表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 旅(サミューレ山脈編)
355/1358

(3)アルキス神殿

 アルキス神殿の作りは、一般的な神殿と変わらない。

 正面に参拝者たちを受け入れる正門、入口がある。

 その入口から入ってすぐの所が、参拝者を受け入れる礼拝堂のような場所になっている。

 アルキスの町が聖職者中心の町であることを示すように、礼拝堂は常に修行に身を置いている聖職者たちが神に祈りをささげているのが日常なのだ。


 入口から建物内に入った考助は、礼拝堂で作業をしていた巫女の一人に声を掛けた。

「あの、すみません」

「はい?」

 声を掛けられた巫女は、少し驚いたように考助を見た。

 この神殿で、巫女に声を掛ける者は少ないのかもしれない。

 基本的に、礼拝堂に来るのは神に祈りをささげに来るものがほとんどなのだ。

「この町の成り立ちとか、歴史が書かれた書物が置かれたところはありますか?」

「ああ、それでしたら、あそこの階段を上った二階になります」

「そうですか。ありがとうございます」

 巫女が指示した方向に階段があることを確認した考助は、一礼してからそちらへ向かった。

 その途中で、あることを思い出して再び巫女に問いかけた。

「一般人の立ち入り禁止とかはないですよね?」

「はい。大丈夫ですよ」

 笑顔で返事をしてきた巫女に、改めて頭を下げた考助は今度こそ階段へと向かった。

 階段を上がっていく様子を見ていた巫女だったが、ふと思い出したような表情になって、礼拝堂からさらに奥へと続く廊下へと歩き出すのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「ここか」

 階段を上がった考助は、すんなりとそれらしい書棚を見つけることが出来た。

 考助の感覚では、かなりの読書家の家にある書斎、と言った程度の蔵書が置かれているだけだったが、この世界においてはそれなりの量になるだろう。

 一人ですべてを読むには、かなりの手間になる。

 ちらりと見た程度だが、古い言葉で書かれた書物もあるようだった。

 考助自身は流石に古語までは読むことが出来ないので、それらはミツキやシュレインに任せることにして、早速目ぼしい物から読み始めた。

 

 そろそろ一休みをしようかと考助が提案しようとしたその時。

 考助達がいる部屋に、ある訪問者が訪れた。

 着ている服からこの神殿でも高位に位置している神官であることはすぐに分かった。

「熱心な所申し訳ないが、よろしいかな?」

 書物を読んでいる考助達を気に掛けるように話しかけて来たその神官に、考助も笑顔で答えた。

「ええ。構いません。丁度、一休みしようと思っていた所です」

 考助がそう言うと明らかにその神官は、ホッとした表情を見せた。

 実は、読書の邪魔にならないように出てくる頃合いを見計らっていたのだ。

「私はこの神殿の神殿長でアドリアン・マナーキンと申します」

 そう言ってから一礼して来たアドリアンに、考助も立ち上がって礼を返した。

「これは丁寧にありがとうございます。私は冒険者で、コウと申します。何かご用でしたでしょうか?」

 いきなり神殿長が来たことに驚きを示しつつも、しっかりと挨拶は返した。

 どういう要件かも分からないのだから、この場で現人神であることは名乗ることはしない。

 

 考助の名前を聞いて、神殿長は一つ大きく頷いた。

「やはりそうでしたか。貴方がたが求める物は、ここにはありません。私に付いてきてもらえますか?」

 突然の申し出に考助は目をぱちくりとさせた。

「あの? どういう事でしょうか?」

 考助達は、ここに来る前には一般の冒険者であることしか言っていない。

 それにもかかわらず、考助達が求めている物が何かを目の前の神殿長は分かっているようだった。

「ああ、これは説明が足りませんでしたね。実は、貴方がたがこちらに来ることは事前に知っていたのです。・・・・・・実は今朝方、神託がありましてね」

 この場には考助達しかいないのだが、敢えて声を顰めて神殿長がそう言って来た。

 それを聞いた考助も目を丸くした。

 それを見た神殿長が勘違いをして頷いていた。

 考助は、神託があったことに驚いたのではなく、一冒険者に対する神託が与えられたことに疑問を感じずその通りにする神殿長に驚いたのだ。

 もっとも、神の降臨が起こってからさほど経っていないので、神託を無視するわけにはいかないと考えたのかもしれない。

 そんなことを考助が考えているとは露知らず、アドリアンが話を続けた。

「私達も驚きました。冒険者の一人を指定して神託が降りることなど普通ではないですから」

「それはそうでしょうね」

 考助の驚きをいい感じに勘違いしてくれている神殿長に対して、考助は敢えてそのままにしておいた。

 どうやら神託では、考助が現人神であるとまでは知らされていないと分かったためだ。

「そういう事ですから、私の案内するところまで来てもらえますか?」

「ええ。そういう事でしたら、ぜひお願いします」

 考助としても願ってもない申し出だったので、有難く受けさせてもらうことになった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 神殿長は一人で考助達のところまで来ていたわけではなく、護衛らしき神官たちもいた。

 その中には恨みがましい視線で見てくる者もいたが、考助達は礼儀正しく無視をした。

 神殿長に案内される道すがら、考助はちょっとした質問をした。

「この神殿に祀られているのは、クラーラ様ですか?」

「ええ、そうです。良くご存知ですね」

「先ほど読ませていただいた書物にも書かれていましたから」

 考助は無難にそう返事をしておいた。

 実際は書物だけで知っているだけではなく、神域で何度か会話をしたことがある。

 考助の印象は、常に穏やかな笑みを浮かべているお姉さん、といった感じだ。

 同時に、彼女ならこんな神託をしてもおかしくはないなと思った。

 何となく世話焼きなお姉さんという印象を受けていたのだ。

 そんな女神の事を思い浮かべつつ、考助達は神殿長に案内されるまま地下へと向かった。

「地下ですか?」

「そうですね。失われるわけには行かない重要な本は、地下に置かれているのですよ。勿論たまには日干しとかもしています」

 不特定多数の者が触れる本は、基本的には神官が勉強をするために行った写本などがほとんどだ。

 原本やそれに近い物は、地下に保管されているのだと神殿長が説明をしてきた。

「なるほど」

 納得できる説明に、考助も頷くのであった。

 

「ここになります」

 そう言って神殿長が示したのは、一つの扉だった。

 そのまま扉を開けて入った神殿長に、護衛達が続く。

 考助達が入ったのはその後だ。

 その部屋に入った考助は、先ほどまでいた部屋よりもはるかに多い蔵書を目の当たりにした。

 考助の感覚でも、公立の小学校や中学校程度の大きさはありそうだった。

「これは凄いですね」

 素直に感心して見せた考助に、神殿長も笑顔になった。

「ここの神殿は場所が場所ですからね。戦乱に巻き込まれることも少なかったために、本が失われることも少なかったのです」

「なるほど、そういうことですか。それで、僕たちは自由に見ていいんですか?」

「ええ。勿論です。好きにご覧になってください」

 神殿長がそう言った瞬間、護衛達の何人かが何かを言おうとしたが、周りの者達に止められていた。

 ちなみに、何かを言おうとした者は、先ほど考助達を睨んでいた者達と同じメンバーだった。

「何度か来ることになると思うのですが、それは?」

「でしたらこれを」

 神殿長はそう言って、懐から小物を出した。

「何かを言われた場合は、それを出してください。私の承認を得ていると示すことが出来ますから」

「ありがとうございます」

 これ以上ない待遇に、考助も素直に礼を言った。

 どういった神託がされたのかは分からないが、これで十分に調査を進めることが出来るだろう。

 護衛達に含まれる何人かの視線は気になるが、この程度で気になるようであれば考助など町の中を歩けなくなってしまう。

 主に男どもの嫉妬に狂った視線のせいで。

 

 神託があったとはいえ、神殿長の好意に甘えることにして、考助達はさらに調査を開始するのであった。

睨んでくる護衛達がフラグになるかどうかは、まだ不明です。

もういい加減このパターンも回避してもいいでしょうしw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ