(3)教師の権限(中編)
聖アマミヤ学園における教師の権限は、かなり強い物になっている。
ただし、高い権限と言ってもこの世界において、という注釈になる。
貴族の権限が強い世界において教師の権限が弱いと、下手をすれば授業にならない場合がある。
ニコ侯爵家の跡取りの騒ぎは、その典型と言えるだろう。
相手が奴隷だからと教師の話を聞かないと、授業にならない。
それでは意味が無いので、学園内に置いては教師の権限が強いのだ。
教師の権限が強いというよりも、生徒の貴族としての権利が無くなっていると言った方が良いかもしれない。
早い話が、立場を利用して自分の都合の良いようにすることが出来ないようになっている。
通常であれば、弱い立場の教師を守るための規則だ。
それらの規則は、入学時にしっかりと生徒たちに説明が行われている。
下手をすれば、退学もあり得るという説明がなされているので、心の中でどう思っていようと余計な真似をする生徒はいなかった。
そんな状況で、ニコ侯爵家の跡取りが騒ぎを起こしたのは、ある意味で様子を見ていた生徒たちにとってもいい指標になっただろう。
王族であるトワが仲裁に入り、教師の立場を擁護(?)したのだ。
しかもその教師は、奴隷であるセシルだ。
例え教師の身分が奴隷だろうと、学園としては教師としての立場を尊重すると改めて表明したことになる。
これで下手な騒ぎを起こすようなことは無いだろうと関係者一同は胸を撫で下ろすことになった。
・・・・・・のだが、関係者は再び頭を抱えることになるとは、誰も予想はしていなかったのであった。
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それはトワが午後に護身のための武術を学んでいる時のことだった。
実を言うと、トワ自身は既に幼いころから個人の家庭教師が付けられて修めている内容ではある。
そのトワがこうして護身術を学園で習っているのは、ひとえに級友たちと交流を図るためだ。
そもそもトワ自身は、学園で学べる内容の半分くらいは既に学び終わっている。
流石に高学年の分はまだだが、そこはそれ。
もともと将来国王として国を背負って立つ身であるトワにとっては、学園での級友たちとの交流は非常に大切な事なのである。
そのこと自体は、女王であるフローリアも認めていた。
もっとも、その交流が将来的にどう影響するかはまだ慎重に見極めなければならないだろう。
ついでに言うと、合格点さえもらえば授業自体には出なくてもいい。
そのため、トワは卒業に必要になるさらに上の授業を受けている状態だった。
級友の一人がトワに向かって拳を突き出してくる。
それを綺麗に受け流して、そのままその級友を地面に投げ出した。
「お見事です」
地面に転がった級友が、笑顔を見せてそう言って来た。
それを聞いたトワは、わざとしかめっ面を表情に出した。
「・・・・・・前にもいったと思うが、手加減されてはこちらの訓練にならないのだが?」
「な、何を仰いますか! て、手加減などしておりません」
貴族の子女とは言え、まだ十歳の子供である。
腹芸はトワほどには上達はしていなかった。
顔にはっきりと、何故ばれた、と書いてあった。
トワとしても武術などの授業で手加減をされては、自身のためにならないことは分かっている。
そのため授業が行われる前には手加減無用と言っているのだが、中にはこうしてあからさまに手を抜いてくる者もいるのだ。
今までは、きちんとばれていることを言って来たのだが、そろそろそれも面倒になって来ていた。
これだけ言って本気で来ない者達は、突き放してもいいだろうかと考え始めているトワであった。
今日は訓練にならないかなと諦めたトワに、学園職員の一人が近寄って来た。
丁度いいタイミングを見計らっていたのだろう。
「トワ様。今よろしいでしょうか?」
そう言われたトワは、眉をしかめた。
基本的に学園内では、教師を含めた職員たちは生徒に敬称を付けないことになっている。
それをわざわざ「様」を付けて呼んだという事は、そういう立場になることを要求していることになる。
早い話が、何か問題が起こったという事なのだ。
「・・・・・・何か問題でも起こったか?」
「はい。内容は移動の最中に話します。既に許可は得ていますので、来ていただいてもよろしいでしょうか?」
「そうか。わかった」
トワはそう言って頷き、職員の後について行くのであった。
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トワがこうして呼ばれるという事は、何か問題が起こったことに他ならない。
その問題で一番多いだろうと考えられているのが、高位貴族に対して問題が発生した場合だ。
初年度の授業をほとんど受けなくでも良いトワにとって学園に常時いるのは、学友たちと交流を深めるためとそうした問題に対処するためでもある。
特に学園が始まったばかりの頃は、そうした問題が起こるだろうと考えられたため、トワの成長を待っていたという側面もあったりするのだ。
当然トワは、この学園においては高い権限を持っているのである。
正直、十歳の子供にそこまでの能力を求めるのはどうか、と言う意見も出たのだが、フローリア女王がそれらの意見を一蹴していた。
我が息子を舐めるな、と。
常識的に考えれば周囲の文官の意見の方が正しいのだが、この場合はフローリアに軍配が上がったことになる。
結果としてトワは、学園内では最高の立場を持つ人物という事に収まっているだ。
「貴様など話にならん! さっさと責任者を呼んで来い!!」
トワが目的の部屋に入ろうとすると中から怒鳴り声が聞こえて来た。
この部屋に来る道中で事情はしっかりと聞いてきた。
一言で言えば、先日のニコ侯爵家の跡取りの騒ぎについて、親が怒鳴り込んできたというわけだ。
この声の主は侯爵という事になる。
「お待たせしました」
トワが部屋に入ると侯爵らしき人物は、何だこのガキは、という表情になった。
実はフローリアの子供三人は、貴族たちへのお披露目はしていないのだ。
そのため、子供が三人いることは知られていても、実際の顔を知っている者はフローリアの側近くらいしかいなかったりする。
貴族たちの前に広く顔見せしたのは、五歳の節目の時と学園への入学のときくらいになる。
どちらも親の貴族たちは、遠目で見ただけなので正確にトワの顔を知っていなくてもさほど不思議ではない。
というわけで、トワの顔を知らなかった侯爵は、らしい態度を取ってしまうことになる。
「何だ、貴様は?」
流石の侯爵でも普通であれば、王太子相手にそのような物言いをすることは無い。
トワの顔を知らなかった侯爵が、この時既にやらかしてしまったという事だ。
もっともそんなことは露知らず、侯爵は不快そうな表情でトワを見ているだけだった。
「これは失礼いたしました。私はこの学園の学園長で、トワと言います。よろしくおねがいいたします」
実はラゼクアマミヤ王国において、トワと言う名前は珍しい部類に入る。
フローリアが名を発表してから、子供を産んだ親たちの間で同じ名を付けるのが流行ったりもしたが、それは平民たちの間であって、貴族たちは伝統的な名を付けていた。
そのため、貴族たちの間では「トワ」と言う名は、そのまま王太子のことを意味する名になっている。
そのためこの時初めて侯爵は、目の前にいる子供が王太子であることに気付いた。
先程の自分の態度に焦りはするが、そこは貴族の一人。
そのことをおくびに見せずに笑顔を見せた。
「これはこれは、初めまして」
侯爵はそう言いつつ手を差し出して来たが、トワはそれを無視して椅子に座るように勧めた。
勿論ワザとである。
普通に考えれば、非常に無礼な態度だが、子供のミスのように見せている所が既にトワの作戦だったりする。
現に侯爵は、一瞬表情を歪めたが、すぐに笑顔に戻った。
所詮子供のやることと受け流したのが見え見えだった。
その侯爵の表情を見つめつつ、トワはどう話を進めるか頭を悩ませるのであった。
す、すみません。
前後編で終わらせるつもりだったんですが、中編を挟んでしまいました><
前半の説明が考えたよりもかかってしまいました。
追伸
※トワは十歳です。




