(11) 神殿
本日2話更新の2話目になります。
読み飛ばしにご注意ください。
考助は目の前に建っている三つの神殿を見て、ただただ圧倒されていた。
一つ一つの神殿の大きさも、周囲の建物に比べればかなり大きい。
考助がこの世界に来て見た建築物の中でも圧倒的に、荘厳かつ華麗な雰囲気を放っている。
それが三つも揃っているのだ。
三つというのはもちろん、エリサミール神、ジャミール神、スピカ神の三大神を祀っている神殿だった。
といってもこの世界の宗教観では、一つの神殿で一柱だけ祀ることはほとんどない。
三大神を頂点として、それぞれに属すると言われている神々が、それぞれの神殿で祀られているのだ。
そもそも一つの街に三つも神殿があること自体が珍しい。
ほとんどの街は、一つの神殿しかない。その一つの神殿で多種多様な神々を祀っているのである。
信仰の多い神々の場合はともかく、信仰の少ない神々は、その本山以外に巫女や神官がいること自体ほとんどないのだ。
そもそも神殿すらない神々も珍しくないので、そういう神を信仰する場合は、各々で祈りをささげたりする。勿論、信仰方法自体神々によって千差万別なのだが。
考助が今いるのは、ミクセンの街だった。
大陸の南東にあるこの街は、セントラル大陸の聖地として有名な街だ。
セントラル大陸では唯一、三大神それぞれの神殿がそろっている街なのだ。
大陸中から魔物に襲われる危険を顧みず、信心深い巡礼者が多く集まってくる。
もちろん魔物に個人で対応できるわけではないので、そういった巡礼ツアーのようなもので、護衛付きで来るのだ。
それらの信者たちに対応するために、多くの聖職者たちが暮らしている街でもある。
なぜそのミクセンの街に、考助たちが訪れているかというと、転移門の設置の下見というのもあるのだが、シルヴィアの話を聞いたためでもある。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
「・・・ミクセンの街で?」
「ええ。そもそもあの街は、三大神様を祀っている聖地ですわ。あの街でしたら、私自身で行う降神の手がかりが、得られるかもしれませんわ」
「・・・なるほどね。まあ、どっちみち一度は行くつもりだったからシルヴィアも一緒に行く?」
「是非、お願いしますわ」
「了解。・・・・・・で、後のメンバーは?」
「今回は私がご一緒します」
そう言って手を挙げたのは、コウヒだ。
「そうすると、今回私はパスね」
考助が塔の外に出るときは、コウヒかミツキのどちらかは、塔に残ってほしいというのが、以前から考助の希望だった。
「・・・吾も一緒に行っていいかの?」
珍しいことに、シュレインが同行メンバーに手を挙げてきた。
「どうしたの? 珍しいね」
「何、たまには吾もコウスケ殿と旅をしてみたくなっただけよ」
「ふーん? ・・・まあ、断る理由はないから別にいいけど?」
「本当かの・・・!?」
そのシュレインの嬉しそうな表情に、逆に考助が驚いた。
考えてみれば、シュレインと一緒に塔の外に出たことなどほとんどなかった。
別にシュレインが、吸血鬼だからというわけではない。
この世界では、吸血鬼はメジャーな存在であるわけではないが、特に討伐の対象になったりするわけではない。
他の亜人たちと同様の扱いなのである。ただし、例によって亜人を排斥する国が無いわけではないのだが。
今まで一緒に外に出なかったのは、ただ単にタイミングが合わなかっただけだ。
「うん。第七十六層で問題がなければ、いいよ」
「それは、大丈夫じゃ」
「じゃあ、問題ないね。・・・・・・コレットは、そんな恨めしそうな顔をしてもダメ」
「そんな~・・・」
そう言われて、がっくりと肩を落としたコレットである。
コレットは現在、エセナ(世界樹)の巫女として、エルフの里の巫女であるシェリルから修行を受けている最中なのだ。
「コウヒを通して、シェリルさんから厳しく言われているからね」
「い・・・いつの間に・・・」
コレットは修行中の現在、第七十三層の世界樹から離れることを禁止されている。
唯一の例外が、考助がいる間の管理層に来ることだ。
これは考助が、エセナと繋がっているための例外措置である。
かと言って、考助のそばにいればいいというわけではないらしい。
その辺の判断は、エセナとシェリルのものなので、考助にもよくわからない。
「シェリルさんから許可出るまで、頑張ってね」
「・・・・・・はあ~。わかったわ」
再度肩を落としてため息を吐くコレットに、苦笑を返すことしかできない考助であった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
そういうわけで今回は、考助、コウヒ、シュレイン、シルヴィアの四名で、ミクセンを訪れている。
「シルヴィア、エリサミールの神殿はどれかわかる?」
「真ん中ですわ」
「わかった。じゃあ、入ってみよっか。・・・一般人が、入っていいんだよね?」
「勿論ですわ」
いつまでも外観に圧倒されていても仕方ないので、中に入ることにした。
一応の目的であるエリサミール神の神殿に、まずは入ることにした考助だった。
ところがである。
「・・・・・・む?」
エリサミール神殿の入口に差し掛かったところで、シュレインが妙な声を上げた。
「シュレ、どうかした?」
「いや、ちょっとな。・・・フム。・・・・・・吾は別の用事が出来た。夜には宿に戻るので、一旦別れるぞ」
「あ、ちょっと、シュレ・・・・・・って、はやっ」
シュレインは、止める間もなく歩き出して行ってしまった。
「しょうがない。僕らは、神殿に入ろう」
「・・・よろしいのですか?」
「もう宿も決めてあるし、大丈夫だよ。いつまでもここにいても、他の人の邪魔になるし」
「かしこまりました」
「わかりましたわ」
考助たち三人は、シュレインを追いかけるのを諦めて、予定通りエリサミールの神殿に入ることになった。
エリサミールの神殿に入った考助は、再び驚かされることになる。
それは内装のすばらしさのせいではない。
いや勿論、内装も外観に負けず、素晴らしいものであった。
だがそれ以外に、予想外に考助が感じるものがあったのだ。
神殿に入ってすぐの広間は、一般の者達が入れるところであり、正面にはエリサミール神の神像が祀られている。
ベンチなども用意されて、参拝者がその神像に向かって思い思いの格好で祈りをささげている。
考助が驚いたのは、その神像でもなく、その神像の周辺を漂う気配だ。
「・・・・・・これは・・・」
考助は神像に近づいて行き、そのままぺたりと床へ腰を落とした。
それを見たコウヒがアイテムボックスから、布を一枚取り出す。
「主様。これを」
「・・・ああ、ありがとう」
考助は呆然としたまま、それを床に敷きその上に腰を下ろして胡坐をかいた。
そしてそのまま目を瞑り、気配を探り始めた。
神力も当然のように感じることが出来る。だが、それ以外に考助にとっては、懐かしいと感じる気配があった。
考助が覚えている気配は、ここに漂う気配よりはるかに強いものだった。
明らかにあの場所よりは、はるかに弱いものだ。
だが、その神像の周りを漂っている気配の一部は、間違いなくあの[常春の庭]の気配である。
考助は、胡坐を掻きながら目を閉じ、その気配を感じようとする。
考助は特に意識していなかったが、それは明らかに聖職者たちが修行の一環として行う物の一つであった。
だが、シルヴィアが知る誰よりも、はるかに自然に行われている。
シルヴィアの目の前でさらに力強く、あるいは遥かに深く神の気配を感じ取ろうとする考助を、ただ呆然と見つめるシルヴィアであった。
2014/6/9 誤字訂正




