(9)初めての経験
ココロとルカを連れてシルヴィアが管理層へと来ていた。
表向きの理由は、シルヴィアの休暇を使って考助に会うため、という事になっている。
父親に会いに行くのには間違いがないので、表向きと言うのは語弊があるのだが本来の目的は別にあった。
ココロがクラーラ神から加護を得たので、その調子を考助に見てもらうために来ているのだ。
更にもう一つの目的もある。
それはココロに合う交神具を渡すためである。
考助が直接渡してもいいのだが、そうすると一緒に来ているルカが自分はどうなんだと、ごねるかもしれない。
そのため、シルヴィア経由で渡してもらうように家族全員で来てもらったのだ。
ココロに渡す交神具は、遊び道具と言うわけではないので考助から平等に与えるという事が不可能なのだ。
シルヴィアから交神に必要な道具だと言って渡せば、ルカも変にごねることは無いだろう。
子供を持つ親の涙ぐましい配慮なのであった。
「それでココロはどうですか?」
ココロの様子を見ている考助に、シルヴィアが確認して来た。
「うん。特に問題はなさそうだね。まあ、クラーラにもちゃんと確認していたから特に心配はしていなかったけど」
「そうですか」
考助の返答に、シルヴィアは安心したように頷いた。
クラーラ神は、三大神には劣るが十本の指に入るような神である。
その神自身から問題ないと言われていたので不安は無かったが、そこはそれ、考助自身から太鼓判を貰えれば更に安心できるというものだ。
「これからココロに合う神具を造ってくるからちょっと待っててね」
「はい」
考助はそう言って研究室へと入って行く。
親二人が会話をしている間、子供たち二人は遊びに来ていたナナと一緒に戯れているのであった。
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「お母様、これは何?」
ココロはシルヴィアから差し出された交神具を受け取って首を傾げた。
案の上、隣にいたルカが物欲しそうな表情で、その交神具を見ていた。
「前にクラーラ様から神託を頂いたでしょう?」
「はい!」
「そのクラーラ様とお話しするための道具です。ですからルカ。遊び道具ではないのですよ?」
普段巫女として活動しているシルヴィアの言葉だけあって、ルカはすぐに交神具から興味を失ったような顔になった。
ルカ自身は神々と直接話をしたいという欲は無いらしい。
幼すぎて意味がよくわかっていないという事もあるのだが。
ちなみに、神々に関わることは外では口外しないようにと、厳しく言いつけているのでルカが交神具に関する話をすることはまずないだろう。
口を滑らそうになったとしても、常に傍にいる狐が止めてくれているのだ。
もっとも、最近ではそういった失敗もほとんど無くなっていたりする。
「これでクラーラ様とお話しできるのですか?」
「そうですよ。でも少し使い方が難しいので、練習が必要かもしれませんよ?」
「わかった! 練習一杯頑張る! 頑張ってクラーラ様とお話しする!」
「そう。それじゃあ、これから使い方を教えますよ」
「は~い!」
言い含めるように交神具のことを説明するシルヴィアと、一生懸命に話を聞こうとしているココロを見ながら、考助はほっこりとした気分になっていた。
普段一緒に生活しているわけではないので、子供たちやシルヴィアのこうした様子を見れるだけでもうれしくなってくる。
交信具の使い方の説明はシルヴィアに任せて、考助はナナと戯れに行ったルカの様子を見に行くことにした。
別の部屋でナナと戯れていたルカは、部屋に入って来た考助にすぐ気付いた。
「お父様、どうしたの?」
「ん? いや。お母様とココロは頑張って勉強しているから、ルカと遊びに来たんだよ」
考助がそう言うと、ルカは顔を輝かせた。
てっきり考助も二人に交じって難しい話をするのかと思っていたのだ。
「ほんと?!」
「ああ。そんなことで嘘はつかないよ」
「やったあ!」
考助は、両手を上げて喜ぶルカの頭を撫でてあげた。
普段一緒にいてあげることが出来ないので、ルカとしても寂しい思いをしているのだろう。
どうにかしてあげたいとは思うのだが、考助自身が現人神である以上は下手に顔を出すわけにもいかないので、いかんともしがたいのであった。
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ルカを相手に簡単なボードゲームで遊んだ後に、考助は再びシルヴィアとココロがいる会議室へと戻った。
幾分真面目な話をすることになるので、最初からその部屋を使っていたのだ。
考助が会議室へ入ると、ココロが難しい表情になって交神具を見つめていた。
表情を見るからに、上手くいっていないのが分かったが、考助はココロの隣に座っているシルヴィアに視線で確認した。
その視線を受けたシルヴィアは、首を左右に振った。
表情の通り上手くいっていないらしい。
「ココロ」
険しい顔をしているココロに、考助が優しく呼びかけた。
けれどもかなり集中しているのか、ココロは一度の呼びかけでは考助の声に気づかなかった。
「ココロ、ちょっといいかな?」
「え?! あっ、お父様? どうしたの?」
考助が来ていると気づいていなかったのか、ココロは驚いた表情で考助を見た。
「あのね、ココロ。集中するだけだと繋がらないよ?」
「え!? じゃあ、どうすれば?」
「クラーラ様に、加護を貰った時のことを思い浮かべてごらん?」
その考助の言葉に、ココロは首を傾げた。
「クラーラ様の加護を貰った時?」
「そうそう。加護を貰った時、少しだけ言葉を掛けてもらっただろう? クラーラ様は、どうやって話しかけて来たの?」
「どうやって・・・・・・」
ココロは、クラーラから加護を貰った時のことを思い出すように目を瞑った。
ココロは、あの時のことは今でもはっきりと覚えている。
自分の部屋で休んでいるときに、突然暖かさを感じさせる何かが体の中で感じたのだ。
何だろうと思ってその温かい物に意識を向けると、突然女の人の声が聞こえて来たのだ。
後は驚いて、その時のことを母親であるシルヴィアに話すと、それが神託で話した女の人がクラーラ神だという事が分かったのだ。
考助はその時のことを思い出せと言っている。
だとすれば、あの時に感じた暖かみを思い出すのかとココロは考えた。
もう一度目を閉じて、心の中であの時のことを思い出そうとした。
すると今度は、今までうんともすんともいっていなかった交神具が熱を持ったように感じた。
その熱は、あの時の熱と同じような感じだとココロは思った。
そうココロが考えた瞬間、その熱は交神具から手のひらを伝わって、体中を巡っていった。
『聞こえるかしら?』
完全にその熱が身体を巡ったと思った次の瞬間、あの時と全く同じ声が聞こえて来た。
その声は、交神具から聞こえているようにも、身体の中から聞こえているようにも感じて、不思議な感覚だった。
「は、はい! 聞こえています」
『クスクス。そんなに緊張しなくてもいいのよ?』
「はい」
『御免なさいな。今は名残惜しいけど、貴方が持たないから今回はここまで。貴方が一生懸命練習したらもっと多く話せるように・・・・・・』
話したのは、一分程度の時間だったのだが、ココロはそれ以上に感じた。
クラーラの最後の言葉は、途切れてしまって残念ながら聞くことが出来なかった。
どっと力が抜けたような姿勢になったココロを、考助が覗き込んだ。
「上手くいったみたいだね?」
「う、うん! でも、全然お話しできなかった」
考助は、余りの短さにガックリと肩を落とすココロの頭の上に手を乗せた。
「大丈夫だよ。今はまだココロが慣れていないからしょうがない。もっといっぱい練習して、たくさん話せるようになろうね」
「うん!」
考助の励ましに、ココロは大きく頷くのであった。
ココロがチートを手に入れましたw
ある意味黄門様の印籠並みかも?




