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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 東大陸
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(2)アイリカ王国の事情

前半説明回(その2)です。

 マクシム王からの親書を見ていたアイリカ王国オッシアン王は、予想通りの結果にため息を吐いた。

 先日自身が送った親書に、セントラル大陸で権勢を誇っているクラウンの受け入れについて書いておいた。

 それに対する答えが、世間話の合間に紛れ込ませてあったのだ。

 その結果は、フロレス王国では相変わらず決まりそうもない、という内容だった。

 同時に、フロレス王国に構わず其方はそちらで進めるようにとまで書いてあった。

 いくら親書と言えどあくまでも手紙のやり取りなので、公的な責任などは発生していない。

 二国間の国王同士の親書は、所謂国家間で結ばれる条約や裏取引とも違う扱いになっているのだ。

 それ故に、親書にこちらの都合で進めるようにと書いてあるからと言って、フロレス王国からの抗議などが来ないというわけではない。

 個人的な感情と国家の立場が異なることなどはよくあることだ。

 それは、国王であるオッシアンもよくわかっているのだ。

 

 そもそもラゼクアマミヤ王国と繋がりの強いはずのフロレス王国よりもアイリカ王国の方が、先にクラウンを受け入れる準備が整ったのにはアイリカ王国の国内事情がある。

 東大陸の中での三本の指に入るほどの広大な土地を持つアイリカ王国だが、その国土の五分の一は北側にある山脈と西側にある大森林地帯になっている。

 その二つの地形は、東大陸の中でも有数の強力なモンスターを擁する危険地帯なのである。

 故に両者ともに奥に人が入り込めるような地形ではない。

 ましてや、そこで生活をするなどもってのほかなのだ。

 そうした地理的な条件と東大陸の中で一番近い位置にある国家という事で、より強いモンスターが多く出現するセントラル大陸の冒険者の影響を強く受けているのである。

 国家が有する軍は、あくまでも人対人の戦争で活躍するのが主戦場になる。

 勿論、国民に多くの被害が出るような場合は、軍が出撃することもある。

 モンスターとの相手は、基本的には冒険者が行っているのだ。

 

 常にモンスターの被害が甚大になりかねない危険をはらんでいるアイリカ王国が、クラウンが有するステータス表示に目を付けないはずがない。

 何しろ目安とはいえ、その人物が持つ技術のおおよそのレベルがわかるのだ。

 そのカードがあるクラウンでは、今までのギルドでは考えられないほど冒険者の生還率が高くなっていた。

 間違えてはいけないのが依頼の成功率が上がった点ではなく、生還率が高くなったという事だ。

 国によっては冒険者は使い捨ての道具と割り切っている所もある。

 だが、モンスターの被害が他国に比べて多いアイリカ王国では、冒険者は貴重な戦力なのだ。

 例えモンスターの討伐に失敗しても生きて帰ってきてもらい、重要な情報をもたらしてくれることを何よりの事だと考えているのだ。

 情報さえあれば、より高位の冒険者を差し向けたり、軍隊を送って人数で押し切ることもできる。

 そうした事情を持つために、クラウンカードの有用性に目を付けるのは当然と言えた。

 

 クラウンカードが世に出回り始めた当初は、その技術を盗もうと動いたこともあった。

 しかしながら、国が持つ魔道具の研究機関の回答は、全てお手上げという物だった。

 見たこともない技術もさることながら、下手に手を付けると全てのデータ、技術が吹き飛んでしまうという徹底ぶりだったのだ。

 何とか解析できた技術は、カードに文字を表示するための技術くらいで、その根本であるステータスに関しては全くと言って良い程分からなかったのである。

 さらに言うと、後にクラウンから公表された内容で、カードの解析については引き下がるしか無くなった。

 何しろクラウンカードの根本となっているステータスに関しては、全て現人神が創ったと発表されたのだ。

 即ちクラウンカードは、神具であると公表されたも同然だった。

 今までも過去から受け継がれている神具については、研究はされている。

 だが、そのどれもがいまだに理解不能な技術で作られており、全く以て解析不可能な状態なのだ。

 こうなってしまっては、解析班も「少なくとも現時点では解析不能」と答えを出すのもしょうがないことだった。

 結果として、アイリカ王国ではセントラル大陸内で、クラウンカードが冒険者たちに出回るのを指を咥えて待っているしか無かったのである。

 

 その状況に変化が出て来たのが、南大陸のスミット王国でのクラウン支部の設置の情報だった。

 このスミット王国のクラウン支部の設置が、アイリカ王国内にクラウン支部を引き入れることが出来ないかという議論を巻き起こすことになった。

 折しもクラウンの人間がスミット王国に限らず、その他の国でも支部を受け入れてもらえるように動きまわっているという話が出ていた。

 そうした動きが、国内で本格的にクラウン招致の条件を整える動きに繋がって行ったのである。

 国内での反対は、ごくわずかと言う状況で話が進んでいき、最後の懸念がラゼクアマミヤと繋がりの深いフロレス王国だけとなっていた。

 いきなり親書で送ったわけではなく、表向きの通達でもこうした動きが進んでいるという事をお伺いを立てていたりもした。

 それでもフロレス王国の動きが鈍かったために、いよいよアイリカ王国内ではフロレス王国の顔をたてるのは止めて、クラウン支部の設置に動こうと話がまとまったのだ。

 それを受けてオッシアン国王が親書を送ったというわけだが、その返答が本日返って来たと言う状況だった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 国王がため息を吐くのを見た側近の一人が、その内容を察して声を掛けて来た。

「やはりあちらではまとまらないようでしたか」

「ああ、そうだな」

 側近に対して、オッシアン国王は短く答えた。

 自国の事情が、東大陸内にある他国に比べて特殊だという自覚はある。

 それは、国王だけではなく高官たちの誰もが持っているだろう。

 アイリカ王国におけるモンスターの被害と言うのは、それだけ大きなものなのだ。

 打てる手があるのなら出来る限り打つ、というのが為政者としての当然の役割だった。

 他の事であれば、当然のように自分の利益を考えて反対する者もいなくはないのだが、ことモンスター被害に関してだけはほとんどの者達がそう言う認識を持っている。

 それ故に、早くクラウン支部の誘致をと言う者はいても、反対するという者は皆無に等しいのであった。

 

 憂鬱そうな国王の表情に、その側近は真っ直ぐ視線を向けて来た。

「どうなさるのですか?」

「どうもこうもないな。可能な限り早いうちに誘致を行う。次の会合でそう決まるだろう」

「止められないので?」

「どんな理由で? わが国にはモンスターという大義名分もある。余計な雑音は関係ない」

 この場合の雑音というのは、フロレス王国内からの反発の声が聞こえてくるという事を示している。


「しばらくの間は、風当たりが強くなりそうですね」

 ため息を吐きながら側近がそう言った。

「特に転移門の扱いについて国としてのプライドはないのかと、嫌味が増えそうだな」

 オッシアン王の言葉に、側近が苦笑した。

「まあ、その程度であれば分かりやすくていいですね」

「そうか。それに、そんなことよりも先のことの方が重要だろう」

「そうですね」

 折角クラウン支部を設置することになるのだ。

 冒険者の生還率という目に見える形で結果を出して行くのが、周辺の他国に対しての何よりの主張になる。

 国やクラウンが介入して冒険者の活動を制限するのでは意味がない。

 冒険者自身が、自分の力を見越して生き残っていくことが大事なのだ。

 オッシアン王の言葉には、そんな思いが込められているのであった。

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