(8)南東の塔と南西の塔
北東の塔がLVアップしてから十日後のこと。
考助が南東、南西の塔の制御室でログを確認すると両方揃って塔LVがアップしていた。
これまで全く上がる気配が無かったのに、同時に二つ揃って上がるのはどうなんだろうと思わなくもないが、上がるときはそんなもんだろうと割り切る。
そもそも北西の塔の塔LVが上がって、条件の当りを付けられたのでLVを上げられたのだ。
それを考えると当然の結果かもしれない。
以前からも分かっていたが、これで四属性の塔はLVアップの条件が同じかもしくは似通った物になっていると考えている。
今後もおそらく四つの塔の内どれか一つをLVアップできれば、条件の推測が出来るだろう。
もっとも、この後も条件が同じようになると確定しているわけではないのだが。
本当にそうなのかどうかは、実際にLVが上がってみないことには結論付けることは出来ない。
出来ることなら、今までの法則が外れていないことを願う考助なのであった。
南東と南西の塔は、本来シルヴィアとフローリアが管理している塔だが、今は二人共ラゼクアマミヤの運営に関わっていてほとんど管理が出来ていない状態なのだ。
そのため、他のメンバーが余裕のある時に新しいことを始めたりしている。
新しいことと言っても、何か思いついたことを実行するために、何かを階層に設置したりするといったことだ。
考助にしても、アマミヤ塔では出来ないようなことを他の塔で試したりしている。
アマミヤの塔以外の六つの塔は、それぞれが各々の特性を持っているので、アマミヤの塔で出来ないようなことが出来る。
簡単に言うと、アマミヤの塔にはない設置物があったりするので、そういった物を設置して効果を見たりしているのだ。
中には思わぬ進化をするモンスターが出たりするので、中々興味深い結果になったりすることもある。
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そんなことを考えながら、考助はLVの上がった二つの塔を確認しに行くことにした。
今回は、シュレインが同行している。
北の塔は、全くLVが上がっていないので何か参考になれば、と考えてのことだ。
「ほう。これがウォータバイパーかの?」
「そうみたいだね」
今考助達が来ているのは、南東の塔である。
彼らの目の前にある水辺に、一匹の蛇がとぐろを巻いていた。
当然ながら考助の眷属なので、敵対的な行動に出ることは無い。
全体的に青みがかっているのが、進化の元となったバイパーと違っている所だろう。
元のバイパーは、土のような色をしているのだ。
体長は大体五十センチほどなので、さほど大きいとは言えない。
大きさだけで言えば、元になっているバイパーの方が大きかったりする。
もっとも、ウォータバイパーは今のところ目の前の一匹しかいないので、これが標準的な大きさなのかは不明だったりする。
「ふむ・・・・・・」
そう小さく呟いてシュレインが手を伸ばすと、そのウォータバイパーは何のためらいもなくその腕に巻き付くようにして上って行った。
シュレインのような美女に蛇が引っ付いていると、考助にしてみれば違和感がある。
だが、シュレインは特に表情を変えることなく、それを受け入れていた。
「シュレインは、ヘビは大丈夫なんだ」
考助のその言葉にシュレインは首を傾げたが、すぐに何を言いたいのか分かって頷いた。
「大丈夫だが、そもそもヒューマンのように女性だからと言って爬虫類が駄目だという事はないぞ?」
「あ、そうなの?」
「ああ。それに、コレットも同じではないか? エルフで蛇が駄目だととてもではないが、森になど住めないだろう」
「あ、そうか」
考助は森にすむエルフ達を思い浮かべて、思い切り納得して頷いた。
確かに、森のど真ん中に集落を作っているエルフ達が、いちいち蛇に驚いていては生活することすらままならないだろう。
中にはヘビが苦手なエルフもいるだろうが、野生動物を排除して町を作って生活するヒューマン程ではないはずだ。
「という事は、ヴァンパイアもエルフと同じってこと?」
「どうだろうな? ただ、ヘビなどの爬虫類はよく儀式で使われたりするから、ヒューマンの女性ほど苦手な者は少ないと思うがの」
「ああ、そういう理由か」
確かに儀式のたびに嫌悪感を感じていては、儀式を進行することすらままならないだろう。
「それにしても・・・・・・ずいぶんと懐いてない?」
二人で話をしている間も、ウォータバイパーはずっとシュレインに巻き付いたままだった。
「そうかの? 自分ではよくわからないの」
首を傾げるシュレインに、考助は思わず吹き出しそうになった。
考助の感覚からすれば、ヘビに巻き付かれる美女と言うのは違和感ありまくりなのだが、本人は全く気付いていないようだった。
今までの話で、嫌悪感を持っていないという事がわかっていても、中々幼少期から培った感覚と言うのは抜けないらしい。
現に、現人神になった今でも黒光りする例の昆虫は苦手な考助なのであった。
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名残惜しげにシュルシュルと鳴くウォータバイパーを残して、二人は南西の塔へと向かった。
南西の塔のLVアップの条件に当てはまったのは、リザードから進化したサラマンダだった。
ただ、サラマンダと言っても考助の持っているイメージとは違って、さほど大きい個体ではなかった。
体長でいうと、大体六十センチくらいだろう。
身体の色は真っ赤に染まっている。
そのような目立つ色で、身体もさほど大きくないとなると、すぐにでも天敵に襲われそうだが、流石にリザードよりも上位種という事もあってそういうわけでもないようだ。
一度だけ闘っているところを見せてもらったが、スキルの炎を使ってあっさりと襲って来たモンスターを倒していた。
見た目以上に、戦闘能力は高いのである。
その戦闘の様を感心したように、シュレインが見ていた。
「流石に強いの?」
「あれ? サラマンダは、知ってたの?」
「うむ。サラマンダは、儀式やら魔道具やらの素材として重宝するのだぞ?」
その言葉が分かったわけではないだろうが、何かの雰囲気を感じてサラマンダはシュレインから見えなくなるように影に隠れた。
「そう露骨に避けられると寂しくなるな。考助の眷属を傷つけるはずがないだろう?」
シュレインが苦笑してそう言うと、陰に隠れたサラマンダが少しだけ顔を見せた。
その様子を見ていると、何となく物陰に隠れて様子を見る猫を思わせる。
「言われてみれば、確かに高値で素材が取引されてたな」
魔道具に関しては既に、一流どころか超一流になっている考助も納得した。
「うむ。数が少なくて珍しいというのもあるが、その強さでも倒すのに苦労するからの」
確かに、炎をポンポンと出されては、討伐に苦労するかもしれない。
ただし、普通に火の玉が飛んでくるだけなので、避けようと思えば避けられなくはなさそうだが。
あとは、不用意に触れたりすると熱を発したりするのだが、考助にそのような攻撃をすることは無いので、しばらくの間考助が気づくことは無かったのは余談である。
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こうして二つの塔に新たに加わった眷属を見たわけだが、見事に属性を現していた。
四つの属性の塔は、これで全てが同じLVに上がったわけだが、問題はこの後である。
ここから更にLVを上げるとなると、もっと条件が厳しくなっているのだろう。
だとすれば、どのような条件になっているのか予想が付けづらい。
今回のように長い時間がかかることになると、余計に条件を探しづらくなる。
とはいえ、どこかに答えが書いてあるわけではないので、またのんびりと探していくことになる。
出来ることなら今回のようなことにならなければいいかなあ、と余計なことを考えてしまう考助なのであった。




