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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 初めての冒険
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(10)大きな経験

 当初の目的である冒険者たちの活動について行くという目的を果たしたリクは、アマミヤの塔の管理層へと戻って来た。

 ロマン達やアリサは、引き続きアイリカ王国で活動するために残っている。

 リクがアイリカ王国を去るときに、アイリカ王国側の転移門でアリサの見送りはあったが、それ以外は特に大きな事は起きなかった。

 塔に戻って来たリクは、すぐさま出迎えられたガゼランに引っ張られて、そのまま管理層へと連れて行かれた。

 そして、管理層側には腕組をしている母親フローリアと父親(考助)が待機していた。

 リクが戻ってくることがアリサからガゼランを通じて知らされていたのである。

 女王業で忙しいはずのフローリアがしっかりと待機していたことからもそれがわかる。

 両親に出迎えられたリクは、一瞬戸惑った表情をしたものの、すぐに笑顔になった。

 考助とはともかく、フローリアとこれほど長期間離れたことは無かったのだ。

 久しぶりに母親と会えて笑顔になるのも当然なのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「それで? 冒険者達の活動を見てどうだった?」

 普段会議室として使っている部屋で、考助はリクにロマン達と一緒に活動していた時のことを聞いた。

「うん! 思っていた通りの事もあったけど、違っていたこともいっぱいあったよ」

「そう」

 考助は、子供が想像で思い描いている職業と、実際の職業がかけ離れていると考えている。

 今回の旅(?)でリクが何をどう見て来たのかはこれから詳しく聞くつもりだったが、まずはリク自身がどう感じたのかを聞きたかったのだ。


「違っていた所というのは?」

「えーと。冒険者はモンスターを武器を使って倒して行くだけだと思っていたけど、事前準備がとっても重要だという事が分かったこと、かな?」

「ほう」

 リクの言葉に、フローリアが興味を示したような表情になった。

 そもそもフローリアは、王女だった時代も含めて、冒険者として活動したことはほとんどない。

 考助達に連れられて四属性の塔の攻略に行ったことはあるが、あれは例外中の例外だ。

 事前準備など必要としないコウヒやミツキを伴っての攻略だったのだ。

 そんな二人を伴った塔の攻略など、参考に出来るはずもない。

 そのため、一般的な冒険者がどういった活動をしているのか、詳細を知らない。

 もっとも、ロマン達の活動方法が全ての冒険者に共通しているわけではないが。

 むしろ、ロマン達ほど詳細に情報を調べるのは、少数派と言ってもいいだろう。

 ただし、訓練校を卒業した者達は、基礎知識としてそうした方法が叩き込まれている。

 卒業後に、その通りに行動するかは個人の意思によるが、教わった通りに行動している者達の方が多いのもまた事実なのだ。

 

 その後は、リクが経験してきたことを上手く聞き出しつつ話を聞いた。

 フローリアは、女王として人の話を引き出して聞くのが仕事だ。

 子供のリクから話をうまく聞き出して、最初から最後までほとんど全ての内容を聞き出してしまった。

 ついでに考助は、ずっとリクの傍に付いていたコウヒにも確認したが、話が漏れているということもなかった。

 その中でいくつか興味深い話も聞けたが、リクと話をしているときにつついたりはしなかった。

 リクが冒険者に対してどのように感じて、これからどのようにしたいと思っているのかを聞くのが重要なのだ。

 それ以外の事は、後でフローリアと話をすればいい。

 

 ようやく話を終えたとばかりに満足げな表情になったリクに、考助は最後に問いかけた。

「それで、相変わらず冒険者にはなりたい?」

「・・・・・・うん!」

 少しだけ間はあったが、リクは勢いよく頷いた。

「そうか。それで? 今の自分には何が足りないと思った?」

 考助の少しだけ踏み込んだ問いに、リクはしばらく考えた後にゆっくりと答えた。

「まずは、僕自身の戦闘能力。今のままだと、全然駄目」

 一応、王子として剣の扱いは、個人教師が付けられて教わっている。

 だが、今身に付いている技術は、実戦ではほとんど役に立たないことがわかった。

「他にも、全然知らないことが多すぎるから、色々と勉強したい」

「そうだね」

 冒険に出る前は、ただひたすら冒険者になることを目指していたリクだったが、本当の戦闘を目にして心境の変化があったようだ。

 相変わらず冒険者になりたいという気持ちは消えていないようだったが、以前よりはずっと良い感じである。

 今の気持ちのまま冒険者を目指すのであれば、少なくとも考助は反対したりはしないだろう。

 憧れは憧れのままに、それでも少しは現実に触れたリクを見て、考助はそんなことを考えるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 リクから話を聞き終えたフローリアは、一緒に王城には戻らずに考助と話を続けていた。

「あの様子だと、まだ諦めていないようだな」

「そうだね。まあ、でも今のまま突き進むんだったらそれはそれでいいんじゃないかな?」

「そうか?」

「そう思うよ。まあ、まだ子供だし、限界に当たって別の道に進むかもしれないしね」

「そんなものか?」

「そんなもんだよ」

 生まれた時から王女として生きて来たフローリアには、自分で進む道を自分で決めるという感覚が薄い。

 そのため、強い情熱をもって突き進んでいるリクに、戸惑いさえ覚えていた。

 一方で、考助はこの世界に来る前に、そうした経験もしてきている。

 ある程度は、自分にも身に覚えがあることなのだ。


「それで諦めなかったらどうするんだ?」

「どうもならないよ。低ランクとか中ランク冒険者として一生を過ごすことになるだけ」

 ある意味で、突き放している考助の言葉に、フローリアはため息を吐いた。

「・・・・・・厳しいな」

「それはそうだよ。自分で自分の道を切り開くってそういう事だからね」

「そうか・・・・・・」

 この世界では、親が子供に職を与える、あるいは譲るというのは当然のことなのだ。

 親と同じ職に就けば、ある程度親がそのフォローをすることが出来る。

 だが、自らの責任において道を決めた場合は、そうした力が及ばないことが往々にしてあるのだ。

 どちらが良いという話ではないのである。

 

 何やら思う所があるのか、黙り込んだフローリアに対して、考助は話題を変えることにした。

「それにしても、東大陸とこっちの大陸でああまで冒険者の活動に差があるとは思わなかったよ」

「ああ、あれはな。私も同じだった」

 考助にしてみれば、セントラル大陸での常識が世界の常識だと思い込んでいた所がある。

 フローリアは、そもそも冒険者の活動に詳しいわけではない。

「ランクの扱いに関してはともかくとして、活動方法に関しては基準を作った方が良いだろうな」

 それぞれの地域でそれぞれのルールを採用していたら、そもそも冒険者の移動など起こらなくなってしまう可能性がある。

 自分になれた方法で動いた方が良いと思うのは、当然の事なのだ。

「どうかな? その辺りの事はクラウンで考えているのではないか?」

 ある意味で、この件に関しては他人事なフローリアは、クラウンに丸投げする姿勢を見せた。

 そもそもラゼクアマミヤの女王であるフローリアは、クラウンの運営方法に口出しできる立場にない。

 いくら周りに誰もいない状況とはいえ、その辺は徹底している。

 

「コウスケがクラウンの運営に、口を出すと言うならいくらでも話し相手にはなるがな」

「いいや。そんなつもりは全くないよ」

 フローリアの言葉に、考助は苦笑をしつつ答えた。

 現人神となってしまった自分が口を出せば、それが決定事項として独り歩きしてしまう可能性が大きい。

 そんなことになるくらいなら、最初から口を出さない方がいい。

 相変わらずの態度を見せる考助に、フローリアはそうだろうとばかりに頷くのであった。

これでリクが中心となった話は終わりです。

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