(1)噂
現在ヴァミリニア城の元に集められているヴァンパイアは、ヴァミリニア一族とタルレガ一族の二種族になっている。
後から来ているのがタルレガ一族になるのだが、考助から見てもヴァミリニア一族との諍いもなく上手く共同生活しているようだった。
タルレガ一族の長であるアマドが、考助やシュレインに会うたびに一族の素晴らしさを喧伝してくるが、それはあくまでも一族の長としての役割の範囲内に収まっている。
それどころか、真祖ヴァンパイアであるシュレインの事を見事なまでに祀り上げている。
それは決して悪い意味ではなく、どこまでも純粋にヴァンパイアとしての上位に位置する真祖の事を拝している感じだった。
それに関しては、ヴァミリニア一族もタルレガ一族も関係なく、共通した認識になっているようだった。
そんなアマドに呼ばれて、考助とシュレインがアマドの屋敷を訪れていた。
例によって長い話を聞いた後に、ようやくアマドが本題を切り出して来た。
アマドの長い話は、この世界の事を知らない考助にとってはかなり興味深いこともあるので、ついつい聞きいってしまうのだ。
アマドが二人を呼んで切り出したのは、ヴァミリニア一族とタルレガ一族以外のヴァンパイアについてだった。
「別の一族だと?」
アマドの話を聞いて、シュレインが眉を顰めた。
散り散りになったヴァミリニア一族を集める際に、当然他のヴァンパイアに付いての話が集まっている。
その中の一つにタルレガ一族の話が出てきたため、塔に保護することに決めたのだ。
だが、バラバラに生活しているヴァンパイアに付いての話はあっても、一族でまとまっているという話は聞いたことが無かったのだ。
「そうだ。といっても儂も昔に噂で聞いただけだからな。今もまとまって生活しているかどうかは分からん」
アマドの言葉に、納得いかないようにシュレインが首を傾げている。
「確かに全ての噂が集まっているとは言わないが、それでもかなりの数を集めていると思うが?」
アマドは、シュレインの言葉に納得するように頷きつつ、それでもある確信をもって話を続けた。
「そうだろうな。でなければ儂らの一族の情報も無かっただろう。だが、その一族のいる場所は、恐らく無意識的に探索から外されていると思うぞ?」
「無意識・・・・・・まさか?」
アマドの言葉に、シュレインが懐疑的な視線を向けた。
その視線を受けたアマドも同意するように頷いた。
「恐らく考えている通りだろう。儂がその話を聞いたときは、北大陸に集落があると聞いた」
「まさか・・・・・・!」
アマドの話を聞いてシュレインが驚きを示したのだが、これには理由がある。
過去にヴァンパイアが迫害を受けた際に、もっともはげしく攻撃を受けたのが北大陸とされているのだ。
歴史的にもそうだが、五つの大陸の中で、現在でも北大陸は教会の力が強い大陸になる。
ヴァンパイアの存在を認めていなかった教会の勢力が強いその北大陸に、ヴァンパイアが一族として固まって存在しているとは考えづらいのである。
そうした歴史的な背景と人数的な制約があるために、アマドの言う通り世界中に散った同胞を探す際も北大陸だけは探索から外していたのだ。
そうしたシュレインの考えも分かった上で、アマドも頷いている。
「その気持ちはわかる。儂もその話を聞いたときは、同じように思ったからな」
アマドがその話を聞いたのは、百年以上も前の事だ。
タルレガ一族が、一族としてまとまって安全に暮らせる場所を模索してた時の事だった。
流石にその時は、その噂を信じ切ることが出来ずに、調査などもせずに放置してしまっていた。
「だが、どうにもその噂も否定しきれないことがあってな」
「・・・・・・それは?」
「北大陸に残っている一族というのが、プロストの一族という話だったのだよ」
プロスト一族と聞いたシュレインが、一つ唸って考え込むような表情になった。
唸ったまま黙ってしまったシュレインに変わって、考助が疑問に思ったことを聞いた。
「プロスト一族というのは?」
「ああ、これは済まなかった。コウスケ殿は知らなかったか。プロストの一族というのはな・・・・・・」
そう前置きをしてアマドが語ったことによると、次のようなことになる。
プロスト一族というのは、ヴァンパイアの中でも最も古い一族とされている。
彼らの持つ力は、ヴァンパイアの中でも強大であり、その理由は一族の成り立ちに関わっている。
その成り立ちというのが、真祖ヴァンパイアの夫婦から生まれた子供たちが作った一族であり、純粋にヴァンパイアとしての力が優れているのだ。
だからと言って、他のヴァンパイアを排除するような排他的な一族ではなく、むしろ積極的に昔から迫害されていたヴァンパイアを受け入れていた。
そうなっているのは勿論理由があり、夫婦だった真祖ヴァンパイアだけではなく、他の真祖ヴァンパイアもその一族の元に集まっていたという。
そうしたことが重なって、一大勢力を築いていた一族だったという事だ。
また、そうであるからこそ教会の一族に対する攻撃も一層過激だったとも言われているのだ。
そういう状況だったからこそ、プロストの一族が残っているという事は、ヴァンパイアの歴史からすれば信じられないことなのだ。
ただ、逆に強い力を持っていた彼らだからこそそうしたこともあり得る、という考え方もできる。
だからこそシュレインも、こうして考え込むような仕草を見せているのである。
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全ての話を聞き終えた考助が、一つ大きく頷いた。
「なるほどねえ」
考助の感覚からすれば、どちらかというと神話に近いような感覚を受けるのだが、だからこそシュレインもアマドもまさか、という疑念に囚われているのだろう。
「直接行って調査するのは駄目なの?」
考助がそう言うと、二人はピタリを動きを止めた。
その後、すぐにアマドが苦笑をしてきた。
「いやはや。流石はコウスケ殿、と言った所かな?」
「そうだの」
シュレインとアマドが顔を見合わせてお互いに苦笑をしている。
彼らヴァンパイアにとっては、北大陸は未だに鬼門であり出来れば近づきたくないというのが本音なのだ。
いくら現在ではヴァンパイアの迫害が少なくなっているとはいえ、全くなくなっているわけではない。
特にその傾向が強いのが北大陸なのだ。
そうした思いを察した考助が、助け舟を出した。
「ヴァンパイア達が行くのが難しいんだったら、いっそのこと、僕らがついでに調査してみようか?」
「・・・・・・いいのか?」
シュレインの確認に、考助が頷いた。
「いずれは行くつもりだったしね。目的が出来るんだったらなおの事、良いだろうし」
フロレス王国に行って以来、ちょっとした小旅行もどきをすることはあっても本格的に旅を楽しむという事はしていない。
それだったら、ヴァンパイアを探すという目的を加えて、北大陸を旅するのもいいだろうと考えているのだ。
「そうか・・・・・・。となれば、どうにかして吾も今回はついて行くことを考えねばならぬの」
「そうなの?」
「ヴァンパイアが本格的に隠れているとなると、そうそう簡単には見つからんぞ? それこそ昔行われたヴァンパイア狩りのハンターくらいの技量がないと」
ヴァンパイアもただ単に狩られていたわけではない。
集団戦を行う事もあったのだが、隠れていた所を個別にやられたこともある。
そう言った場合は、ヴァンパイアハンターと言った専門の職がいたりしたのだ。
ヴァンパイアが特殊な魔法を使えば、見つけ出すのがそれほど困難になる。
「なるほどね。まあ、付いてくるのは問題ないけど、大丈夫なの?」
行くのが北大陸となると、先程の二人の様子からも分かるように、未だおかしな輩が残っていないとは限らないのだ。
「まあ、出来るだけコウスケやミツキ殿から離れないようにすれば、なんとかなるだろう? 吾とてそうそう簡単にやられるつもりはないしの」
「そういう事なら、本格的に考えてみようか」
考助がそう決断したことにより、今度は北大陸でヴァンパイアが残っているかどうかの調査を行う事に決まったのであった。
というわけで、北大陸編始まりです。
今回は国家というよりも教会が相手になる予定です。
さてさて、どうなることやら。




