(1)学校
フローリアがラゼクアマミヤの建国を宣言した日は、建国記念の日として定められている。
この日は、記念日としてアマミヤの塔の街では、毎年祭りが開かれている。
十年目の祭りは、盛大に行われた。
考助は、現人神だとばれないようにきっちりと変装して、子供たちと共に祭りを楽しんだ。
子供たちの中で、一番の年長であるトワは、考助が正体を隠す理由を察することが出来るような年になっている。
他の子供たちに、絶対にばらしてはいけないと諭す姿を見て、考助は微笑ましい気分になっていた。
そんな子供たちを引き連れつつ、女性陣を引き連れて歩く姿は別の意味で人目を引いていた。
だが、その辺の感覚がマヒしつつある考助は、ほとんど気づいてはいなかったが。
ちなみに、ラゼクアマミヤの国民たちには絶大な人気を誇るフローリアとシルヴィアは、当然のように変装していた。
写真があるわけでもないのに、正確に容姿が伝わるこの世界に不思議な感じを覚えた考助であった。
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そんな日常を過ごしている間、ある計画が進みつつあった。
トワの十歳に合わせて進められていたその計画とは、学校、即ち教育機関の設立である。
ラゼクアマミヤの建国当初からフローリアと二人で話したりはしていたのだが、何とかトワの成長に合わせて学校設立に目途が立ったのだ。
一番のネックだったのはやはり、印刷技術の確立である。
教育をしやすくするには、教科書的な物が合った方が教えやすい。
どうしても無くてはならないという物ではないのだが、やはりあった方が良いのには違いない。
考助が持っているイメージを技術者たちに伝えて、どうにかこうにか二年ほど前には最初期の印刷機もどきが出来ていた。
ちなみに、セシルやアリサに本を書かせたのも、学校の設立を考えてのことである。
まさか最初からあのような物を作り出すとは思わなかったのだが。
管理層の会議室では、ラゼクアマミヤの主要な者達が集まって、学校に関しての最終確認が行われていた。
何故管理層で話し合っているかというと、考助がいた方が分かりやすいからである。
この世界には、学校のような施設がほとんどない。
似たような施設はあるのだが、どちらかというと私塾に近い物だ。
公的機関が用意している教育機関は、世界初といってもいい。
そのため、よりイメージを持っている考助が話し合いに加わることをフローリアが望んだのだ。
参加者たちは考助が転生者であることは知らないが、現人神である考助が最初から教育機関に関してのイメージを持っていることを不思議には思っていないようだった。
この春から開校が予定されているラゼクアマミヤ初の学校は、既に最終調整に入っている。
教師役の人材の確保から、施設を管理する事務員まで人選は終わっていた。
「それで? 肝心の生徒は集まりそうなの?」
一番肝心なことを考助が切り出した。
そもそも生徒が集まらなければ、教育機関とは言えない。
考助の問いかけに、フローリアの視線を受けた文官の一人が答えた。
「問題ありません。トワ王太子が入学されるという事で、その繋がりを求めて貴族たちの子女がこぞって入学を希望しています」
「うーん。やっぱりそうなったか」
渋い顔になった考助に、フローリアが首を傾げた。
「何か問題でもあったのか?」
「いやいや。問題と言うほどでもないんだけどね。僕の中では学校って全ての子供たちが集まって勉強する所というイメージがあるから」
今のままで行くと、学校というよりも社交をする場所という事になり兼ねない。
もっとも考助のイメージは、現代社会、それも先進国に近い国家だけに限った話なのだが。
過去に遡れば、時間に余裕がある貴族の子女が通う場所だった所なのだ。
流石に一足飛びに現代社会のような教育機関を作るとなると、混乱が大きくなるだろう。
フローリアが即座にそうした問題点を指摘して来た。
「全ての子供たちというが、流石にそれだけの子供を受け入れる施設を作ることなど不可能だぞ? 何より教師役の人材がいない」
フローリアの言葉に、この場に居る側近たちが必死に首を上下に動かした。
そもそもこの世界における教育というものは、資金のある者が家庭教師を雇うのが主になっている。
そうした家庭教師は、貴族の次男三男が務めることが多いのだ。
とはいえ、一応特殊技能に数えられるために、絶対的な数が足りていない。
国にいる全ての子供たちを教育できるだけの数はいない。
「別に、いきなり全国に建てることは無いと思うけどね」
考助としては、少なくとも第五層の街に住む子供たちには教育が出来れば、と考えていた。
だが、それにはフローリアが首を振った。
「ここだけで始めてしまうと、他の町でうちでも始めろと言って来るのが落ちだ。今年はともかく来年困ることが目に見えている」
「だったら試験制に・・・・・・あ、それもダメか」
大学のように試験を設けて合格した者だけを通えるようにしたとしても、結局のところそれも家庭教師を雇える資産を持っている者が有利になってしまうのだ。
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全ての子供たちに教育を受けさせるには、さらに根本的な問題もある。
「そもそも農村のような所の親たちが、子供たちを通わせるとは思えないしな」
フローリアがそう言った通り、教育を受けるのは貴族たちのような上流家庭の役目だと考えている。
だたし、貴族と言ってもピンからキリまで色々あるのだが、その問題はここでは別の問題だ。
ともかく、そうした一般家庭の親たちが、子供たちを教育機関に預ける意味を見いだせない可能性がある。
そんなことをするよりも、親の元で仕事の手伝いをさせた方が良いと考えるのだ。
「なるほどねえ。まあ、それに関しては一ついい案があるけど、そもそも学校の数が無いんだから意味がないよね」
「何?! どんな案だ?」
最初のうちは、人材不足から一つだけの教育機関を作ることにしたのだが、長期的なもので学校を増やしていく計画はある。
その際に、子供たちをどうやって集めるかというのは議論がされていたが、特にいい案は出なかったのだ。
側近たちの視線が集まるのを感じながら、考助はちょっとしたことを提案した。
「簡単な話だよ。昼食を学校側で用意すればいい。お金はかかるけどね。子供たちの栄養の改善にも繋がるから、やってみる価値はあると思うよ」
考助の提案に、他の者達は虚を突かれたような表情になった。
そもそもここにいるのは貴族たちで、食うにも困るような状況になったことがある者達ではないのだ。
貧困層の者達がそうした状況になることがあることは知識としては知っているが、こうしたことに結び付けるほど実感できているわけではない。
ついでに、現在の第五層の街は、常に仕事が発生しているような状況なので、いわゆるスラムのような場所が出来ていないのも思いつかなかった理由の一つとして上げられる。
「それは、確かに・・・・・・。しかし、実行するとなると金額が・・・・・・」
「そうだね。かなりの額が嵩むのは確かだね。それに、今は入学にもお金を取っているんだよね?」
考助の問いかけに、フローリアは頷いた。
教育というのは、はっきり言えば金食い虫でもあるのだ。
そのため、今回出来る学校は、寄付という形ではあるが親からお金を集めてもいる。
そうなると、どうしても親の立場という物が影響してくる面は否定できないのだ。
一応学校の理念として、親の立場に影響しないという物を掲げてはいるが、どの程度実効性があるかは今のところ不明である。
「まあ、いきなり全部を実行するのは難しいよ。取りあえず今は出来ることをやってみる方向で考えた方が良い」
結局いつもの結論で落ち着いたところで、開校に向けた打ち合わせは終わることとなった。
そして、いよいよ春にラゼクアマミヤ初の学校が開校することになるのであった。
いよいよ定番と言える学校がスタートします。
トワの成長に合わせて、今まで水面下で用意してきました。
貴族たちが通う学校になります。
別に印刷技術を待たなくてもよかった気もしますが、トワの成長に間に合わせたという感じでしょうか。
更に、もう一つも動き出します。
こちらは、行政が用意する学校とは別に進行していましたが、公教育が出来るのを待って用意されていました。
その話は次回です。
※学校の話を本格的に進める前に、アンケートを取りたいと思います。
後ほど活動報告を更新するので、ご協力願います。




