(11)宴会
考助はシュレインとミツキを伴って北の塔にあるヴァミリニア城へと来ていた。
目的としてはヴァンパイア達との交流とヴァミリニア宝玉の調査だ。
考助としては宝玉の調査に重きを置きたかったのだが、久しぶりに訪れたという事で、宴会にまで引きずり込まれてしまった。
この日に来ることは伝えていなかったはずなのだが、考助が来たと知ったゼネットがあっという間に宴会をセッティングしたのだ。
考助は、基本的に管理層に引きこもっているので、こうしてヴァミリニア城へと来ることは珍しいのである。
この機会を逃すと次はいつになるのか分からないという事で、ゼネットが素晴らしい手腕を発揮していた。
余りの手際の良さに、考助は思わずシュレインを疑ったのだが、視線を向けられたシュレインは、
「吾も突然聞いたのだぞ? 前もって伝えておくことなど出来るはずがなかろう?」
と言っていた。
確かにその通りだったので、考助もそれ以上は何も言えなかった。
そんなわけで、ヴァミリニア城の宴会場。
本来は社交会を開いたりする場所だったりするのだが、今ではそのようなことが行われることもないので、ほとんどがこうした宴会等に使用されている。
その宴会場には、ヴァンパイア達とイグリッド族の代表者達が来ていた。
この十年でヴァンパイアやイグリッド族は、その数を増やしていた。
ヴァンパイアは、プロスト一族を加えて以降、移住を希望するヴァンパイアを積極的に受け入れるようにしていた。
今では、もはや一族として体裁を保っておらず、個々で活動してるようなヴァンパイアにも声を掛けているのだ。
そして、思った以上に移住を希望するヴァンパイアが多かったために、この階層にいるヴァンパイアは千人近くになっていた。
「それにしてもこの十年でずいぶん増えたよねえ」
考助が隣にいたゼネットに酌をしてもらいながら、そう感想を漏らした。
「そうですね。それだけ安定した地で過ごしたいという者が多かったという事でしょう」
「昔ほどは、つまはじきにされているというわけでもないんだよね?」
「ええ。既に生活基盤を持っている者の中には、移住を断る者もいます。ただ、やはり異種族婚をした者が移住するケースが多い傾向はあります」
ヴァンパイアと別の種族、やはり多くはヒューマンになるのだが、そうした異種族婚をした者は大抵肩身が狭い思いをしている者が多いという事だった。
これは別にヴァンパイアに限ったことではなく、他の種族でも同じような傾向になっている。
原因としては、子供が生まれにくいからと言う理由があるのだ。
特に長命種と短命種の組み合わせはその傾向が強い。
総じて長命種が子供が出来にくいというのが理由にあるのだが、それ以上に生まれにくいとさえ言われているのだ。
「やっぱり子供の問題?」
「そうですね。特に親や肉親から白い目で見られることが多いようです」
子供の問題は、特に身分の高い者ほど顕著になる。
一族の存続が子供の存在に関わってくるのだ。
子供が生まれにくいという条件は、それだけで周囲から責められる要素になりえるのだ。
「それは難しい問題だよね」
自身も子供の問題には直面したことがあるので、思わず深いため息を吐いた。
「はい。家族や家の問題が関わるために、迂闊に口を出せません」
「強引に引っ張ってきたりはしていないよね?」
「勿論です。少なくとも本人の同意は得ています」
微妙な言い回しに考助も気付いたが、それ以上深くは突っ込まなかった。
場合によっては、駆け落ち同然の者を引き入れたりもしているのだろうと察したのだ。
ヴァンパイア達がいる階層と外をつなぐ転移門は、元はクラウン本部と繋がっていたのだが、今では完全にセントラル大陸の別の所に繋がっている。
設置している場所は、完全に交易ルートや冒険者たちが活動している場所からは離れた所にある。
その転移門の存在はヴァンパイア達には知られているが、驚くほど外には漏れ出ていない。
この十年でヴァンパイア達には、彼らを集めているもしくは保護している場所があるという話は広まっている。
だが、過去の事があるので、移住の話を聞いたヴァンパイアは、その存在を自ら話すことが無いのである。
とはいえ、第三者から見れば強引に見えるような駆け落ちなどの手助けをすると、そうした行動が露見する確率は高くなる。
そうしたリスクを分散する目的もあって、転移門の位置を変えたのだ。
いつでもその門は放棄できるようにするためだ。
塔内で暮らすヴァンパイア達は、転移門の存在が町を維持している生命線だと理解しているのだ。
故に、移住の話し合いをする時は、最後の最後まで街がある場所は伝えていない。
移住先が塔の中であることもだ。
そうすることによって、余計なトラブルを招くことを防いでいるのである。
考助は、ヴァンパイア達が危険性を十分に理解した上で転移門と街を運営していく分には、口を出すつもりはない。
最初こそ手助けをしていた考助だったが、今では完全に自分の手を離れていると考えているのだ。
勿論、無理やり塔内に引き込んだりし始めた場合などは別だが、少なくとも塔に来ている本人たちが了承している分には問題がないと考えていた。
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「コウスケさ、ちゃんと飲んでるか?」
考助とゼネットの小難しい話が終わったのを見計らって、イグリッド族の一人が話しかけて来た。
考助に注ぐべき酒をしっかりと持参している。
「あ、これはどうも。ちゃんといただいていますよ」
「相変わらず固いべ。酒の席で畏まってもしょうがないべ」
そう気さくに話しかけてくるイグリッド族は、彼らの工芸品の生産を支えている職人の一人だ。
彼には既に多くの固定客を得ているが、一般には表には決して出てこない謎の人物とされていた。
もっとも、作っているのがイグリッド族という事は知られているので、ある程度の事情を察せられている。
クラウンが出している有名な工芸品の多くがイグリッド族の技工に似ていることから、アマミヤの塔でイグリッド族が匿われているのではと推測をされてはいるが、迂闊にそこに踏み込む愚か者はほとんどいないのである。
例えいたとしても、クラウンが門前払いにしていた。
「ははは。いや、性分なので許してください」
考助は受け流すようにそういったが、嘘ではない。
「あんたは神だってのにな。そんなんで、他の神々とは上手くやっているんだべか?」
これには考助も苦笑した。
神々の中でも特殊な立ち位置にいるという事を知らなければ、そういう心配も的外れではない。
「ご心配ありがとうございます。ですが、久しぶりの新入りだという事で、可愛がってもらっていますよ」
「ほうかほうか。それはよかったべ」
「そう言えば、最近のイグリッド族の活動はどうですか? 困っていることはないでしょうか?」
「わしらの心配はいらん。最近では研究用の新しい素材も次々入ってきてるで、わけーもんは張り切って研究しておる」
多くの固定客を得たことで、イグリッド族の稼ぎはかなりの物になっている。
その余剰を生かして、クラウンは新しい素材を見つけるたびにイグリッド族に回しているのだ。
すぐに作品に生かすことは難しいが、中には大当たりした物もある。
クラウンからの新しい素材の納品は、イグリッド族に対する期待の表れでもあるのだ。
「そうですか。無理ない程度に頑張ってと伝えてください」
「何を言うんだべ。わけーうちは、苦労するのが当然だあ。そうでなけりゃあ、技術など身につかないべ」
職人らしい厳しい言葉に、考助は苦笑した。
間違いなく過去においてそのような経験を通って来た一流の技術者の言葉に、重みを感じた考助は「なるほど」とだけ返答を返すのであった。
ヴァンパイアとイグリッド族の様子でした。
人数が変わったくらいで基本的には変わっていません。
あとは外に向かう転移門の位置を変えたくらいでしょうか。




