(4)話し合い(後編)
ロマン達の冒険者としての力の一端を話し合いで感じたタマーラは、次は視線をアリサへと向けた。
「さて、次は其方だが・・・・・・」
「ええ」
「彼らは出て行ってもらった方がいいか?」
彼らと言うのはロマン達の事だ。
「いえ。大丈夫です。私が一緒に来ている理由は話してあります」
アリサがここにきているのは、クラウン本部で運営している訓練校の話をタマーラが聞きたがったためだ。
タマーラに詳細を話すために、教師として実務を担当していたアリサが選ばれたのだ。
ついでに、ロマン達はアリサを教官として教わっていたのだ。
さらに、リクの案件が出て来たので、アリサが一番の適任だったのである。
「ついでに言うと、彼らは私の教え子でもあります。まあ、訓練校では一人の教官が付きっきりで教えるわけではないですが」
「なるほど、そういう事か」
アリサが選ばれた理由を察したタマーラが、納得したように頷いた。
彼らの活動を見ていれば、訓練校での成果もよくわかるという事だ。
勿論、ロマン達は第一期の卒業生の中では筆頭に数えられるくらいに優秀だったりする。
「彼らは本部の訓練校の第一期卒業生です。その中でも優秀なパーティの一つですが」
「なぜわざわざDランクを、と思っていたのだが、そういう事だったのか」
「本部からは知らせてなかったのですか?」
少し不思議に思ったアリサが、首を傾げて問いかけた。
その程度の情報は、本部から知らせが来ていると思っていたのだ。
「いや、こちらに来てもらう冒険者は本部に任せると私から言ったのだ」
本部がどういった人材を選ぶのか、と言うのを確認したかったというのもある。
いくら自分を口説き落とした人物が優秀だとしても、その下で働いている者達まで的確な行動をとれるわけではない。
そのことを確認する意味でもわざと曖昧な指示を出したのだ。
「そうでしたか」
アリサは、タマーラのそういった意図を見抜きつつもそこには触れずにただ頷くだけで済ませた。
本人が納得しているのであれば、特に問題はないのである。
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「運営の細かい内容は後で聞くとして、ロマン達はそこそこの家庭で育っているのか?」
突然の質問に、ロマンは目をぱちくりとさせた。
ロマンにとっては、それほど意外すぎるほどの質問だったのだが。
「いえ、俺は、というよりそこの彼を除く五人は全員が孤児ですが?」
特に孤児であることを隠していないロマンはあっさりと打ち明けた。
逆に孤児がここまで冒険者として成長できるほどの機会を与えてくれたクラウンに感謝しているために、わざと孤児であることを明かしていることもある。
そして、その目論見通りにタマーラが目を見開いて驚いていた。
「何と?! ・・・・・・いや、済まない。話には聞いていたが、実際に目の当たりにすると驚きしか出てこないな」
この世界において、生まれはそのまま人の成長につながっている。
冒険者として暮らしていくにしても、武器の用意から戦闘経験まである程度の金銭は必要になる。
全てを独学でこなすにしても、ただで冒険者になれるほど甘い世界ではないのだ。
勿論、門戸の広い冒険者以外の職業に就いても同様だ。
故に、孤児と言うのは、基本的に裕福な家庭に目を付けられて引き取られるか、奴隷まっしぐらという人生が待っているのである。
今、タマーラが相対しているロマンのように、落ち着いた態度になる者などほとんどいない。
あるとすれば、子供がいない家庭に引き取られて大事に育てられた者くらいなのだ。
実際、訓練校に入る前のロマンは、悪ガキを通り越したただの粗暴な人間だった。
他の孤児たちと同じように昼食につられて訓練校に入ったのだが、見事にそれが矯正されている。
「改めて教育の重要性を思い知ったよ」
長年、冒険者たちを育てて来たタマーラからそう言われて、ロマンは居心地が悪そうな顔になった。
「今、俺がこんな話し方が出来るのも、訓練校の教官たちのおかげです。・・・・・・まあその分、しっかりと教育的指導を受けましたが」
チラリとアリサに視線を向けながらロマンは、そう言った。
アリサはその昔、「奴隷ごときに教わることなどないや!」と言って突っかかって来たロマンに、教育的指導を何度も施した過去があるのだ。
「あら。誰が悪かったのかしら?」
視線を向けれたアリサは、楽しそうに笑いつつそう答えるのであった。
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気安く言い合うアリサとロマンを見て、タマーラはふと思い出したようにアリサへと聞いてきた。
「そう言えば、其方は精霊使いのようだな。それもなかなかの腕のようだ」
「ありがとうございます。幸いにして良い師に巡り合えましたので、その教えを何とか守ろうと今でも修練しています」
「ふむ。・・・・・・いや、待てよ? どこかで聞いた名だと思っていたが・・・・・・。ちょっと待っててくれ」
タマーラは突然そう言って執務机の引き出しを開けて、そこから一冊の本を取り出した。
その本は、アリサにも見覚えのある本だった。
何しろ半分は自分が手掛けた物なのだから当然だろう。
ちなみにその本は、訓練校でも精霊術に才のある子達に貸し出したりされている。
「ああ、やっぱり。もしかしなくとも其方は、この本の著者の一人か?」
「ええ、まあ、そうです。私が書いたのは基礎の部分で、応用は相方が書きましたが」
「何と! まさか、このような席で会えるとは思わなかった。一度お会いしてみたかったんだ」
それまでの落ち着いた態度を一変させて、若干興奮したようにタマーラが表情を変えた。
その反応に、アリサは困ったような表情を見せた。
それを気にせずに、タマーラは不思議そうに首を傾げた。
「はて、おかしいな? こちらに来るアリサ殿は、奴隷と聞いていたのだが?」
「ええ、私は奴隷ですが?」
「このような素晴らしい本を書いていれば、それなりの稼ぎはあると思うのだが?」
自らの稼ぎで奴隷から解放されているはずでは、と首を傾げるタマーラ。
「ええ。確かに稼ぎはありますが、素晴らしい主に巡り合えたので、敢えて解放されることを望んでいないのです。主にはいつでも解放すると仰ってもらっています」
そう話すアリサの表情を見て、タマーラは嘘はなさそうだと判断した。
いつでも解放できるはずなのに自ら奴隷で居続けることを望むとはどういう事なんだろうと、内心で首を傾げるが、それを不用意に言葉に乗せるようなことはしない。
「そうか。では、其方に精霊術を教えたのは、その主か?」
タマーラの問いにアリサは首を振った。
「いえ。私に精霊術を教えてくださったのは二人いますが、主はまた別の方です」
アリサが主のことに関しては、若干言いづらそうにしたことを察したタマーラは、話を精霊術の方に戻すことにした。
「其方の周囲にいる精霊を見る限りでは、かなりの腕だと思うのだが?」
「いいえ。私など、師に比べれば、まだまだです」
そう言って謙遜する様子を見せたアリサに、タマーラは内心で感心していた。
一つは、敢えて「精霊を見る」と言ったのだが、アリサはこれを普通のこととして受け取っていた。
タマーラは実際に精霊が見えているわけではない。
ただし、周囲を漂う精霊を感じ取ることは出来る。
そう言った時のことをエルフの間では、「精霊を感じる」ではなく「精霊を見る」と表現するのだ。
アリサはそれをごく自然に受け取っていた。
更に、言葉通りにタマーラから見てもアリサの精霊術の術はかなりの物だとうかがい知れる。
だが、その彼女よりもさらにその師の腕は上だと、はっきり断言して来た。
そこまでの精霊術の腕となると、エルフでもかなりの上位の者でないと駄目だろう。
この本に出合ってから二人の著者にはぜひ会いたい考えていたのだが、益々もう一人の著者に会いたいと思うのと同時に、ぜひ二人の師にも会ってみたいと思うタマーラなのであった。
果たしてタマーラがコレットと会える日は来るのでしょうか?!
全くのノープランですw
世界樹の麓にある里のことを話さずに、コレットのことを説明するのは難し出しょうね。
アリサはコレットの事もあまり詳しく話すつもりはないですが。




