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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 初めての冒険
450/1358

(1)リクの説得

本章は、この第一話を除いて考助はほとんど出てこないです。

メインはリクになっています。

 事の始まりは、リクの一言だった。

「冒険者になりたい」

 突然、コウヒに連れられて管理層に来たリクが、そんなことを言いだしたのだ。

 その時のリクの表情を見た考助は、子供の戯言とは思わずに真剣な表情で我が子の顔を見た。

 リクも既に九歳になっていて、この春には学園への入学も決まっている。

 そのことをリクはきちんと知っているはずなのだ。

 それを差し置いて冒険者になりたいと言っているのには、子供なりの理由があると考えたのである。

「冒険者にね。なぜ?」

 考助にしてみれば、わざわざモンスターとの戦闘があるこの世界で、危険と隣り合わせの冒険者になりたいという理由がわからない。

 この世界に来て冒険者になることを考助が選んだのは、コウヒとミツキと言うチート級の仲間がいたためだ。

 もし二人がいなかった場合には、冒険者と言う選択はしていなかった可能性もある。

 

 考助が真面目な顔をして聞いてきたのに驚いたのか、一瞬口をもごもごさせていたリクだったが意を決したように顔を上げて言った。

「ち、父上に・・・・・・」

「ん? 僕?」

「僕は、父上みたいな冒険者になりたい!」

 思ってもみなかった返答に、考助は虚を突かれた表情になった。

 横を見るとコウヒが笑いをかみ殺しているのが見えた。

 コウヒはリクの思いを知っていてこの場に連れて来たのだ。

 そして、考助が戸惑うことも予想できていたのだろう。

 

 リクから詳しく話を聞くと、そもそもは侍女たちの話で父親の冒険者としての姿に憧れているらしい。

 そこまではまだいい。

 父親に子供が憧れるというのは、ある意味で誇りに思えることだ。

 冒険者としての自分の話をリクから聞くと、何処でそんなに盛られたんだ、と言いたくなるほどの格好良い冒険譚になっていた。

 考助の冒険者としての活動期間はほとんどが塔の攻略になるのだが、自分としてはコウヒとミツキに隠れて逃げ回っていた記憶しかない。

 だが、その盛られた話では、塔の上層で出てくる上位ランクのモンスターをバッタバッタと切り捨てる姿が描かれていた。

 満足そうに話し終えたリクを見た考助は、話を訂正するか憧れは憧れのままにしておくか、しばらく悩んだ。

 自分の子供の頃にも、某戦隊ヒーロー物に憧れたりした記憶がある。

 しかしながら、リクの場合はいずれは時が解決する、とは言えない事情がある。

 何しろモンスターは実在する存在の上に、実際にそうしたモンスターを倒さないと塔を攻略できないことも確かだからだ。

 問題は、そのモンスター達を倒していたのが考助ではなく、コウヒとミツキだったという点だ。

 将来リクが事実を知った時に、憧れから真逆の方向へと行ってしまわないように、その点だけは訂正しておいた。

 だが、既に憧れフィルターが掛かっているリクは、「では父上が指揮を執っていたんですね!」と目を輝かせていた。

 周囲の幻想を振り払うために訂正したはずが、益々憧れが強くなったような気がしたのだが、それ以上の訂正はしなかった。

 子供の思い込みは、時として親の常識を打ち砕く物なのだと思い知る考助なのであった。

 

 微妙に憧れフィルターを取り払うのを失敗したと考えた考助だったが、とにかく話を進めることにした。

 今の問題は、リクが冒険者になりたいと言っていることである。

「理由は分かったとして、冒険者になりたいということは、お母さんには話したの?」

 まずは一番重要なことを聞くことにした。

 そもそもリクは現在、王位継承権第三位の位置にいるのだ。

 そうそう簡単に自分の行きたい道に進める立場にいるわけではない。

 そんな考助の問いかけに、リクは頬をプクッと膨らませた。

「母上は、そんなのは駄目だの一点張りだから・・・・・・」

 不満そうにそう言うリクを見ながら、フローリアの立場ではそうなるだろうなあ、と考助は内心で納得していた。

 ついでに言うと、フローリアは過去に考助達と一緒に塔を攻略する現実を見ている。

 王女として育ったフローリアが、その現実を知った時に、我が子を近づけさせたくないと思うのは当然のことだろう。

 同時に、考助としては自分の子には憧れの道を目指してほしいという思いもある。

「まずは、お母さんを説得できないと駄目かなあ・・・・・・。ああ、ほらそんな顔をしないで。母親くらい説得できないと良い冒険者にはなれないよ?」

 母親の説得と冒険者が関係あるのかいえば微妙な所だが、取りあえず矛先をずらすためにそう提案した。

 今のままだと猪突猛進に家出さえしかねないような勢いがある。

「父上も一緒に説得してくれる?」

「うーん。そうだなあ・・・・・・。まずは自分でどう説得するか、きちんと考えなさい。そうしたら、きちんと説得する機会を作って上げるから」

「・・・・・・わかった」

 考助の言葉に、不満そうな表情を見せながらも不承不承頷くリク。

 だが、その目はまだ諦めているようには見えないかった。

 そしてその決意の程は、二週間後に明らかになるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 二週間後。

 考助の目の前には、完全敗北したフローリアの姿があった。

 その姿を見て考助は、苦笑をすることしかできなかった。

 九歳児とはいえ、王族としてしっかりとした教育を受けた子供が本気になると、ここまで理論武装出来るのかと思ったほどだ。

 勿論、子供らしい穴はたくさんあった。

 だが、会話の中でその穴を埋めるようにして行き、臨機応変に対応できることを証明して見せたのだ。

 

 苦笑をしている考助を見て、フローリアが若干恨めし気な表情になっていた。

「・・・・・・これはコウスケの差し金か?」

「いやまさか。完全にリクが自分で考えたんだろう?」

「そうだよ! ・・・・・・城に出入りしている冒険者とかガゼランさんから話とかも聞いたけど」

「ほう。後で問い詰めないと駄目かな?」

 リクの言葉を聞いたフローリアは、スッと目を細めた。

 それを見たリクが、慌てて付け加えた。

「ガゼランさんは悪くないよ! ただ、今のクラウンがどうやって活動しているか、教えてもらっただけだから!」


 後に考助とフローリアが確認したところによると、その言葉通りにリクはただ単にクラウンの活動内容を細かく聞いていただけだった。

 どうやって自分が冒険者になれるかの助言を貰ったわけではない。

 結局リクは、そうした話を聞いた上で、両親を説得する材料を自分で集めたという事になる。

 まさしく冒険者として必要な情報収集を自分一人でこなしたというわけだ。

 もし話が、リク一人で冒険者を目指すという物であれば、フローリアも勿論考助も反対しただろう。

 だが、今回リクが持って来た話は、冒険者の活動に付いて行きその様子を見て手伝いが出来ることがあるのであれば手伝いをするという物だったのだ。

 その地に足が付いた話に、流石のフローリアも虚を突かれた感じになっていた。

 それでも王位継承権のあるリクを野放しに近い状態で、冒険者として活動させるわけには行かない。

 話がそれだけであれば、フローリアはそのことを盾に反対できたはずだ。

 

 だが、リクの話はその斜め上を行っていた。

 護衛としてコウヒを付けると言って来たのだ。

 しかも、既にコウヒは説得済みであるとまで言った。

 その時ばかりは考助もコウヒの顔を確認したのだが、その本人は苦笑しつつも頷いていた。

 どうやってコウヒを説得したのかは不明だが、その情熱で口説き落としたのだろう。

 流石にここまでお膳立てされてしまえば、フローリアも強引に反対するわけには行かなかった。

 無理やり反対したとしても、王位継承者としては使い物にならない可能性がある。

 それよりは、そちらの方面で成長してもらった方が良い。

 結局、フローリアと考助は、リクの話にいくつかの条件をさらに加えて、リクが冒険者の補佐(?)として活動することを許すことになるのであった。

最後に触れていますが、リクは完全に冒険者として活動するわけではありません。

冒険者達に混じってその現実の様子を見るというわけです。

子供であるリクが足手まといになる可能性がありますが、そのためのコウヒが傍にいることになりました。

果たして、リクは足手まといになるのかどうか・・・・・・は、次話以降の話になります。

(普通に考えれば足手まといにしかならないですよねw)

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