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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 初めての冒険
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(3)話し合い(前編)

 タマーラは、アイリカ王国ではよく名の知られた冒険者だった。

 本来支部を設置する際には、クラウンは自らの裁量で決定している。

 だが、アイリカ王国が支部を設置する条件として、支部長にタマーラを起用するように言って来たのだ。

 当然クラウン側もアイリカ王国のみならず、タマーラが他国でどういった人物として語られるかを調査した。

 その上で、支部長として十分な能力があると判断して起用したのだ。

 タマーラはエルフでは珍しく、里を出てから数十年以上を冒険者として活動している。

 その名声は、アイリカ王国内のみならず東大陸中に響き渡るほどのものだったのだ。

 冒険者としての戦闘能力は当然として、その人柄もまた冒険者たちに支持されている。

 というのも、タマーラはヒューマンと比べて長い寿命を生かして、色々な冒険者パーティに加わっていた。

 それが高ランクの冒険者パーティに所属するわけではなく、初心者に近いようなパーティに入り一から冒険者としてのイロハを叩き込むことを繰り返していたのである。

 彼女の目が良いのか、それとも偶然なのか、彼女が育てたと言えるパーティは必ずと言って良い程高ランクのパーティとして名を馳せていた。

 更には、彼女が抜けた後のパーティが、彼女と同じように新人を育てたりもしていた。


 そうしたことを数十年と繰り返し続け、結果として東大陸内で活動している高ランクのパーティで、彼女自身もしくは彼女が育てたパーティに関わっていないパーティは無いとまで言われるほどになっていたのだ。

 勿論、それらは大袈裟な噂なのだが、それが噂として駆け巡るほどに彼女の功績は大きな物になっている。

 事実として、アイリカ王国をはじめとして各国が、冒険者たちを育てた「冒険者の母」として、彼女を讃えて叙勲している。

 ただし、タマーラ自身は叙勲を受けることはしても一国に留まる事はせずに、各国を渡り歩くことを続けていた。

 その彼女が、アイリカ王国に支部を作る際に支部長として赴任することになったと発表された際は、各国の首脳陣たちが驚いていた。

 アイリカ王国にどうやって口説き落としたのかと問い合わせが殺到したのだが、残念ながらアイリカ王国もその答えを持っていなかった。

 タマーラを口説き落としたのは、クラウンの人間だったのだ。

 誰がどうやって口説き落としたのかは、アイリカ王国にも詳しくは知らされていなかった。

 そのため東大陸の各国では、クラウンがどうやって組織に所属するように口説き落としたのか、謎と共に語られているのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 自室へとリクたちを案内したタマーラは、まずはロマンへと視線を向けた。

「其方たちのことは、本部から聞いている。是非とも、セントラル大陸でのDランクの実力を見せてやってくれ」

「え?! あ、はい?」

 いきなりの言葉に、ロマンとその仲間たちは首を傾げた。

 ロマンたちは、一定期間この支部を中心にして冒険者としての活動をするようにと依頼されてきているのだ。

 本来の詳しい目的までは聞いていなかった。

 それを見抜いたのか、今度は視線をアリサへと向けた。

「本来の目的は話していないのか?」

「ええ。詳しいことは、現地で確認してからの方が実感できるからと考えました」

「なるほど、な」

 もっともな理由に、タマーラは苦笑しつつ頷いた。

「だが・・・・・・ふむ」

 そう言って少しの間考えていたタマーラは、再びアリサへと問いかけた。

「詳細だが、今ここである程度話しても構わないか?」

「それは勿論構いません。彼らの依頼は、あくまで貴方からの指示に従うようになっていますから。ですが、何かありましたか?」

「いや何。先ほどの様子を考えると、先にある程度は知っていた方が良いかと思ってな」

「あっ・・・・・・。あー。そうですね。確かにおっしゃる通りです」


 飲み込みの早いアリサに満足げな表情を向けていたタマーラは、再び視線をロマン達へと戻した。

「其方たちをわざわざこの大陸に呼んだのは、いくつか理由があってな。単に依頼をこなしてもらうためだけではないんだ」

「・・・・・・というと?」

 疑問に思いつつもひとまずタマーラの話を聞こうと、ロマンは先を促した。

「うむ。まず、先ほども言ったことからわかるかと思うが、この大陸とセントラル大陸で同じランク制度を設けているが、実は実力には多少隔たりがあってな」

 初めて聞く話に、ロマンたちは顔を見合わせている。

 ちなみに、リクは彼らのやり取りを大人しく聞いている。

 今はまだ自分が口を挟める段階ではないと理解しているのだ。

 

「其方たちはDランクということだが、恐らく私の見た感じではこの大陸ではCランクでも通用すると思う」

「えっ・・・・・・!?」

 突然のことに、ロマンたちは驚いた。

 冒険者のランクというのは、何処も基準が同じになっているというのが基本中の基本として知っておくべきことなのだ。

 養成校を卒業したロマンたちも、まずは最初にそのことを教えてもらっていた。

「これは私個人の考えで、推測が入るがいいか?」

 その前置きに、ロマンたちは黙ってうなずいた。

「大前提として、セントラル大陸に出てくるモンスターは、他の大陸に比べて強いという事がある」

 まずはそう述べたタマーラは、つらつらと自身の考えをロマンたちに話した。

 セントラル大陸のモンスターが他の大陸の物と比べて強いという事から、他の大陸の基準で使われているランクだと高ランクの冒険者が多発することになってしまった。

 高ランクの冒険者が多くなったからと言って、素材の買取や討伐に問題があるわけではない。

 ただ、中・高ランクの冒険者の人口の方が多くなってしまうと、低ランク冒険者のやる気をそぐ結果になってしまいかねない。

 やはり、高ランクになるとなれる数が少ないからこそ憧れる者も多くなるという事があるのだ。

 そのAランクが多く在籍していると、簡単に成れるんだと勘違いしてしまう者が出てくることがある。

 更には、Sランクになると更に特定の強力なモンスターを倒さなければならないことになっている。

 だが、セントラル大陸以外でSランク認定されるモンスターは、セントラル大陸では冒険者の足でそれなりの場所に潜ると普通に出てくるモンスターだったりするのだ。

 そのため過去にそうしたモンスターを倒して、Sランクになった者が多発したのではないかということだ。

 Sランクは大陸内で数人と言うバランスが崩れてしまいかねない事態にバランスをとり、セントラル大陸ではランク判定が他の大陸より厳しくなっているのではないか、というのがタマーラの推論だった。

 

「現に、こちらである程度の実力を持った冒険者が、セントラル大陸に渡ってモンスターの強さに戸惑う事があるというのはよく聞く話だな」

 タマーラは最後にそう結んだ。

 話を聞いていたロマンたちは、納得した表情になっている。

「なるほど。そういう事ですか」

「まあ、あくまでも私の私見だが。・・・・・・どうかな?」

 タマーラに視線を向けられたアリサは、同意するように頷いた。

「はい。実際に本部内では、そう考えている者が多くなってきています」

 本来ギルドというものは、それぞれの大陸を越えて活動することなどほとんどない。

 クラウンが他の大陸に支部を作ることを考えた時に、そうした問題が浮かび上がってきたのだ。

 セントラル大陸から他の大陸に移動する冒険者は問題がないが、セントラル大陸に入ってくる冒険者には問題が出る可能性がある。

 調査の段階で、そうした指摘がされていたのである。

 

「長くなったが、ここまでが前置きになる。それで本題だが、其方たちにはこの支部で活動するときに限ってワンランク上の依頼を受けられるようにする」

 タマーラがそう言ったことで、ロマン達にも自分たちに何が求められているのか理解できた。

「つまり俺たちは、こちらのCランクの依頼を受ければいいわけですね」

「ああ、そういう事だ」

 ロマン達がDランクにもかかわらず、Cランクのモンスターを討伐できる実力があると周囲に見せる、というのが今回の依頼の本来の目的になる。

「事前調査はしていいんですよね?」

「当然だ」

 当たり前と言えば当たり前の言葉に、タマーラは破顔した。

 その事前調査すらろくにせずに討伐に向かう冒険者が非常に多いのだ。

 当然のようにそのことを言って来るロマンに、タマーラは期待以上の成果を見せるのではないかと予感するのであった。

長くなりそうなので区切りました。

タマーラとの話し合いは次話に続きます。

次はアリサが話し相手になります。


ランクに関しては、以前から他大陸でも同じ物として通してきましたが、タマーラに語ってもらったように、実態は違っているという事にしました。

その方が、セントラル大陸での高ランクモンスターの出現率や冒険者の強さなどの実態と合うと考えたためです。

この期に及んで設定変更した形になりますが、よろしくお願いします。

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