(4)初転移
前半は説明回。
レメショフ伯爵がラゼクアマミヤの駐在官に就任したと、正式に国内に発表された。
その発表を聞いた国内の貴族たちの反応は、二分された。
「気の毒に」というのと「自業自得だな」というものだ。
前者は、自分も似たり寄ったりの事をしようと考えていた者で、後者はそうでない者だ。
その就任発表と共に、国王からはクラウン支部に関して改めて発表された。
支部にある転移門は、国王かクリストフの許可が無いと使用することが出来ないと言う物だ。
正確には国王もクリストフも転移門を使えるようにすることは出来ない。
あくまでもクラウン側の許可が必要になるからだ。
だが、クラウンに打診することは出来る。
きちんと打診してクラウンからの許可を取った上で、申請者に対して利用してもらえばいいのだ。
間違ったことは言っていない。
ただ間にクラウン側の許可が「絶対に」必要になるだけである。
事実とはずれているのだが、わざわざ言わなくていいことは言わない。
これが政治の世界なのだ。
さらに、レメショフがラゼクアマミヤの駐在官になったことで、転移門の扱いも変わった所がある。
駐在官になったレメショフに対して、いつでも転移門を使えるカードがラゼクアマミヤ国から渡されることになったのだ。
国王に対してさえ渡されていないカードが一貴族に渡されるのは問題と言えば問題なのだが、今まで一枚も無かったことを考えれば大きな前進だ。
ここで注意をしなければならないのが、カードを発行することになるのがクラウンではなくラゼクアマミヤ国という事だ。
ややこしい話になるが、普段スミット国のクラウン支部にある転移門を使用しているのは、クラウンの商人達である。
その利用方法のほとんどが、商売用の物を運ぶためだけに利用されていた。
スミット国側が何かの話し合いの場を持ちたいときなどは、手紙などで知らせてスミット国で会談をするといった方法を取っている。
その際は、当然ラゼクアマミヤ国の関係者が転移門を使って移動している。
めんどくさいことこの上ないが、初めての他国との転移門なので、厳重すぎるほど厳重に管理されているのだ。
それにもかかわらず、今回レメショフに対してカードを発行することになったのは、駐在官と言う形のある物が出来たためだ。
駐在官が就任するという事は、当然ながらラゼクアマミヤ国内に対して責任が発生することになる。
簡単に言えば、渡したカードを使って何か事が起こったとすれば、その責任をスミット国に対して負わせることが出来るのだ。
その場合個人ではなく国に対して負わせると明記する事が出来る。
カードを個人に対して発行すれば、トカゲの尻尾切の扱いになり兼ねないための処置だ。
いくら国王やクリストフの許可を得たとはいえ、個人の暴走と言われてしまえばそれまでなのだ。
それが、駐在官と言う明確な立場で問題を起こせば、スミット国に対して責任を負わせることが出来る。
個人に対してカードを渡す際に、国に対して責任が発生すると明記すればいいだけなのだが、一々そのような手続きをすることが出来ないというスミット国側の事務的な理由もあったりする。
その辺の細かい理由のために、個人に対しては発行することはしていなかったのである。
転移門が使用できるカードが発行されることによって、レメショフの判断で自由にラゼクアマミヤに行くことが出来るようになる。
そのカードを国王ではなく一貴族が持つことになるのは常識で考えればおかしなことになるが、もともとラゼクアマミヤ国が要求したことだとスミット国内では押し切ることにした。
国王やクリストフの本音としては、レメショフを人身御供にして様子を見ているというのもあるのだが。
問題が起きなければ、改めて要求してもいいだろうと考えている。
そんな政治的な思惑は別にして、レメショフとクリストフはカードの受け取りのためにラゼクアマミヤの首都に赴くことになったのであった。
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クリストフとレメショフは何名かの護衛を引き連れて、クラウン支部へと向かった。
本格的な任務開始は数日先だが、今日は転移門を使うためのカードを受け取りに行くのだ。
ついでにクリストフもラゼクアマミヤの高官たちと顔を合わせることになっている。
やり取り自体は既に何度も行っているので、大袈裟な集団にはなっていない。
流石に王太子であるクリストフには、数名の側近が付いてきているがそれだけだ。
ラゼクアマミヤのスミット国の大使館に残るのは、十数名と言った所である。
レメショフが駐在官に正式に決まったので、その彼が滞在する館が大使館という事がこれまでの話し合いで決定したのだ。
ラゼクアマミヤにとっては、記念すべき第一号の大使館になる。
他の国がこれまで大使館を作ってこなかったのは、自分たちと似たり寄ったりの理由があるのだろうとクリストフは当りを付けている。
そもそもスミット国以外には、まだクラウン支部も存在していないので、当然転移門も存在していないのである。
先に数名の護衛を転移門で送った後は、クリストフとレメショフも同じように転移門を利用した。
初めての転移門は、特に何か違和感があるわけでもなかった。
気持ち的には気付いたときには別の部屋にいたという感覚だった。
「ようこそ。ラゼクアマミヤへ」
転移門を管理している者が、クリストフ達に頭を下げて来た。
「こちらの扉を通った先に、案内の者が待っております」
言われるがままに、示された扉を通った。
当然ながら、初めての場所なので護衛達が十分に警戒している。
「ここは・・・・・・?」
扉の先はただの廊下になっていた。
先に向かっていた護衛達と見たことのない者が数名いて頭を下げて来た。
「こちらはクラウン本部となっています。このまま女王たちがいる部屋までご案内いたします」
クリストフ達が使用した転移門は、スミット国の関係者が使えるようになっている専用の転移門だ。
当然今いる場所も専用になっていて、限られた者しか入ることが出来ないようになっていると説明を受けた。
「他の者は立ち入ることが出来ないのか?」
「はい。護衛なども置いて構わないと伺っています。詳しくはこれから行われる話し合いで聞いていただければと思います」
「そうしよう」
案内係の者に、クリストフは納得して頷いた。
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女王が待っているといういう部屋には、女王の他にも何人かの高官たちがいた。
一通りの挨拶を済ませてから、本題に入った。
「城ではなく、クラウン本部で話をするのですね?」
女王がいるにもかかわらず、形式ばった会談ではなく実にあっさりとした対面に、クリストフは驚いている。
「其方の大使館の準備が出来てからゆっくりと城で迎えても良かったのだがな」
フローリア女王は、そう言いながら肩をすくめた。
「物が物だけに、気軽に部下を間に挟むわけにもいかないので、私が直接こうして渡すことにしたのだ」
そう言ったフローリア女王は、一枚のカードを懐から取り出した。
「これが・・・・・・?」
フローリア女王から何の変哲もないカードを渡されたクリストフは、手に取って首を傾げた。
特に何か仕掛けのような物があるようには見えなかったのだ。
「ああ、そうだ」
「特に何もないように見えますが?」
「それはそうだ。そのカードは、今はまだ何の仕掛けもない。これから転移門と同調して使えるようにするのだ」
これから手続きをするのだというフローリア女王に、クリストフも頷く。
既にレメショフの紹介も終わっているので、このカードの持ち主はレメショフという事になる。
「では、手続きに行こうか」
フローリア女王がそう言うのを待っていたかのように、側近たちが慌ただしく動き始めるのであった。
あっさりと登場したフローリアですw
前半の説明が長すぎました><




