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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 塔のあれこれ(その7)
427/1358

(1)気絶

 悪い知らせは重なるとはよく言ったもので、考助がその悪い知らせを受け取ったのは、第四十一層での大氾濫が終結してから一週間も経っていない時のことだった。

 その日は朝から何やら落ち着かないというか、嫌な予感がするというか、作業をしていても集中が続かないような状態になっていた。

 最近では常に傍にいるミツキが、その様子を見かねて作業の中断を促したほどであった。

 考助がそういった状態になるのは、ほとんど初めてのようなことだったので、流石のミツキも首を傾げていた。

 作業の中断を促したのは、魔道具作成用の道具で怪我をしそうだったからだ。

 ミツキの忠告を考助も素直に受け入れた。

 自分でも何か様子がおかしいという事には気づいていた。

 それでも、内心では首を傾げつつ、作業をしていたのである。

 

 そんなことがあり、くつろぎスペースで落ち着かない時間を過ごしていた考助の元に、一匹の狐がやって来た。

「お?! どうした?」

 その狐は、普段子守りをしている狐だった。

 慌てた様子で突っ込んできた狐に、考助はだらけていた身体を起こした。

 すぐにこの狐が、朝からの不調(?)の原因を知らせに来たと気付いたのだ。

「お? お? お?」

 起き上がった考助の裾を狐が噛んで引っ張った。

「ちょっと待って。落ち着いてちゃんと状況を説明して」

 考助は、そう言ってミツキが渡して来た大きめのタオルを狐へと渡した。

 子育てをしている狐は、人化が出来るのだ。

 ちゃんと人化して話してもらえればいいのだ。

 

 タオルを渡された狐がすぐにそのことを思い出したのか、すぐに人化した。

 大人な女性に変化したその狐は、すぐに管理層に来た理由を説明した。

「コ・・・・・・ココロが! ココロが倒れました!!」

 その言葉を聞いた考助は、スッと目を細めた。

 すぐにでも飛び出したい気持ちを抑えて、一つだけ大きく深呼吸をする。

「待って。ちゃんと一度落ち着こうか。倒れたのはいつ?」

「今朝方です。私と遊んでいるときに突然・・・・・・」

 今朝と言うと考助が落ち着きを失った時と同じ時間である。

 やっぱり予感は当たっていたかと、考助はあまりうれしくない感想を抱いた。

 

「それで? シルヴィアには?」

「勿論知らせてあります。すぐにいらっしゃっておりました」

 考助が慌てず騒がず話しているおかげか、目の前の女性(狐)は多少落ち着いてきていた。

 その言葉を聞いた考助は、ホッとため息を吐いた。

 もし大事になっていれば、シルヴィアから神力念話が飛んでくるはずである。

 それが無いということは、最悪の状態ではないという事だ。

 そこまで考えた考助だったが、すぐに首を傾げた。

「あれ? シルヴィアがいるのに、何できたの?」

「え? シルヴィア様がすぐに知らせてほしいと仰ってました」

「そ、それを早く言ってほしかった・・・・・・」

 ガクリと項垂れたが、後の祭りであった。

 

 どうやら目の前にいる狐(女性)が来たのは、シルヴィアの言伝を持って来るためだったらしい。

 シルヴィアが神力念話を使えればいいのだが、人が多い第五層にいるとどうにも上手くいかない時があるのだ。

 考助が使う分には失敗することは無いのだが、シルヴィアやフローリアが使おうとするときちんと繋がらないことがあると言っていた。

 そのため、神力念話が使えず緊急の連絡があるときは、こうして狐達を使って連絡を取って来ることがある。

 今回もそのために来たようだった。

 ようやく状況を理解した考助は、すぐにシルヴィアに連絡を取るのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

『コウスケ様!』

 考助がシルヴィアに連絡を取った時のシルヴィアの第一声がこれだった。

 その声が、かなり切迫したように聞こえた考助は、内心で冷や汗を流した。

「遅くなってごめん。状況はどう?」

 考助と連絡が取れて多少落ち着いたのか、シルヴィアが深呼吸する音が聞こえて来た。

 その後シルヴィアは、ココロの容体の説明をしてきた。

『それが・・・・・・何か苦しんだり、熱が出てたりしている様子はないのです。お医者様の見立てでも通常の病気ではなさそうだと仰っていました』

「病気ではない?」

 いまいち状況が分からずに、考助は首を捻った。

 熱もなければ苦しむ様子もないという状況が分からなかった。

『ええ。ただ、意識だけが戻らない状況で・・・・・・』

「そうか。意識がない、のか」

 それは確かに、医者でも首を傾げる状況だろう。

 

 よくよく話を聞くと、朝に目を覚ましてからいつも通りの様子を見せていたココロだったが、突然意識を失って倒れたとのことだった。

 乳母がシルヴィアに連絡を取って慌てて駆けつけた時には、ごく普通に眠っている時のような状態だったらしい。

 その後、医者に見てもらったが先ほど言ったように、原因は全く分からないという結果になった。

 そもそも眠っている以外はごく普通の状態なので、医者にしても何かの病気であるとは言えなかったのだ。

 

「成程、そういう事か」

 状況を聞いて納得した考助がそう呟いた後、すぐにシルヴィアに確認を取る。

「それで? 僕に連絡を取ったという事は、神力とかそっち系を疑っているってこと?」

『はい。何かいつもと違う気がするんですが、それが何かまでは私では分からないのですわ』

「そういう事か。・・・・・・そっちに行った方が良い?」

 考助の問いかけに、シルヴィアは一瞬間をあけてから答えた。

『・・・・・・出来れば、来ていただけると嬉しいです』

「わかったよ。すぐ行く」

 シルヴィアの返事が一瞬間が空いたのは、人目を気にしてのことだ。

 だが、シルヴィアの私室であれば、そうそう人の出入りがあるわけではないので考助が長時間いても問題ないだろうと考えたのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 額に何かが触れた感覚で、ココロは目を覚ました。

 目を開いた視界に、誰かの腕が映った。

 その腕を辿っていくと、普段はなかなか会えない人の腕だった。

「あっ、お父様だ~」

 まだ多少寝ぼけているのか、少しだけ舌足らずな声になっている。

 その声を聞いた考助は、目を細めてゆっくりとココロの頭を撫でた。

「まだ眠いんだったら、もう少し寝ていなさい。ちゃんと次起きるまでいるから」

「・・・・・・ん」

 大好きなお父様である考助の言う通り、ココロはすぐにまた目を閉じた。

 額に触れたのが考助だと分かって、安心したのだ。

 考助の暖かい掌を感じながら、すぐに深い眠りに落ちていくココロであった。

 

 ココロが一度目を覚まして再び眠る様子を傍にいたシルヴィアも見ていた。

「それで? どうなのでしょう?」

「うん。まあ、今はゆっくり眠って体を休めれば大丈夫だね」

 一度目を覚ましたココロを見て、何故倒れたのか確信した考助がそう断言した。

 その言葉を聞いたシルヴィアも、ホッと一息ついた。

「よかった。やはり神力に関係していましたか?」

「うん。まあ、その見立てで合っているんだけどね・・・・・・」

 言葉を濁した考助に、シルヴィアの表情が曇った。

「何かあるのでしょうか?」

「いや。今回は大丈夫だよ。前のピーチの時と同じような症状だし」

「ピーチの? ・・・・・・あっ!!」

 少しだけ首を傾げていたシルヴィアだったが、すぐに考助が言いたいことがわかった。

 以前、皆で神力を扱い始めたばかりの頃、ピーチが同じように倒れたことを思い出したのだ。

 今回シルヴィアがすぐに思い当たらなかったのは、神力の扱いを習ったわけでもないココロが同じような症状になるとは思っていなかったためだ。

「では、このままで様子を見れば大丈夫ですね」

 少なくとも今目を覚ました時には、きちんと改善の方向へと向かっていた。

 下手に何かするよりも自然に回復するのに任せた方が良いだろう。

 

「ああ。今回に関しては、ね」

 だが、何故か含みを持たせた考助の答えに、シルヴィアは首を傾げた。

「まだ何か、ありますか?」

「うーん。これは勘なんだけど・・・・・・」

「はい」

「・・・・・・もしかしたら、ココロは早い段階で神力の扱いを教えた方が良いかもね」

「それは?」

「きちんと神力操作できるようにならないと、暴走とかしそうな気がする」

 あくまで考助の勘でしかないが、今朝のことを考えると無視するわけにはいかない。

 しかも悪いことに、この勘に関しては外れる気がしなかった。

「そうですか・・・・・・。早いうちに管理層に預けるようにした方が良いかもしれませんね」

「出来るならそうしたほうが良いかな? まあ、その辺はフローリアとも話し合ってよ」

 考助にしてみれば、子供たちが管理層に来ることになるのは何ら問題が無い。

 しかしながら、他の子供たちが管理層に来たがるようになると、困ったことになってしまう可能性がある。

 その辺は、しっかりとフローリアと打ち合わせをしないといけないだろう。

「そうですね。わかりました」

 シルヴィアは頷きつつ、すぐにフローリアと話をしようと決意をするのであった。

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