(10)聖魔の塔
順調にLVアップをした四属性の塔とは対照的に、聖魔の塔は全くLVが上がる気配が無かった。
両方ともに、塔内での眷属たちの進化は起こってはいるのだが、それでも塔LVは上がっていない。
「うーむ。ここまで来ると、進化以外が条件になっていると考えた方が良いのかの?」
「でも、アマミヤの塔とか四属性の塔とかは全部進化が絡んでるからなあ。今更外れるとは思えないよ?」
二つの塔を管理しているシュレインとコレットが頭を突き合わせて話し合っていた。
勿論、考助もその話に加わっている。
「聖獣と魔獣には進化しているの?」
そう考助が問いかけると、二人はピタリと口を噤んだ。
「? どうしたの?」
「それが、のう・・・・・・」
「この塔の神水とか、四属性の塔の宝玉みたいに分かりやすい設置物があればいいんだけれど・・・・・・」
言いよどむ二人に、考助も察したように頷いた。
「そう言えば、聖魔の塔はそういった設置物って無かったっけ?」
「そういう事だの」
そう返事をしたシュレインは、ため息を吐きつつ頷くのであった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
アマミヤの塔では、神石が比較的早い段階で設置可能だった。
そこから水に神石を浸すというのが思いつきにくいと言えば思いつきにくいが、考助は特に苦労することなく神水を作ることが出来た。
その神水を飲むことによって、神力を扱える眷属が増やすことが出来たのだ。
四属性の塔では、宝玉がそれぞれの塔の属性に合わせてユニークアイテムとして出てきていた。
対して、聖魔の塔はというと、今のところそうした物が設置できるようになっていないのである。
アマミヤの塔のユニークアイテムである世界樹とヴァミリニア城は、塔の機能を使って移動させたがそれが良かったとは言い難い状態だ。
そもそもこの二つは、世界樹が聖力、ヴァミリニア城が魔力を吸って神力を発生する効果があるのだ。
「あれ? そう考えると逆効果だった?」
世界樹とヴァミリニア城の機能を思い出した考助は、ふとそんなことを呟いた。
「え? どういう事?」
考助の呟きを拾ったコレットが、首を傾げた。
「世界樹とヴァミリニア城の効果を考えると逆効果だったのかな、と思って」
「世界樹とヴァミリニア城の効果って、確か・・・・・・」
コレットが内容を思い出すように、視線を上に向けた。
「確かに言われてみれば、真逆の効果だの」
シュレインも考助の言いたいことに気付いたのか、苦笑している。
四属性の塔と同じように、聖魔の塔も聖力や魔力をそれぞれの塔に満たす必要があるのであれば、それらを吸収してしまう世界樹やヴァミリニア城は逆効果だろう。
今更ながらにそのことに思い至った三人だった。
ただし、進化にそれぞれの属性に合わせた力が塔内に必要だと気付いたのは、四属性の塔が進化した時に気付いたことだ。
元々眷属の進化に必要なのは神力だと皆が考えていたので、そのことに気づいていなかった時に世界樹とヴァミリニア城を移転させたのは仕方のないことだ。
問題は、そのことに気付いた今、世界樹とヴァミリニア城をアマミヤの塔に戻すかどうかである。
「というわけで、世界樹とヴァミリニア城の階層を戻すかどうかなんだけど、どうする?」
「うーむ。難しい問題だのう」
「塔LVのことだけを考えれば戻した方が良いのは分かりきっているんだけれどね」
シュレインとコレットが同じような表情で悩んでいる。
コレットの言う通り、単純に塔LVを上げることだけを考えれば、逆効果になっている世界樹とヴァミリニア城をアマミヤの塔に戻すのはありだろう。
「吾の所は塔が変わっても問題ないだろうが、其方の所は大丈夫なのか?」
「そうなのよね。それが問題よね」
世界樹はその力が最大限及ぶように、他の階層にまで力を伸ばしている。
それがいきなり別の塔に移ると階層そのものが変わるので、また一からやり直しとなり兼ねないのだ。
「いや、世界樹はエセナがいるから分かりやすいけれど、実はヴァミリニア城も同じような感じかもしれないよ?」
「む。確かにそうかもしれないの」
世界樹と違ってヴァミリニア城には明確な意思という物がない。
シュレインのあずかり知らぬところで、世界樹と似たような働きをしていないとは言えないのである。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
「そもそも今は、塔内の聖力や魔力は全部神力に変換していないんだよね?」
「勿論」
考助の疑問に、コレットが頷いた。
世界樹自体は地脈の力を使っているので、空気中にあるような聖力を使っているわけではない。
当然余る聖力は出てくるが、その聖力とて全てを神力に変換して運営しているわけではないのだ。
同じことはシュレインが管理している塔でも言える。
「そうか。時間はかかるかも知れないが、今の調子でも聖力や魔力を塔内で満たすことは可能という事かの」
「そういう事」
考助が言いたいことを察したシュレインが言った言葉に、考助が頷いた。
現人神や上位種になっている三人にとっては、時間と言うのはさほど問題ではない。
勿論、限界はあるがそれでもヒューマン程には焦る必要はないのだ。
百年たっても状況が変わらなければ、世界樹やヴァミリニア城を元に戻すという事も出来るのである。
非常に気の長い話にはなるが。
「またずいぶんと気の長い話になりそうね」
そもそも宝玉と言う特殊なアイテムがあった四属性の塔でさえ十年と言う時間がかかったのだ。
そういった物が無く、さらにはマイナス要因になり兼ねない世界樹やヴァミリニア城を抱えると本当に百年でも足りるかどうかは不明である。
「そう思うよ。さっさと結果を出したいのであれば、元に戻すのが一番だと思うけれどね」
考助としても別にどちらでも構わないという感覚で言っている。
どうするべきかは、世界樹やヴァミリニア城を直接管理している二人に任せたいと考えている。
コレットの場合は、エセナがいるのだからなおさら気軽に決めていい問題でもない。
「それに、どうすればいいかの方針はわかっているんだから、それに向けて設置物を置いて行けばいいだろうしね」
聖魔の塔で言えば、聖力か魔力を周辺に発生する設置物を置いて行けばいいのである。
故意的にそれらの力の濃度が高まるように一つの階層に設置すればいいのだ。
あるいは、世界樹やヴァミリニア城の影響が低いと思われる離れた階層に、そうした仕掛けを施せばいい。
工夫を凝らせば、全くやり方が無いわけではないのだ。
「そうだの。それに、四属性の塔を見れば数が問題になっているわけではないようだしの。後がどうなるかは分からんが」
「そうねえ。今はとにかく聖力を増やすことに力を入れた方がよさそうね」
「コレットは特に、エセナあたりに確認したほうが早いかもしれないね」
三者三様の答えに、ようやく今後の方針が決定した。
今はまだ世界樹やヴァミリニア城をアマミヤの塔に戻すことは考えない。
何をすればいいのかは目的が定まっているので、その目的に合った設置物を置いて行けばいいのだ。
ただし、置く場所には注意をして置いて行かなければ、世界樹やヴァミリニア城の影響を受けてしまうので、あまり効果的ではない。
眷属たちも属性に合わせた進化しそうな眷属を召喚するという事になる。
シュレインもコレットも今後の方針が決まったので、それに向けて管理を強化していくことになるのであった。
聖魔の塔が足踏みしている理由でした。
本文中で百年という単位で書いていますが、そこまではかからないかと考えています。
アマミヤの塔の例もありますしね。
世界樹に関しても、今はまだ全ての階層に影響を及ぼしているわけではないです。




