(2)調査結果
昨日の時点でお知らせするべきでしたが、今章は塔内部での出来事ですがある程度の話数があるため「塔でのあれこれ」ではなく、別の章として区切ってあります。
ご了承ください。
第四十一層での大氾濫の発生は、考助達にとっても寝耳に水の話だった。
ここで注意してほしいのが、考助にとってではなく、考助達にとって、であることだ。
何か不注意で余計な物を設置したとかで、大氾濫が発生したのであればまだわかる。
だが、冒険者が行き来する第四十一層に何かを設置したという事は、少なくともここ数年は無かった。
それは考助だけではなく、他の者達も同じだった。
フローリアやシルヴィアは、ラゼクアマミヤが出来てからはほとんど塔の管理には手を出していない。
他のメンバーもアマミヤの塔に手を出すことはほとんどなく、あるとすれば考助に何かを指示されたときだけなのだ。
にも関わらず大氾濫が発生した。
原因を特定するために、というよりも、人為的な理由が無かったかどうかを確定するためにここ三年分にわたってログの確認を行った。
大人たちが目を離したすきに、子供たちが何も知らずに設置した可能性が無いわけではない。
ログに関しては、三年前までの分しか残っていないので、それ以前に何かをしてしまっていればどうしようもないが、こればかりは仕方ない。
まずはおかしなことをしていなかったかを三年前に遡って調査をすることにしたのである。
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アマミヤの塔の制御室で、黙々とメンバーが作業を行っていた。
ずっと画面を見続けるのは疲れるので、三台ある制御盤を交互に確認した。
「うん。こっちは異常なしだね」
そう言った考助が調べていたのは、三年前に遡ってから一年間の記録だ。
だが、その間は新しく何かを設置したという事はほとんどなかった。
考助は他の二台の端末を操作しているシュレインとピーチに目を向けた。
「こっちもなかったです~」
「吾の所もそうだの」
シュレインは二年前から一年間、ピーチは一年前から今日の分までログを調べていたが、結局考助と同じように何もなかった。
「人為的じゃないと分かったのはいいけど・・・・・・原因は何だろうね?」
取りあえず、管理側で何かをやらかしたために起こった大氾濫ではないという事でホッとした考助だったが、今度は何故発生したのかが気になって来た。
「ふむ・・・・・・そもそも前提が間違っていたのではないかの?」
シュレインの言葉に、考助がしかめ面になった。
その可能性は考助も考えていたのだが、出来れば考えたくなかったのだ。
だが、そう言うわけにもいかず、ため息を吐いてから言った。
「元々、塔の階層でも氾濫とか大氾濫とかは発生する可能性がある、ということだよね?」
「そうだの」
シュレインはそう言って、小さく頷いた。
今まで考助達は、塔の中では氾濫は発生しないと考えていた。
それは単に、一度もそれらしいモンスターが沸いたことが無かったためだ。
だが、今回の件でそれは間違いだったと思い知らされたことになる。
そもそも塔の中ではない、普通の土地でも同じ場所で氾濫が発生するのは数十年毎でも珍しくない。
ただし、そう考えると百層あるアマミヤの塔では、毎年どこかの層で氾濫が発生していてもおかしくはないのだ。
そう考えると今まで氾濫が発生していなかったのは、不思議だということになる。
とは言え、氾濫が発生するメカニズムがよくわかっていないので、そう単純に考えられない所がある。
結局、どのタイミングで氾濫が発生するのかというのは分からないという事だ。
少なくとも今回の件で、塔で氾濫が起きないというのは間違いだということがわかった。
今後は、塔の経営も氾濫が起こることを前提に考えて行かなくてはならない。
そう考えると頭が痛くなって来る考助なのであった。
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討伐軍と冒険者の混成部隊は、現地に到着するまでに時間がかかる。
何しろ人数だけでも七百人近い人数の移動になる。
内訳は、討伐軍が約五百人で、冒険者が二百人になる。
人数が人数の為、転移門を使用するだけでかなりの手間がかかるのだ。
今回は、事情が事情だけに荷物搬入用の大型の転移門を使って移動している。
それでも一度に移動できる人数には限りがあるので、階層を移動するだけでもかなりの時間がかかってしまうのだ。
転移門から転移門への移動は大部隊でまとまって移動する必要が無いが、氾濫が発生している階層はある程度まとまった人数で移動する必要があるのだ。
また、第四十一層に着いた時も、モンスターの集団に押しつぶされてしまっては意味がないので、警戒するためにある程度の数は必要になる。
そうした諸々を考えると、普段冒険者たちが移動に要している日数よりも多くの時間がかかってしまうのである。
そんな中、城で状況を待つフローリアに、考助から神力念話が飛んできた。
『フローリア、今大丈夫?』
『大丈夫だ。何かわかったか?』
神力念話など考助はほとんど使わないのだが、今回は緊急性を要するために遠慮なく行使している。
どうでもいい話だが、考助が使っているので他の者が見れば、神託だと思われるかもしれない。
もっとも、神話念力は言葉に出す必要が無い以上、傍から見ていてもばれないため、会話をしているとは気づかれにくいのだが。
『いや。少なくとも人為的な物は無かった。結論から言うと、自然発生したと考えた方が良い』
『そうか』
塔でも氾濫が起きうる。
そのことを考えて、フローリアが沈鬱な表情になった。
『ただ、一つだけちょっとした傾向を見つけたかもしれない』
『傾向? 何だ?』
『獲得できている神力がここ最近減っているんだよね。いつものブレの範囲だと思ってたけど、もしかしたら氾濫の発生に関係しているかもしれない』
普段もアマミヤの塔が毎日蓄えている神力にはブレがある。
多くなる日もあれば、少なくなる日もあるのだ。
そのため、いつものように少なくなっているのだと考えていたのだが、この現象が氾濫の発生に関係しているかもしれないと当りを付けたのだ。
それを調べるためには、まずは今発生している氾濫を抑えないと分からないのである。
『なるほど。それは朗報・・・・・・と思っていいのかな?』
『どうかな? これが氾濫発生の結果だとしたら、もしかしたら前兆の段階でわかるかも知れないね』
『だとすれば、多少は安堵できる情報だな』
前もって氾濫の前兆がわかれば、少なくとも今回のように大氾濫になることは抑え込めるかもしれない。
フローリアが期待するのは当然のことだろう。
『ちゃんと検証しないと正確なことは分からないけどね』
『わかっているさ』
『それで、連絡を取ったもう一つの理由だけど』
『む? なんだ?』
もう一つの理由に思い当たらずに、フローリアが首を捻った。
『今回の大氾濫。こっちでも手を出して良い?』
『何!?』
考助の思わぬ提案に、フローリアは驚いた。
冒険者達が出入りしている階層には、今まで一度も管理者として手を出したことが無い。
それを、今回は解禁するというのだ。
『何故だ?』
考助の提案に、フローリアは疑問を呈した。
『一つは、塔の中で起きている氾濫が、外で起きている物と同じか確認するため』
『他には?』
『折角実力者が揃っているんだから、こっちの実力も見てもらっておこうかと』
『む・・・・・・』
考助が塔を攻略してから十年という歳月がたって、冒険者達もだんだんと無謀な挑戦をする者が増えてきているのだ。
おかげで、塔内部で帰らぬ人となる冒険者の数が増えている。
ドライに考えれば、塔内部で亡くなると神力に変換されるので、塔の運営とすればむしろ有難いとも言えるが、第五層の街の人口と言う意味では有難い話ではない。
折角の機会なので、塔の攻略が出来るという実力を見せつけることが出来れば、と考えたのである。
『・・・・・・なるほど。確かに一理あるな』
『だよね?』
『分かった。すぐにクラウンに連絡を取って検討しよう』
『頼むね』
混成部隊が現地に到着するまでもう少しだけかかる。
それまでに、クラウン上層部と打ち合わせする時間は十分にあるのだ。
そして、うちあわせをした結果、塔の管理者としての介入を認める方法で決まった。
クラウン側も最近の冒険者たちの失敗率は気にしていた所だったらしい。
考助の提案は、ある意味で渡りに船だったといえる。
こうしてアマミヤの塔で初めて、管理者チームの本来の実力が人目にさらされることになるのであった。
管理チーム出場決定!
誰が出るかは楽しみにお待ちくださいw




