(1)予感
考助達は、久しぶりに管理層で家族全員が揃って夕食を共にしていた。
コウヒやミツキは勿論のこと、シュレイン、コレット、ピーチ、更にはフローリアやシルヴィアとその子供たちも勢ぞろいしている。
子供たちもだんだん年齢が進むにつれて、それぞれの勉強などの時間が入っているために、気軽に管理層に来るという事もなくなってきていた。
これが親離れなのかと、寂しく思う考助であった。
子供たちも全員が揃っての食事と言うのが本当に久しぶりだったので、テンションが上がっていたらしく、終始はしゃいでいた。
フローリアやシルヴィアはともかくとして、他のメンバーが揃っていることがそれだけ少ないのだ。
シュレイン達もそれぞれの種族の様子を見に行ったりするために、管理層を空けることが多くなっているためである。
教育かもしくは躾のおかげなのか、普段はおとなしめの雰囲気を出しているトワも珍しく興奮気味に話に加わっている。
子供たちが成長するにつれて、こういった光景も見ることが出来なくなるんだろうなあ、と考助は心の中で考えて少し寂しく思うのであった。
「そういえば、今年はミアが学園に入学だっけ?」
「そうよ。もしかして父上、忘れていたの?」
疑うような視線を向けて来たミアに、考助は内心で冷汗を流した。
背丈はまだまだ子供なのだが、そうやって睨んでくる姿に一人前の女性としての貫録を感じたのだ。
女の子の成長は早いなあ、とは世の父親全てが思う事なのだろう。恐らく。
「いやいや。そんなわけないよ」
そう言って慌てて手を振る考助だったが、ムーっと睨んでくる姿は、どう見てもその言葉を信用しているようには見えなかった。
「そうじゃなくってね。トワの時は色々あったみたいだから、ミアの時は何もないといいなあって思ってね」
トワが学園に入学してからの一年間は、結構な数のイベントが起こったことは、フローリアからも伝え聞いている。
とある生徒のセシル(奴隷)に対する態度から始まって、トワの周囲にいる友達に対するやっかみや一部教師たちの問題など。
考助の知る定番中の定番のイベントは大体起こったのではないかと思うほどだった。
又聞きで伝え聞いている考助でも片手で数えるくらいのイベントは聞いているのだから、実際はもっと起こっていたのではないだろうか。
もっとも、トワはその全てを自らの力で無難に乗り越えていた。
いくらお目付け役の側近がいるとはいえ、十歳の子供にしては十分すぎるほどの成果である。
少なくとも考助自身が十歳だった時のことを考えると、自分の息子だとはとても思えない。
勿論そんなことを口にすることはないのだが。
そんなことを言った考助に対して、ミアが何かを言おうとする前にフローリアが口を挟んできた。
「む。コウスケがそんなことを言うと、本当に起こりそうだな」
フローリアのその言葉に、ミアが「え?」という表情で首を傾げた。
ミアだけではなく、子供たちは全員がそんな顔になっていたが、対する大人たちは納得顔になっていた。
「そうですわね。ミア、十分に気を付けなさいね」
「そうだの。まあ、トワがいるから大丈夫だとは思うが、何かあったらすぐに信用できる大人たちか、トワの所に行くようにしなさい」
「用心するに越したことはないですよ~」
母親であるフローリアだけではなく、他の大人たちも口々にそう言って来たのを見て、ミアも神妙な表情になった。
「えっと・・・・・・なんか、その評価は喜んでいいのか、微妙な所なんだけれど?」
代わりに、言われた考助は微妙な表情になっている。
そんな考助を遮るように、さらにコレットが続けた。
「ミアちゃん。コウスケがあんなことを言うときは大体当たるから本当に気を付けてね。こういう時は、本当に神様らしく当ててしまうから」
トドメを差したコレットに、考助はガックリと首を落とした。
悪い予感が当たるということが、現人神認定されてからは特に心当たりがあるために否定できないのである。
今の言葉は、考助にしてみれば何気ないことを言ったつもりだったのだが、周りの女性陣はそうは取らなかったらしい。
「えっと・・・・・・。はい。気を付けるようにします」
その考助の顔と女性陣の顔を見比べながら、ミアも真面目な顔になって頷いた。
「父上。できればその言葉は、私の時にも欲しかったです」
この一年、色々なことで振り回されることになったトワは、そう言ってため息を吐くのであった。
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そんな会話をしてから数週間たったある日。
ミアは、学園の廊下で父親である考助が言った言葉を思い返していた。
「予言と言うのは、こういう事をいうのかな・・・・・・?」
思わず出てしまったその言葉に、目の前にいた同級生が反応した。
ちなみに、ミアがこんな言葉を呟くことになった原因の一人である。
「は? 何か言いましたか?」
「ああ、いえ。何でもありません」
首を傾げたその男の子に、ミアは取り繕ったような笑顔と言葉を向けた。
相手はミアと同じ子供なので、その笑顔の意味には気づいていないようだ。
「そうですか。では、一緒に帰りましょうか」
何が、では、なのかを詳しく問い詰めたいのだが、ミアはそれを内心に隠したまま笑顔を浮かべて首を傾げた。
「なぜでしょうか?」
「なぜって、将来一緒になることが約束されている二人が一緒に帰るのは当然のことでしょう?」
もしここにフローリアがいれば、笑い転げたに違いないだろう。
目の前にいる少年は、ミアの同級生なのだ。
とうことは、当然年も十歳になるかならないかということになる。
そんな子供が口説き文句を言っているのだ。
勿論、貴族社会であればその年で婚約をかわすという事もあり得る。
だが、この場合はそれには当てはまらない。
「私達が婚約したという話は聞いた覚えがありません。という事を前にもお話したはずですが?」
相変わらず首を傾げて言ったミアの答えが全てだった。
早い話が、ミアがフローリア女王の長女であることを知った男の子達が、押し掛け婚約者を装っているのである。
それが一人だけなら話は早いのだが、一人だけではなく複数いるというのが、頭が痛くなってくる現実だった。
親に言われて行動しているのか、それとも自分で行動しているのかは不明だ。
どの子供たちも、言葉も行動も稚拙な物しかないので、親の入れ知恵である可能性は低いと考えていたりする。
先程のような言葉で口説き落とせると親が考えているのであれば、それはそれで問題だろう。
それに、例えこの事でフローリア(王家)から親に文句を言ったとしても、子供の戯言と返されて終わるだけなのだ。
自分の傍に付けられている側近の言葉を思い出しながら、ミアは内心でため息を吐いていた。
今まではのらりくらりと躱し続けていたのだが、そのミアの態度にモーションを掛けてきている男の子達が焦りを覚えているように見えるのだ。
現に今もミアの言葉に、男の子の張り付けた笑顔の仮面が外れそうになっていた。
ミアが内心で「さて、どうしようか」と考えるのと、目の前の男の子が言葉を発しようとするのと、別の声が聞こえて来たのは、ほぼ同時だった。
「やあ、ミア。今帰りかな?」
「あ、お兄様」
トワの登場に、思わずミアの声もホッとしたようになってしまった。
もっともその変化はわずかで、長い間一緒にいるトワ以外には気づかれなかったが。
「こ、これはトワ王太子殿下」
そう言って頭を下げるミアの同級生に、トワは一つだけ頷き返すだけで済ませた。
「私も今日は、全て用事は終わったんだ。一緒に帰ろうか」
「はい」
トワの提案に、ミアも渡りに船とばかりに頷いた。
「それでは、ごきげんよう」
「ああ、それではな」
まったく口を挟ませずに、さっさと決めてしまった二人に、その男の子は口を開けたまま見送ることしかできなかったのであった。
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「そろそろ本気で侍女を傍に置くことを考えてはどうだ?」
その帰り道に、トワがミアに提案した。
どう考えても今の状況はミアにとって良い状態であるとは言えない。
攻勢をかけてくる男の子達が、無理やりな状況を作って強引にことを進めようとしていない所が、更に事態をややこしくしているのだ。
「そうだけれど、お兄様は常に側近を置いているわけではないから・・・・・・」
「私と其方では、立場も性別も違う。一緒に考えてはいけないよ。現に、女の子達には侍女が傍についていたりするだろう?」
学園内では侍女が傍にいるという事は無いのだが、登校時と下校時に教室まで送り迎えするというのはごく当たり前に行われている。
別にミアが侍女を付けたからと言って、そのことで騒ぐ者は誰もいないだろう。
さらに言うと、トワにはしっかりと影の護衛が付けられている。
ただし、それを周囲に漏らすと意味がなくなってしまうために、妹であるミアにも知らせていないのだ。
登下校時のトワにしっかりと護衛が付いていることを知っているのは、トワ本人と母親であるフローリアだけなのだ。
「・・・・・・一度、お城に戻ってからゆっくり考えてみる」
「その方が良い」
そのミアの返答に、トワも安心したような表情になるのであった。
ミアが入学しました。
それと同時に、試練も訪れました。
今までミアに侍女が付いていなかったのは、トワには送り迎えに来るような側近が付いていないので自分もいらないと断ったためです。
それについてフローリアが何故OKを出したのかは次話で語ります。




