(5)懐かしい再会
考助は、コウヒやミツキと共に、久しぶりに飛龍のコーの背中の上にいた。
飛んでいる空は、アマミヤの塔の第五層にある街の上空だ。
ちなみに下からは姿が見えないように、コウヒの魔法で隠してある。
『随分と大きくなったね』
制御盤でも階層の様子を見ることが出来るが、こうして実際の目で見ると更に印象が変わって見える。
『そうね』
『街の人口が最初からすると、比べ物にならないほど増えていますから』
上空から街を眺めながら、三人は神力念話で会話をしていた。
現在の第五層の街は、城を中心にして城下町が広がっていた。
街の中央部は、セントラル大陸内にある街の有力者や大店の店主たちの家が立ち並ぶ高級住宅街になっている。
その外側には一般住宅地、更にその外側に職人たちの工房が置かれている。
街を十字に区切るように敷かれている大通りには、それぞれの区域に合わせて商店が立ち並んでいる。
当然街の中央に近づくほど、高級な物を扱う店が並んでいるのだ。
当初はクラウンの息がかかった店ばかりだったのだが、現在は半分程に抑えられている。
その町並みは、基本的にラゼクアマミヤが建国される前から計画的に発展して来ているので、美しく区切られて作られていた。
考助としては、雑然とした街並みも好きだったりするのだが、こうして計画的に作られた街を上空から眺めるのもそれはそれで楽しい気持ちになる。
『何となく気分転換のつもりで来たけど、こうして直に空から見るのも楽しいな』
『そうね。最初は数十人から始まったんだものね』
既に七十万以上の人間が暮らす大都市に成長している街は、セントラル大陸どころか世界中でも頭から数えた方が早いほどの規模になっている。
流石にトップ5に入れるほどではないが、それでも何もない所から十数年ほどで成長した街と言われても誰も信じないだろう。
既に、第五層の街の事は、<奇跡の街>として一部では呼ばれていたりするのだ。
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城を中心に広がる街を見ていた考助は、次にさらにその外側に目を向けた。
街を流れる川の流れの上流に位置する場所には、セントラル大陸内の食糧事情を支える畑が広がっていた。
そこは、クラウンの生産部門が一手に引き受けている生産区になっているのだ。
既に塔内で生産されている作物は、ケネルセンで作られている作物の比ではない程の量が作られている。
ケネルセンの六侯達の夢だった、大陸内での自給自足も既に夢ではない段階まで来ていた。
それだけの生産を支えるためには、第五層の周辺で作られている畑だけで賄われているわけではなく、既に第四層にも生産区が広がっている。
ただし、第四層は本当に生産区だけになっており、基本的には畑や酪農地帯を支える生産者と、周辺に出現するモンスターを狩る冒険者たちが泊まるための宿等の施設があるだけになっていた。
今のところ、第五層と第四層にある生産区だけで大陸のほとんどの農産物を賄っていることになる。
もっとも、大陸外からの輸入に頼らず、安定して食糧供給が行われているせいか、セントラル大陸の人口は徐々に増える傾向にあった。
それに合わせて生産区の拡大が行われているのが現状だった。
『生産区も順調みたいだけれど、モンスターにはきちんと対処できているのかな?』
『この階層に出てくるモンスターは、初級クラスでも倒せるので、特に不足はしていないようですね』
そもそもクラウン本部がある第五層には、冒険者を目指してやって来る者達が後を絶たない。
他の町で仮登録をして、門を通ってくる者がまず目指してくるのだ。
それは、塔の下層で出てくるモンスターが初級クラスの冒険者にとって討伐しやすいからなのだ。
セントラル大陸内では、一日も歩けば初級クラスでは歯が立たないモンスターが頻繁に出てくる。
それだけではなく、場合によっては町のすぐ傍でもそうしたモンスターが出てくることがあるのだ。
それから比べれば、出てくるモンスターのレベルが固定されている生産区周辺のモンスターを狩っていた方が、安全なのである。
勿論、モンスター討伐が命のやり取りであることには変わりはないのだが。
少なくとも生産区が維持できるだけの冒険者は集まっているのであった。
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塔の中を見終わった後は、塔の外へ出ることになった。
飛龍たちに乗って塔の外を飛ぶのは、とても久しぶりだ。
考助を背に載せているコーも、心なしか気持ちよさそうに飛んでいた。
塔の階層と塔の外の空間で、飛龍たちが違いを感じているのかまでは判断が付かないのだが。
特に定まった目標もないまま、時折襲って来る空を飛べるモンスターを蹴散らしつつ、考助達はセントラル大陸の上空を飛び続けた。
コウヒが掛けている姿隠しの魔法は未だに効力が続いているので、眼下に町が見えていてもお構いなしだ。
昼食をとるのも忘れて飛び続けていた考助だったが、無言のまま飛び続けていた時に、ミツキが何かに気が付いた。
それは、丁度海岸沿いの街道を飛んでいる時のことだ。
『何かが襲われているみたいね』
何に襲われているかは言うまでもないだろう。
『助けに行くとして間に合いそう?』
『飛龍をどうするかにもよるわ』
『ミツキだけ先に行けば、どうなる?』
『間に合うわよ。今も特に不利というわけではなさそうだから』
『一進一退のようですね』
ミツキの言葉に、コウヒもフォローして来た。
『じゃあ、コーたちは還しておくから助けに行ってきて』
『わかったわ』
考助の指示に、ミツキはすぐさま降下して飛龍から降りて、その現場に駆けつけるのであった。
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考助は送還術で飛龍たちを塔へと還した後に、その現場へと駆けつけた。
考助が視認できるほどに近づいたときには、既に決着がついていた。
「なんか、懐かしい感じがするね」
考助は笑いつつコウヒに語り掛けた。
「そうですね」
考助の言葉に、コウヒも笑った。
考助がこの大陸に降り立ち二人と出会い、リュウセンに向かった時も同じようなことになっていた。
そう言えばあの時に会った商人がシュミットだったと、考助はふと思い出した。
そのシュミットは、今ではクラウンの商人部門部門長として活躍している。
思えば、不思議な縁だったと言えるだろう。
考助とコウヒが近づいたときには、既にその商隊は出発の準備が整っていた。
商隊自体にもさほど襲撃の影響はなかったのだろう。
どうやらわざわざ考助達が到着するのを待っていたようだった。
そして、ミツキの隣に立つ冒険者を見て、コウヒが考助に囁いてきた。
「あれは、冒険者のゴゼンですね」
そう言われても考助はすぐに誰だかわからなかったが、先ほどまで考えていた事を思い出して思わずコウヒの顔を見てしまった。
「まさか?!」
「ええ。あの時に会った冒険者のリーダーです」
わざわざ商隊が、すぐに出発することなく待っていた理由が判明した。
ミツキのことを覚えていたゴゼンが、考助達が来ることを察して出発を止めていたのだ。
十数年ぶりに会うゴゼンは、近づいてきた考助とコウヒの顔を見比べて、懐かしそうに片手を上げた。
「よう。久しぶりだな」
流石に久しぶりすぎてはっきりと覚えてはいなかった考助だったが、ゴゼンの方はしっかりと覚えていたようである。
ニカッと笑って二人を出迎えるのであった。
というわけで、ゴゼン再登場です。
覚えていましたか?w
(作者は忘れていました。キリッ)
この後に特に何か大きな事件があるわけではなく、次の話で今までの間の大陸の変化などを冒険者視線から語ってもらおうかと思っています。




