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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 旅(サミューレ山脈編)
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(12)移住

 神殿長との会話を終えた考助は、再び神殿のプロストの棺がある場所へと戻った。

 プロスト一族の話し合いの結果がどうなったかを確認するためだ。

 シュレインが残っているので、塔についての詳しい説明はきちんとしているだろう。

 召喚された一族全員で、塔に向かうかどうかは彼らの選択次第だ。

 考助がわざわざ神殿長の所へ向かったのは、彼に話をしていた方がいいという事もあるが、自分がいることでプロスト一族の選択に影響を与えないためだ。

 現人神であり、<至上の君>と讃えられている本人がその場にいると話しづらいこともあるだろう。

 もっとも、考助が塔を拠点にしていることは知られているので、彼らの判断から考助の影響を完全に消すことは出来ないのだが。

 それでも気休め程度とはいえ、自分がいない方がいいと判断したのである。

 

 考助が部屋に入ると、そこにはプロスト一族の主だった者が集まっていた。

 そこまで深刻な表情をしていない所を見ると、既に結果は決まっているのだろう。

 シュレインを交えて笑顔で雑談をしていたようだった。

 何より入口に近い所にいた者がすぐに考助が来たことに気付いていた。

 そのものがすぐに考助に気付いて頭を下げたので、周囲にいた者達もすぐに考助に気付いた。

 当然のように頭を下げて来た。

 流石に跪くようなことはしてこなかったが、それでも彼らの気持ちは十分に察することが出来た。

 プロスト一族にとってみれば、<至上の君>は神に等しい存在だったのだ。

 いや、実際に考助は神なのだが。

「戻ったか」

 いつまでもその状態では話が進まないと思ったのか、シュレインが話しかけて来た。

「うん。それで? その様子だと決まった?」

「勿論だ。というか、話し合いにすらならなかったな」

「というと?」

 首を傾げた考助に、シュレインは苦笑を返して来た。

「コウスケが塔を拠点にしていると話したら、すぐにそちらに移ると決まった」

 内心で「うーわー」と思った考助だったが、かろうじて表情には出さなかった。

 どうやら考助は、プロスト一族の<至上の君>に対する想いをまだまだ甘く見ていたらしい。

 一族全体の移住を即決できるほどに、<至上の君>の存在は大きかったようだ。

 ついでに言うと、移住するという事は彼らにこの神殿を捨てろと言っているのに等しい。

 

「ホントに良いの?」

 一応確認を含めてそう聞いた。

 だが、すぐさまイネスが答えた。

「我が一族にとってこの神殿は確かに重要な物ですが、一族と天秤にかけるほど愚かなことはしません」

「そう」

「それに、<至上の君>の御許に行けるだけでも光栄なことです」

 イネスのその言葉に、周囲のプロスト一族の者達が一斉に頷いた。

 自分の目の前でここまで持ちあげられることが無かった考助は、思わず赤面してしまった。

 それを見たピーチやミツキ、シュレインが含み笑いをしている。

「分かった。塔に来るのであれば、歓迎するよ」

 考助がそう言うと、その場にいたプロスト一族の者達が笑顔を見せた。

 中にはホッとした表情を見せる者もいた。

 拒否されると思っていたんだろうかと思いながら、考助は敢えてそれには触れないのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 プロスト一族が態度を決めたことで、主要メンバーを残して他の者達はさっさと塔に移動させることになった。

 塔に行くためにわざわざ普通の手段で移動すると時間がかかるので、転移門を用意した。

 考助が一度塔に戻り、転移門の設置用の道具を持ってきたうえで、ミツキの転移で取って返してきた。

 今回の転移門は、この場にいるプロストが移動すればいいだけなので、一部の者達が残った後はすぐに撤去する予定になっている。

 考助達は転移門を撤去したあとでゆっくりと塔に戻るつもりだ。

 プロスト一族の者が次々と転移門に入っていくのを見ながら、考助は既にこの町を去った後の事を考えていた。

 

 ほとんどの者が塔への転移をして、主要メンバーしか残っていない状態になった。

 その頃になって、ビアナが考助にある問いを投げかけて来た。

「私達はこの神殿から去りますが、管理はどうされるのでしょうか?」

「あ・・・・・・そうか。それがあったか」

 考助はすっかり忘れていたのだが、この神殿を維持するためにはちゃんと管理をしていかないといけないのだ。

 神殿が無くなるという事は、アルキスの町自体が維持できなくなるという事に直結する。

 流石にそれは考助としても避けたい。

「普通に考えてここにいる神職達が管理していくことになるんでしょうね。管理は難しいのですか?」

 たとえば、考助たちが最初ここに入ってきた時のように、神力を使わないといけないとなるとどうあがいても管理は不可能になってしまう。

 ちなみに、ビアナの場合は神力を使えるわけではなく、最初から管理者として登録されているので不自由なく出入りできていたのだ。

「いえ。私一人でも管理してきましたからさほど難しいことではありません。ただ・・・・・・」

 一度言葉を聞いたビアナに、考助は首を傾げた。

「神殿の機能を維持するために、どうしても魔力の補てんが必要になりますが、大丈夫でしょうか?」

 それを聞いた考助は、一瞬キョトンとした後ですぐに吹き出した。

「そ・・・・・・それは凄い意趣返しですね」

 当然ながらビアナは意趣返しなどとは思っていないが、考助は敢えてそう言った。

 神殿を維持するためには、どうしても動力となる魔力の補てんが必要になる。

 ただし、今後神殿を管理することになるのは、聖力を使っている聖職者たちということになるのだ。

 

「い、いえ。べ、別に意趣返しなどとは・・・・・・」

「ああ、いえ。ごめんなさい。別にプロスト一族がそんなことを考えているとは思っていませんよ。それに、そこまで心配しなくてもいいでしょう。教会に所属しているのは別に聖職者たちだけではないのですから」

 勘違いされがちだが、教会で働いている者は全て聖職者というわけではない。

 中には事務方のような者がいるのだが、そう言った者達には魔力を使っている者もいるだろう。

 今後はそうした者達を使えばいいのだ。

「まあ、そういう事ですから大丈夫ですよ。それよりも、神殿の管理は魔力の補充だけでいいんですか?」

 考助にとってはそちらの方が重要だ。

 折角町の者達が追い出されないような決断をしたのに、結果として町から出て行かざるを得なくなると、折角の決断の意味が無くなってしまう。

「ええ。大丈夫です。私達が完全に出ていく前に、出入りできる者の条件も書き換えてしまいます」

「そうだね。そうしておいてくれる?」

「はい。わかりました」

「それじゃあ、こっちは任せるとして・・・・・・イネス、僕と一緒に来てもらっていいですか?」

 突然話を振られたイネスは、首を傾げた。

「はて? どちらへですかな?」

 疑問符を浮かべるイネスに、考助はにやりと笑って答えた。

「神殿長のところ」


 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 プロスト一族の塔への移住はシュレインとピーチに任せることにして、考助はイネス・ミツキと共に再び神殿長を訪ねた。

「今度は何・・・・・・そちらは?」

 考助が今まで見たことのない女性を連れて来たのを見た神殿長が、そう聞いてきた。

「ああ。こちらはプロスト一族の長であるイネス老です」

 見た目は若いイネスを「老」と呼ぶことに違和感を感じつつ、考助は神殿長にそう紹介した。

 神殿長も先ほど考助から話を聞いているので、今更プロスト一族が目の前にいることについて何かを言うつもりはなかった。

 問題は、何故ここに連れて来たか、だ。

 警戒しまくっている神殿長に、考助は苦笑を返した。

「そんな顔をしないで下さい。先ほど心配されていたので、連れて来ただけです。あとプロスト一族は、この町には居住しないそうです」

「な、何?! で、ではどちらへ?」

「全員がアマミヤの塔への移住を希望したので、そちらへ連れて行きました」

 これでプロスト一族が塔にいることがばれてしまうが、勿論これはわざとだ。

「分かっていると思いますが、変にちょっかいを出してきたりすれば、当然全力で妨害しますからね?」

 現人神からの忠告に、神殿長はごくりと喉を鳴らして慎重に頷いた。

「わ、わかっています。わざわざそのようなことはしません」

「それならいいです。それで、わざわざ長に来てもらったのは、この神殿の扱いについて話してもらおうと思いましてね」

 プロスト一族が神殿を放棄することは、直接イネスの口から話してもらった方が良いと思ったのでわざわざ来てもらったのだ。

 何よりイネスから敵対する意思がないことを話してもらった方が良いだろう。

 それを聞いて教会がどう判断するかは分からない。

 もし敵対するようなことになれば、先ほど忠告したようなことになるだけだ。

 

 結局、二人の話し合いは特に何も発生することなく無事に終わった。

 神殿の維持に魔力が必要だと話したときは、流石に神殿長も頭を抱えていたが。

 ついでに魔力の補てんする場所と補てんの仕方も教えておいたので、大丈夫だろう。

 神殿とは言え、魔力が使える者が全くいないというわけではなかったので、その者に魔力の補てんの仕方を教えた。

 その作業が出たために、考助達はさらに数日町に滞在することになった。

 ちなみに、最初考助が入口を開けた時のような侵入者を阻むような機能は無効化してある。

 そのような複雑な機能を残したままでは、神殿の管理が出来なくなってしまうためだ。

 あるいは研究者がこの神殿に入って調べることもあるかも知れないが、それはそれで構わないそうだ。

 この神殿の作成者である考助も特に問題ないと思っているので、今後は教会が正式にこの神殿を管理していくことになる。

 ただ、後の事に関しては考助達にとってはあずかり知らぬことである。

 必要最低限の事を関係者に教えた上で、考助達はアルキスの町を後にしたのであった。

これでプロスト一族の塔への移住に関わる話は終わりです。

結局十二話もかかってしまいました><

これでも必要最低限の事だけを書いているつもりなんですが・・・orz

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