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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 旅(サミューレ山脈編)
357/1358

(5)扉

 考助達がアルキス神殿の蔵書を調べ始めてから既に五日が経っていた。

 その間、何も成果が無かったわけではなく、むしろ逆だった。

 五日目の夜。

 宿の部屋でその日の結果のすり合わせをしていた考助達は、一つの結論に達していた。

「これはもう確定だろうね」

 考助のその言葉に、全員が頷いた。

 昨日あたりからは、町の事ではなく神殿に限って調べていた。

 その効果がどう考えても、ヴァミリニア城と同じような効果になっているのだ。

 考助が町に来て感じた直感がまさしく当たったという事になる。

 教会側にしてみれば、神与物である神殿の効果を権威として知らしめるために蔵書として残していたのだろうが、それが仇になったことになる。

 流石に、アルキス神殿と同じような効果を持つ建築物が他にもあるとは考えていなかったのだろう。

 あるいは、ヴァミリニア城の事は知っていても、既に失われていると思い込んでいたためその時の神官たちが気にせず残したという事も考えられる。

 

「だが、どうするのだ? いくらヴァミリニア城と同じ効果とは言え、プロスト一族が関わっている証拠にはならないぞ?」

 プロスト一族の誰かを発見できるとか、ヴァミリニア宝玉のような物が見つかればいいのだが、流石にそこまでは発見できていない。

 そもそも考助達の目的は、プロスト一族がいるかどうかの確認であって、過去の事を穿り返したいわけではない。

 蔵書を調べていた時もプロスト一族の事を記したような書物は、結局発見できなかったのだ。

「うーん。それが問題だよね。今の状態で上手くいっているのであれば、敢えてこちらがつつく必要もないだろうし」

 考助が言ったことも問題だった。

 過去、プロスト一族が迫害されていた時に、一部の教会の人間と手を結んでこの辺境に敢えて隠れ住んだのだとすれば、敢えて考助達がつつく必要もないだろう。

 現在考助達が確信しているのは、アルキス神殿がヴァミリニア城と同じような神与物であるという事だけなのだ。

「もし本当にプロスト一族の誰かが生き残っていて、ここの神殿を維持しているのであれば、話をしてみたいんだけどね」

「そうだの。今の世が、あのころと比べて遥かに生きやすい世の中になっているという事くらいは、話をしておきたいしな」

「だけど、どこにいるのかは分かっていませんよ~?」

 ピーチの言葉に、考助とシュレインがため息を吐いた。

 アルキス神殿の調査はことのほか上手くいっているのだが、プロスト一族に関しては影も形も出てこないのだ。

 もしプロスト一族がアルキス神殿に協力しているのであれば、敢えて全く記録として残していないことも十分に考えられる。

 折角上手くいっている所を、下手に考助達がつつくことによってそれが逆の作用を及ぼすことになる可能性があるのだ。

「さて、どうしたもんかなー?」

 そう言って首を傾げる考助。

 アルキス神殿にプロスト一族が関わっている可能性があるために、逆に動きづらくなってしまった。

「取りあえず、僕は明日は神殿を直接見まわってみるよ」

「ふむ。では吾は引き続き書物をあさってみよう」

「私も本を調べます~」

「私は、当然考助様について行きます」

 それぞれの行動の方針が決まったところで、明日に備えて就寝する一同であった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 翌日考助は、神殿の外側をつぶさに調べていた。

 ヴァミリニア城と同じような仕組みだとすると、外側を調べてもあまり意味がないのだが、それでも力の流れなどは調べることが出来る。

 その辺りはヴァミリニア城も同じなのだ。

「・・・・・・いくら外側に比べて暖かいと言っても、寒いものは寒いな」

「大丈夫? そろそろ一旦中に入って温まったら?」

 寒さで身をすくめた考助に、ミツキが言って来た。

 彼女自身は、さほど寒がっている様子は見せていない。

 そんなミツキを見て、彼女の体温調整はどうなっているんだろう、とどうでもいいことを考助は考えた。

 そのミツキの提案に従って考助は神殿の中に戻ろうとしたが、入口の手前である人物が考助の行く手を阻んだ。

 誰かと言えば、神殿長であるアドリアンだった。

「おや。神殿の調査は終わりですか?」

「いえ。流石に長時間外にいて寒くなってきましたから、少しの間暖を取りに来ました」

 確認を取るように聞いてきた神殿長に、考助は素直にそう答えた。

 別に神殿を調べること自体は、特に隠す必要性を感じていないのだ。

「おや、それはいけませんね。風邪でも引いてはいけませんから、私の部屋で暖かい飲み物でもいかがですか?」

 神殿長にしてみれば、そのうち自室に招いて話を聞きたいと考えていたのだ。

 そもそも外に出て来たのも、考助が何を調査しているのかを聞きに行こうとしていたのだ。

 一方で、考助としても有難い申し出に、素直に頷いた。

「それはありがたいですが、良いのですか?」

「勿論ですよ。それに、あなた方が何を調べているのか、興味もありますしね。折角ですから、お話でもお伺いしたいと思います」

「なるほど、そういう事ですか。勿論構いませんよ」

 考助としても、神殿長というより神殿側が考助達の行動を見張っていたのは知っている。

 直接的な行動をとってこなかったので今まで放っておいたのだが、わざわざ神殿長が出向いてきたのであれば、話をするもの良いだろうと考えたのだ。

 

 流石に神殿長が使っている部屋は、立派な調度品が置いてあった。

 正確には、客を迎えるための部屋なのだろう。

 考助とミツキは、勧められるままに神殿長の向かい側に座った。

「それで、調査という事ですが、神殿の何を調べられているのでしょうか?」

 いきなり本題に入った神殿長に、考助は笑顔を返した。

「僕は冒険者ですが、魔道具の技師でもあるんですよ。ここの神殿のような神与物は、研究の材料としてはいい勉強になるんです」

 本来の目的からはずれているが、嘘はついていない。

 実際、ヴァミリニア城などの塔で作られた物以外の神与物を間近で調査出来る機会などそうそうないだろう。

 考助の言葉に、神殿長が意外なことを言われたかのような表情になった。

「ほう。なるほど、そうでしたか。それで、神殿や町のことなどを調べていたのですね」

「ええ。実際に触れるよりも文献などから得られる情報も貴重ですからね」

 神殿長や周囲にいる神官からじっと見られているのを感じながら、考助はごく普通のように答えている。

 ミツキはいつも通り考助が話している間は、余計な口は挟むことしない。

 

 納得した様子を見せる神殿長に、考助はある質問をすることにした。

 この答えによって、今後の方針が決まると言ってもいいだろう。

「一つ聞きますが、この神殿の脇に使われていない入口を見つけましたが、ご存知ですか?」

「はて? 使われていない入口、ですか?」

 そう言った神殿長は、初めて聞いたような表情になった。

 あるいはどこの入口の事を言っているのか分からないという事なのかもしれないが、少なくとも表情自体に嘘はなさそうに見える。

「ええ。丁度、外観の飾りが途切れている辺りです」

「それだけでは何とも・・・・・・。誰か、図面を持ってきてもらえるか」

 神殿長がそう指示を出すと、すぐに年若い神官の一人が慌てて部屋に駆け込んできた。

 手には神殿の図面が書かれた書面を持っていた。

 広げられた図面の一か所を考助が指さした。

「この辺りですね」

「そこには、扉など無かったはずですが?」

「まあ、隠し扉の一種ですからね。今まで見つからなかったのはしょうがないかもしれません」

 考助がそう言うのを、神殿長は目を丸くして見つめた。

「それを、貴方がたった数日でみつけた、と?」

「運が良かったんですよ。それとして意識してみれば、神殿長でも気づいたかもしれませんよ?」

 考助が隠し扉を見つけられたのは、神殿を覆っている神力を辿ったためだ。

 神殿長くらいになれば、神力を使う事は出来なくとも辿ることは出来るだろうと言いたいのだ。

「・・・・・・そうですか。その辺の事は後ほど聞くとして、その扉は開けられそうですか?」

「どうでしょう? 開けていいのか分からなかったので、詳しく調べていませんでした」

「では、是非とも調査してもらえませんか? もしなんでしたら、依頼という形にしてもかまいません」

 考助が冒険者であることを意識してそう言ったのだろう。

 言われた考助も笑顔になった。

「そういう事でしたら、こちらからお願いしたいくらいです」

「わかりました。依頼はすぐ出しますので、出来れば明日にでもお願いします」

「はい」

 神殿長からの依頼という形であれば、考助としても問題はない。

 扉を開けた先に何があるのか、流石の考助も今のところは分からない。

 その結果は明日に持ち越されることになるのであった。

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