハハハ。こんな見たことのないような美女を二人も連れたパーティだぞ。忘れるはずがないだろう?」
ゴゼンが考助達のことを覚えていたのは実に単純なことで、コウヒとミツキのおかげだった。
勿論、会った時の特異性もあるのだが、そもそもコウヒとミツキがいなければ、忘れていても不思議ではなかっただろう。
それをあっさりとゴゼンは暴露した。
「ああ、なるほど。理解しました」
自分一人だけだったら忘れられている自信があった考助も、そう言って頷くのであった。
その後は、この十年間どうしていたのかをゴゼンから話を聞いていた。
考助の方は、事情が事情なので特に話せることは無い。
その雰囲気を感じ取ったのか、ゴゼンも余計なことは聞いてこなかった。
自分自身のことを語りたがらない冒険者は少なくない数がいる。
長い間冒険者を続けていると、そうしたことも察することが出来るようになるのだ。
「・・・・・・という事は、ゴゼンさんは相変わらず、パーティは組まずにソロを続けて来たのですか」
「ああ。何度か組もうとも思ったんだがな。やっぱり一人の方が気楽でな」
ゴゼンは、注がれた酒を一口飲んでから更に続ける。
「寂しいと思ったときは、こうして護衛任務につけば他の奴らと会話もできるしな」
そう言ってから、別の場所で飲み食いをしている冒険者たちに視線を向けた。
彼らは、今回同じように護衛任務に就いている冒険者仲間だ。
「簡単に護衛任務に就けるのも、ゴゼンさんの実力と実績があってのことでしょう」
「はは。よせやい。おだてても何も出せんぞ?」
ゴゼンはそう言って手を振ったが、考助は割と本気で言っている。
ゴゼンがこなしているのは、普通の護衛任務ではなく、その護衛任務を纏めるリーダーだ。
実績が無ければ、雇う側の商人もそんな簡単に任せたりはしないだろう。
それが、好きな時にそういう任務に就けるという事は、ゴゼンがそれだけ頼りにされているという事になるのだ。
「そう言えば、ゴゼンさんはクラウンに所属されているのですよね?」
「ああ、当然だろう」
考助の何気ない質問に、ゴゼンはあっさりと首を振った。
「むしろ、今この大陸で冒険者をやっていて、クラウン所属じゃない冒険者を探す方が難しいんじゃないか?」
「まあ、そうですよね」
モンスターを討伐して素材を収集するにしても、今回のように護衛任務に就くにしても、セントラル大陸内で冒険者として活動するには、クラウンカードを持っているのが一番手っ取り早いのだ。
クラウンが登場してから十年以上たっているが、塔の中にある本部や支部が設置されている町以外にも出張所のような所はほとんどの町や村に存在している。
そうした出張所は、カードの登録・更新業務などは行っていないが、依頼の受注業務などは行われている。
依頼を完了した場合は、完了証が渡される仕組みになっている。
完了証には、クラウンカードには登録されていない今までの実績が書かれていて、本部や支部に持って行けばクラウンカードに記録してもらえる。
当初は本部や支部しかなかったので、依頼も全てそのどちらかでしか受けられなかったのだが、今では依頼自体は出張所がある町や村で受けられるのだ。
ランクの更新には、この完了証の記録が非常に重要になる。
クラウンに所属している冒険者がDランクに上げるためには、本部か支部に行って試験を受けなければならないので、実績を確認するためにはどうしても完了証の記録が必要なのだ。
ランクを上げるためにわざわざ本部か支部のどちらかに行かなければならないのは、冒険者にとっては非常に手間だ。
だが、そもそもDランクに上がるためには護衛任務を一度はこなさなければならないので、ほとんどの者達は条件を満たすと同時に護衛任務を受けるのが常だった。
更に、村などの地方出身で冒険者を目指す者のために、年に一度支部か本部に向かうための馬車隊が出されている。
その辺はクラウンも抜かりがないのである。
「お前さんも、クラウンカードは持っているんだろう?」
「ええ。勿論」
ここでゴゼンは、クラウンカードを見せてくれというような無作法をすることは無かった。
これもこの十年で変わってきたことだ。
クラウンカードのステータス情報は、冒険者にとっては簡単に見せてはならない物、という価値観が広まっているのだ。
ちなみに、ゴゼンと会ったときには考助と名乗っていたので、今も考助として会話している。
だが、流石にゴゼンが考助とアマミヤの塔を攻略したコウスケを結びつけることはしていない。
コウヒやミツキの力をある程度知っているゴゼンも、アマミヤの塔をたった三人で攻略したとは考えていないのだ。
何より目の前にいる考助が、現人神だと頭で結びついていないので、疑う事すらしていない。
もしここで考助が現人神だと名乗れば、とんでもないことになるだろう。
勿論そんなことをするつもりは、考助には無い。
「それにしてもこの十年で、冒険者を取り巻く状況は大きく変わったな」
「そうですね。ですが、やり辛くなったわけではないでしょう?」
「それは確かに。むしろやりやすくなったからな」
クラウンが出来て、ラゼクアマミヤが建国して討伐軍が出来た。
それだけで、大規模発生する割合が少なくなっていた。
例え出たとしても、軍が出張ってきて討伐していくのだ。
確実に行商がやりやすくなっているのは確かだった。
それでも護衛任務自体は、モンスターがいなくならない限り絶対に発生するだろう。
モンスターが出現しなくなるまで、冒険者の活動が無くなることは消してない。
考助はゴゼンから現在の冒険者の実情を聞きつつ、懐かしくもあり楽しい時間を過ごすのであった。
現在のクラウン(冒険者部門)の状況です。
ちなみに、公的ギルドはまだ無くなってはいませんが、ほとんど開店休業状態になっています。




