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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 旅(サミューレ山脈編)
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(4)調査

 クラーラの神託のおかげで、すんなりと聖職者たち専用の図書を見ることが出来るようになった考助達は、早速調査を開始することにした。

 シュレイン達は、すぐに調査を始めたのだが、考助だけは別の要件がある。

 それが何かといえば、クラーラへ感謝の言葉を伝えることだ。

 普通であれば、すぐに交神をすることなどできないが、この場所では事情が違って来る。

 アルキス神殿では、クラーラ神を主神として祀っているので、交神もやりやすいのだ。

 やりやすいと言っても、考助だからこそ出来ることなのだが。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 交神を入れるとすぐにクラーラが応じてくれた。

『あらあら。わざわざありがとうね』

『いえ。こちらこそありがとうございます』

『いいのよ。たまにはこちらも何かしてあげないとね』

『そう言って頂けるとありがたいです』

『何を言っているのよ。貴方に協力したいという女神は多いのよ。ここで助けなかったら私が責められるわ』

『ははは』

 最初は内心で大袈裟な、と考えた考助だったが、神域で会ったことのある女神達を思い浮かべると、笑いしか出てこなかった。

 決して笑って誤魔化したわけではない。恐らく。

 心の中で訳の分からない言い訳をしながら、考助はクラーラへと改めて礼を言った。

『おかげで助かりました』

『いいのよ。こっちは貴方が神域に来てくれているだけで助かっているんだから。それに、今回は他に期待していることもあるし、ね』

『他に?』

 クラーラの言い方だとプロスト一族を探し出す以外にも何かありそうだ。

『御免なさいね。今は言えないのよ。でも、貴方達ならきちんと行き当たってくれると思うわ』

 言えないという事は何かの事情があるのだろう。

 こうした場合は、大抵先に知ってしまうと上手くいかないこともあるのだ。

 それを察して、考助もそれ以上は聞かなかった。

『それに、本当はこれ以上の手助けが出来ないことが心苦しいのよ?』

『いえ。これ以上は、大丈夫ですよ。自分達でやるべきことはやらないといけませんから』

『そう? まあ、貴方だったらそう言うでしょうね。・・・・・・あら。残念ね。もう時間みたい』

 クラーラがそう言うと、急に交神が不安定になった。

 道具もなしに強引に繋いでいるので、こういう事も起こるのだ。

 いくら神同士の交神とはいえ、どうしても制約を受けてしまうのはしょうがないのである。

 これがエリス達のような考助と結びつきが強い神であれば、もう少し話すことも出来ただろう。

『それでは、また神域で』

『ええ。そうね・・・・・・』

 クラーラは、続けて何かを言ったようだったが、残念ながら交神がプツリと切れてしまった。

 ここらが限界だったという事だ。

 こればかりはいくら考助でもどうしようもないので、一つだけため息を吐いてシュレイン達がいる所へと向かった。

 

 神殿長に案内された蔵書が置いている場所は、当然ながら他の神職たちも使用している。

 そのため交神は人がいない所で行ったわけだ。

 交神を終えた考助が図書室(?)に戻ると、シュレイン達は席についていくつかの蔵書を読みふけっていた。

 そのシュレイン達を、何人かの神職たちがチラチラと覗き見をしている様子が見て取れた。

 シュレイン達もそれには気づいているだろうが、あえて気付かないふりをしている。

 読書をしているときにそう言う視線は鬱陶しいだろうに、少なくとも外見上は何も影響を受けていないように見えた。

 本に注目していた三人のうち、ミツキが考助が戻って来たことに気付いて、顔を上げた。

「どうでしたか?」

「いや、特には問題ないよ。お互いお礼を言って終わったから。時間も無かったしね」

「そうですか」

「それで、肝心のこっちはどう? まあ、まだ探し始めたばかりだろうけど」

 考助の言葉に、ミツキも頷いた。

「そうですね。取りあえず目ぼしい蔵書がある場所は見当を付けていますが、まだまだこれからと言った所です」

 それなりの蔵書があるので、目的の物が書かれた本を探し出すだけでもそれなりの時間がかかるだろう。

 長期戦になることは、既に覚悟済みなのだ。

 何冊か重ねて置いてあった蔵書の一冊に手を伸ばした考助は、早速その本に目を通し始めるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 初日の調査を終えて宿に戻った考助達は、今日読んだ書物の内容を話し合っていた。

 ちなみに、外には声が漏れないように、ミツキが結界で覆っている。

「それで、どうだった?」

 考助の問いかけに一番最初に応えたのは、シュレインだ。

「予想通りと言えば、予想通りだの。神殿についての当り障りのない歴史くらいしかなかった」

「私も同じです~」

「そうね」

 ピーチとミツキも同意するように頷いている。

「まあ、そりゃそうだよね。そうそう簡単にヒントになるようなことは、見つかるはずがないよ」

 考助としてもこの結果は予想出来たことなので、特に落胆したりはしていない。

 むしろ、初日にクラーラの助力を得られたことが大きい。

 流石にこれ以上の手助けを期待するのは、文字通り罰当たりになるだろう。

 この後は、自分たちで何らかのヒントになりそうなものを探し出す必要がある。

 

 考助達がこのアルキスの町に来たのは、町そのものが歴史があるために、古い話なども残っているのではないかと期待しての事だ。

 そう言う意味では、町が出来た当初からあると言われている神殿の蔵書を調べることが出来るのは大きいだろう。

 もっとも、神殿に不利になるような書物が、多くの者達に触れられるところにあるとは考えていない。

 この辺は、シルヴィアからも忠告されている。

 むしろそう言った書物は、禁書として高位の神官しか触れられない所に保管されているだろうと。

 その程度の事は予想したうえで、考助達は神殿の蔵書に当たっているのだ。

 そうした書物の中からでも、ヒントになりそうなことは見つかる可能性はある。

 

「ひょっとしたら、神殿そのものの成り立ちがヒントになるかも知れないな」

 考助の呟きに、ミツキが反応した。

「町を覆う結界、ですか?」

「ああ、そうだな」

 山岳地帯にありながら、厳しい冬を乗り越えられる結界の存在がどういう物かを知るには、神殿そのものの事を調べるのが良いだろう。

 世界樹やヴァミリニア城と同じような物かどうかもそこでわかるかも知れない。

「明日はその辺りを確認したほうがいいかの?」

「そうだな。じゃあ、神殿については僕が確認するよ。皆は引き続き町の成り立ちを当たってみて」

 考助の指示に、三人は同意して頷くのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「そうですか。彼らは宿に戻りましたか」

 神殿長であるアドリアンは、考助達を見張っていた神官の一人から報告を受けていた。

 神殿長としては、別に見張りを立てて何かしようとしているわけではない。

 神自らが神託をするほどの一行が、何をしようとしているのか知ろうとしているだけだ。

 むしろ神殿長としては当然の行いとも言える。

 それが分かっているからこそ、考助も無視をしていたのだ。

「はい。肝心の調べている蔵書は、彼らが言っていた通り、この町の歴史についての物だけでした」

「そうですか」

 報告に返事をしつつも、神殿長は首を傾げた。

 この町の起こりなど、ごく普通の冒険者が調べるような対象とは思えなかったのだ。

 主神から直接神託を受けるような冒険者が、普通であるかどうかは別だ。

「ともかく、明日も来るようですから、引き続きお願いします」

「わかりました」

 返事をしてでて行こうとする神官に、アドリアンは慌てて付け加えた。

「くれぐれも余計な手出しはしてはいけませんよ?」

「・・・・・・はい」

 久方ぶりに起こった神々の降臨は、未だ神職たちの記憶からは消えてはいない。

 神々は、神域に籠っていてこの世界に直接手出しをしてこないという認識が、改めて間違っていると気づかされた出来事だったのだ。

 この町の神殿を守る神殿長として、再び同じようなことを起こすわけには行かない。

 結局、考助達の行いは、見守ることしかできないのが神殿長としての限界なのであった。

神殿長であるアドリアンは、珍しいことに(?)きちんとした感覚を持っている神官です。

監視を付けるのは、神殿長としては普通の行為の範囲内です。

なにしろ、神からの神託を受けるような者達ですから。

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