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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 大陸最後の未勢力圏
410/1358

(7)反乱前

 その噂は、北の街の中を静かに、けれども迅速に広まって行った。

 その噂とは、北の街がラゼクアマミヤの傘下に入るための話をしている、という噂だった。

 街の住民達は、その結果がどう出るかを固唾を飲んで待っていた。

 傘下入りすることを望む方向で。

 この十年で、北の街が他の三つの街に置き去りにされていることは、主に商人達の間で取り沙汰されていた。

 行商達にしてみれば、より勢いのある街の方が商機がある。

 それ故に、行商達は街の噂にはより敏感なのだ。

 その行商達を介して商人たちに噂が持ち込まれているのである。

 北の街が貴族たちの厳しい締め付けに苦しめられてきたのは、商人たちはよくわかっている。

 何しろ、税が他の町に比べてより高いのだからわざわざ詳しく調べる必要もない。

 それでも北の街が他の三つの街と肩を並べて発展していたのは、北大陸からの品物を扱う玄関口になっていたからだ。

 北の街の貴族たちは、北大陸からセントラル大陸に入ってくる商品を独占することで、利益を得ていたのだ。

 ラゼクアマミヤが出来てからもその構図は変わらなかった。

 むしろ変化を恐れた貴族たちは、ラゼクアマミヤの傘下入りを拒否し続けていたと言われている。

 実際には、教会の影響力もあるのだが、そこまで一般市民たちは理解していない。

 貴族というフィルターを通して教会の恩恵に授かっているので、一般市民は素直に教会を信仰しているというだけのことなのだ。

 

 北大陸の品を求めてやってくる行商達の口から各街の状況は、伝えられている。

 国家に組み込まれてしまうというデメリットはあるのだが、それ以上の結果を三つの街は出しているのだ。

 新しい商機をつかんだ者が、それまでとは一変した生活へ変化したというような話も出てきている。

 それは三つの大きな街だけではなく、この十年で傘下入りした町や村でも似たような話が出てくるようになっていた。

 勿論、中には衰退してしまった町や村もあるが、それはラゼクアマミヤがこの大陸を支配する以前に比べてはるかに少ない割合だ。

 何しろラゼクアマミヤの討伐軍の存在によって、モンスターによる被害が激減しているのだ。

 それだけでも傘下入りする価値はある。

 そうした話を噂で知っていた北の街の一般住民は、だからこそラゼクアマミヤへの傘下入りの噂を聞いたときに、密かに期待していたのである。

 これで閉塞感漂うこの街も変わることが出来る、と。

 その期待感を胸に、住民たちは結果を待っていた。

 ところが、つい先日流れて来た一番新しい情報は、話し合いが不調で終わった、という物だった。

 詳しい内容が流れて来たわけではない。

 単に駄目だったという結果の話が出て来ただけだ。

 今まで通りであれば、住民達は残念に思いながらもその結果を受け入れていたかもしれない。

 だが、今までの積もり積もった思いと、これ以上他の三つの街に離されてしまうのは駄目だという思いが重なって、ついに住民達が爆発することになったのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ルーカスは、執務室からの光景を眼下に見ながらため息を吐いた。

 北の街の行政がおこなれている建物の前にある広場に、多くの住民達が集まっていた。

 理由は、ラゼクアマミヤへの傘下入りを拒否した上層部に対する抗議のためだ。

 あの会議からルーカスは何もしていなかったわけではない。

 独自のルートを使って、住民達の不満が溜まって来ていることも把握していた。

 しかしながら気付いたときには時既に遅しで、気付いたときには十分な勢いで噂が広まっていたのだ。

 それを無理やりにでも抑え込むと、逆に反発されることがわかっていたために何もできなかった。

 その結果が、今の光景という事になる。

 まだ反乱という所までは行っていない。

 だが、このまま放置すればいずれ爆発することは間違いないだろう。

 

「あの時既に、ラゼクアマミヤ側は気づいていたというわけか」

 ルーカスは、数日前に行われた会談の時に来ていたラゼクアマミヤの代表者の顔を思い浮かべた。

 ラゼクアマミヤがどういうルートで北の街の状況を掴んでいたのかは分からない。

 案外、ごく普通に商人たちの噂でもつかんでいたのかもしれない。

 やっていなかったのは、北の街の上層部だ。

 自分たちが治めている街の状況さえ、正確につかめていなかったのだから。

 ルーカスが持っている独自ルートというのも、直接繋がりのある商人たちから仕入れた物だ。

 早いうちからその情報を掴んでいれば、と思わなくもない。

 住民達は貴族たちに対する不満は常に持っていたので、膨れ上がることに気付けなかったというのもある。

「いや・・・・・・結果は同じだったか」

 商人たちの噂というのは、商売に繋がる種だ。

 いくら上から押さえつけてもすぐに筒抜けになってしまう。

 さらに、強引な手を取ることさえできなかっただろう。

 何しろ、その商人というのは、街の商売を支えている大店さえ含まれていたのだ。

 全ての商人の活動を抑え込むことなど不可能だったのである。

 

「後悔先に立たず、か」

 この状況になってジタバタしてもしようがないことは、ルーカスも理解していた。

 何しろ今広場に集まっている人々は、街の人口の三分の一以上が集まっているのだ。

 勿論正確に数えたわけではないが、数えるのも馬鹿らしくなるほどの数だ。

 こんな状況で力で抑え込んだとしても、その後は街が街として機能しなくなってしまう。

「どうされますか?」

 ため息を吐くルーカスに、側近が聞いてきた。

 長年側近として付いてきてくれている者だったので、声を掛けてくるタイミングもルーカスの思考の邪魔にならないタイミングだった。

「どうもこうもない。予定通りにいくさ」

「・・・・・・畏まりました」

 本当に一瞬だけ言葉に詰まった側近に、ルーカスはしっかりと気付いた。

 ルーカスとてこの相手の事はよく知っているのだ。

「反対するか?」

 問いかけるルーカスに、今度はすぐに首を振った。

「いえ。そのために準備をしてきたのです。反対するつもりなら、最初にしています」

「そうだったな」

 側近の言葉に、ルーカスはクツクツと忍び笑いをした。

 お互いに長い付き合いになる。

 それだけに、互いに考えていることはよくわかるのだ。


「それにしても奴らの動きは遅いな。まだ寝てるのか?」

 ルーカスのとぼけた言葉に、側近はわずかに笑顔を浮かべてすぐさま真顔に戻った。

「そろそろかと思います」

「まあ、そうでなくては困るのだが、な」

 そんなことを二人で話をしていると、やがてドアの外からガヤガヤと騒がしい音がしてきた。

「ようやくお出ましか」

 その音で、今まで待っていた者達が来たと理解するルーカスであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 執務室に入って来た者達を見たルーカスは、おおよそ予想通りのメンバーが揃っていることに、内心で笑っていた。

「何をしているんだ、ルーカス!」

 状況が状況なので、思わず出てしまったのだろう。

 仮にも領主であるルーカスを呼び捨てにしたその者をルーカスの側近が睨み付けてた。

 ルーカスは、それを視線で押さえつけて、どこかとぼけた表情になった。

「何を、とは?」

「愚民どもが騒ぎを犯しているだろう! なぜ押さえつけない?!」

 街の住民を愚民呼ばわりするとは、未だに状況がわかっていないらしい。

 ルーカスは、内心で呆れつつもその表情を表に出すことはしなかった。

 これくらいの腹芸が出来なくては、領主の立場など務まらないのだ。

「これはおかしなことを仰る。街の衛兵たちを動かす権限は、其方にも後ろにいる貴方達にもあるはずだが?」

 自分に言わずに、お前たちが動かしてはどうか、とルーカスは言っているのだ。

「そ、それは・・・・・・」

 途端に及び腰になる重役たちに、ルーカスは首を振った。

「今のこの状況で衛兵たちを動かしても余計騒ぎになるだけだ。少し落ち着くまで待った方が良い」

 実際は、落ち着くかどうかなど分からないのだが、如何にもありそうなことを言って目の前の者達を落ち着かせた。

 今のルーカスが落ち着かせたいのは、広場に集まっている住民達ではなく、重役たちなのだ。

「そ、そうか。わかった」

「取りあえず、今は沈黙して騒ぎが落ち着くのを待つんだな。・・・・・・ああ、念の為護衛を置くのを忘れるなよ」

 ルーカスの当たり前といえば当たり前の忠告に、重役たちは納得したように頷いてこの場を去って行った。

 

「さて、ここからは時間との勝負かな?」

「そうですね。・・・・・・始めますか?」

「ああ。打ち合わせ通りに頼むぞ?」

「かしこまりました」

 重役たちを見送ったルーカスと側近は、そう話した後で各々の役割を果たすべく動き出すのであった。

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