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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 塔のあれこれ(その9)
462/1358

(3)呼び出し

 フローリアの普段業務を行っている執務室は、ごく限られた者しか入ることはない。

 普段は側近たちが作業を行い、アレクをはじめとした官僚の上層部の人間が入るくらいだ。

 大陸内にある各町にいる貴族たちは、普通は謁見の間を利用して会話を行うのだ。

 彼ら貴族たちが執務室に呼ばれるという事は、大抵は不名誉な場合か、緊急性を要する場合に呼ばれる。

 どちらの場合も、呼ばれた貴族にとっては良いことが無いのである。

 そのためセントラル大陸にいる貴族たちにとっては、執務室に呼ばれるという事は、いつの間にか不名誉なことと噂されていた。

 

 ルフィノ・ロサダは、フローリア女王の執務室へ向かう最中、バクバクする心臓を抑えることに必死になっていた。

 突然の呼び出しを受けたのは、今朝業務のために登城してからの事だ。

 本来ルフィノは第五層の街ではなく、セントラル大陸にあるとある町の貴族階級にある身分だった。

 ただし、貴族階級と言ってもさほど位が高いわけでもなく、生活で言えばちょっと稼いでいる商人程度の位だったのだ。

 だが、ルフィノ自身の能力が買われ、ラゼクアマミヤの官僚として引き抜きを受けたのだ。

 ルフィノとしてもこのまま一つの町の底辺貴族でいるよりも、王族直轄である官僚として生きた方が良いと判断してその話を受けた。

 その判断は間違ってはいなかった。

 引き抜きされるだけあって、その能力をいかんなく発揮したルフィノは、見事に頭角を現して行ったのである。

 王国としての爵位を受けることもあり得るのでは、とさえ噂されていた。

 勿論、フローリア女王自身は、その噂を否定していたが。

 別にそれはルフィノだけではなく、何人かそうした者達がいて、その全てをフローリア女王は否定している。

 

 そんなルフィノが執務室へと呼び出しを受けたのだ。

 周りの同僚たちは、驚いた表情でルフィノを見送っていた。

 そもそもルフィノ自身、執務室へと呼び出しを受けるような失敗をした記憶がない。

 内心では首を捻りつつ、それでも呼び出しを受ける以上は、何も記憶になくてもやらかしている可能性がある。

 人間、思い当たりが無くてもこういう時は不安になるものなのだ。

 何を言われるのだろうと、びくびくしつつ逃げるわけにもいかないルフィノは、ついに諦めてフローリア女王の執務室のドアをノックするのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「入りなさい」

 ノックの音が聞こえて側近の一人が入室を促した。

 この時間は、執務室に呼んでいる者は一人しかいない。

 勿論、中には女王がいるので、警戒は怠っていない。

 そもそも一つ目のドアを開けたからと言ってすぐに女王のいる部屋にたどりつけるわけではないのだ。

「ルフィノ・ロサダ、参りました」

「ああ、ご苦労様。そこに座って待っていてくれますか?」

「・・・・・・はっ!」

 そうしてルフィノは言われた場所で待機することになった。

 フローリア女王は、書類整理中とはいえ手が離せないこともある。

 というか、そうした時がほとんどなのだ。

 

 その隙に、ルフィノはこの場所へと案内して来た者へと事情を聴くことにした。

「済まないが、何故私がここに呼ばれたのか、知っているか?」

 その相手は、ルフィノも見知った相手だったので聞き易かったこともある。

 だが、その相手も困惑したような表情になった。

「いや、済まない。実は俺たちも詳しい話は聞いていないんだ。今朝になって突然女王が仰せになられてな」

 見知った相手という事もあって、口調も砕けた感じになっている。

 最初のやり取りは、様式美という事もあるのだ。

 

 その言葉に、ルフィノは思わず周囲を見回してしまった。

 二人の会話が聞こえていたのか、何人かが此方を注目していたが、同じような表情になっていた。

 彼らもルフィノがこの場に呼ばれた理由を知らないのだろう。

 この場に居る者は、フローリアの側近だ。

 側近中の側近たちは、更に奥の部屋で女王の警護も兼ねて働いているが、この場に居る彼らもいつその奥の間に行ってもおかしくないようなメンバーなのだ。

 さらに言うと、より具体的な内容を片づけているのは彼らという事になる。

 逆に言えば、彼らはフローリア女王の業務の内容のほとんどを把握しているのである。

 その彼らが、ルフィノが呼ばれた理由を知らないというのだ。

 この時点で、普通の叱責とかそういう事ではない理由で呼ばれたと察した。

 この部屋では業務を行っていないルフィノだが、優秀の呼び声高いその実力は伊達ではないのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ルフィノが案内されてからほどなくして、次は別の者がやって来た。

 自分と同席する者がいるとは考えていなかったルフィノは、その人物の顔を見て思わず呆けてしまった。

 城内では何度かすれ違ったことがあるが、そのたびにその顔に見惚れていたりする。

 その人物はそれほどの美貌の持ち主なのだ。

 別にそれはルフィノに限ったことではなく、城内で働く男性のほとんどの者が同じ態度になるだろう。

 きっちりと巫女服を着こなしたその人物は、フローリア女王の神事の全てを取り仕切っている巫女シルヴィアだった。

 

 突然シルヴィアが同席すると言われたルフィノは、慌てて立ち上がった。

「こ、これは巫女シルヴィア殿。失礼いたしました」

 呼ばれた理由も全く思い当たらないのに、更に状況が分からなくなってしまった。

 流石にシルヴィアに呼ばれた理由を聞く勇気はなかった。

 それに、シルヴィアが現れてから数分も経たずに、フローリア女王が現れたのだ。

 聞く暇などなかったというのが本当のところなのであった。

 

 そのフローリア王女はまずルフィノに視線を向けて来た。

「突然呼び出して済まなかったな」

 その意外に穏やかな表情に、ルフィノは内心で首を傾げつつ無難な返答を返した。

 その表情はとてもこれから人を叱責するような物には見えなかったのだ。

「いえ、とんでもございません」

「それで、気になっている呼び出した理由なのだがな・・・・・・これは同席してもらったシルヴィアにも関係している」

 そう前置きをしてから、フローリアは前日にあった学園での出来事を話し始めた。

 

 

 

 フローリアの話を最後まで聞いたルフィノは、女王の前であるにもかかわらず両手で頭を抱えてしまった。

 何とか声に出すことは防げたが、なんてことをしてくれたんだ、と言いそうになってしまった。

 それだけ自分の息子が、教室で行った行為は許しがたい物なのだ。

 何しろ、神に近づくための修業を行う巫女を馬鹿にするような言動を行ったのだから。

「も、申し訳ございませんでした!」

 何とかそう答えを絞り出したルフィノだったが、その様子を見ていたシルヴィアが笑みを浮かべた。

「ルフィノ殿。勘違いしてはいけませんわ。今回貴方を呼び出したのは、決して叱責するわけではないのです」

「うむ。そうだな」

 思わぬ言葉に、ルフィノは素でキョトンとした顔になった。

 今回息子がやったことは下手をすれば、王国を巻き込みかねないことだったのだ。

 

「事実を知ってから、すぐに神に確認を取りましたが、神々も子供のやったことだからと特に気にも留めていませんでした」

 さらりと直接神に確認を取ったと告白したシルヴィアだったが、もはや目の前にいる巫女の規格外さは城内には知れ渡っている。

「問題は、其方の子育ての方針もありそうだが、それ以外にも学園の教育方針に問題がありそうでな」

 フローリアとシルヴィアは、今回の件はルフィノの家庭だけにおける問題とは考えていなかった。

 学園でもしっかりと神学の授業はあるのだが、二人は単純に知識を学ぶだけの場になっていると考えているのだ。

 息子が行ったことで、当事者になってしまったルフィノも同意するように頷いた。

「・・・・・・巫女や神官と言った存在を軽々に扱ってはいけないと伝えてはいたつもりだったのですが・・・・・・」

「子供にとっては、普通の神々と違って目の前に存在するからな。巫女たちは」

 ココロが同年代の子供だったことも、ルフィノの息子が暴走(?)した事に拍車をかけている。

 自分と同じ教室で、同じような内容の授業を受けていると、皆同じような生活をしているのだと考えてしまいがちになってしまう。

 実際には、ココロの修業はそんな簡単なものではないのだ。

 場合によっては、子供の無知のせいでは済まされないこともある。

 フローリアとシルヴィアの話を聞きながら、ルフィノは家に帰ってどうやって息子を諭せばいいのか、頭を悩ませるのであった。

お、終わりませんでした。

大人同士の話し合いは、次話に続きます。

次話が短く終わってしまいそうです><

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