(6)城
ラゼクアマミヤを建国するにあたって、考助とフローリア、アレクを交えて何度も話し合いがされた。
話し合いといっても、行政府で決まったことをアレクが報告するというのが主な内容だったのだが。
国家運営など考助にとっては専門外にも程があるため、余計な口出しはしない方が良いと心得ているのだ。
その代わりと言っては何だが、隣にいるフローリアが口出しをするのが常だった。
流石に王女として英才教育を受けただけあって、考助からすれば的確に質問しているように思えた。
もっとも、王女であったフローリアと違って、王になる可能性があったアレクの方が指導者としてのより高い教育を受けている。
どちらかと言えば、アレクが行政府で考えたことに抜けがないかをフローリアがチェックしていると言った感じになっていた。
そんな話が数度行われたある日。
いよいよ一般への発表も間近に控えたころになって、ふと考助が思いついたように問いかけた。
「そう言えば、居城とかはどうなってるの?」
その質問に、アレクは渋い表情になった。
「本来なら造るべきなのだろうがな。流石に間に合わんよ」
そう言ったアレクだったが、本来であれば城などを用意した上での建国と行きたかったのがまるわかりの表情だ。
そもそも国家にとってのお城とは、王族が住まう場所というだけではない。
国家を動かす官僚が働いたり、国内外の賓客を止めたりする重要な施設なのだ。
その城を、「無駄」の一言で済ますような人もいるが、考助はそんなことを考えるような思考回路はしていない。
「え? それはまずくないですか?」
場合によっては他国の王族さえ迎えるようなことがあるのに、いくら高級とは言えホテルなどに泊めさせるのはどう考えても無礼の一言だろう。
その辺のことは、考助よりもアレクの方が実感を伴って理解しているだろう。
「分かっている。だが、城となるとそうそう簡単に建てれたりはしないからな」
アレクとしても苦渋の決断だったのだろう。
城が出来てから建国を宣言してもいいのだが、それだと早く見積もっても数年先という事になってしまう。
それよりは、建国の宣言を先に済ませた方が良いという判断だったのだ。
考助はフローリアを見た。
王女だったフローリアが、このことに気付いてなかったはずがない。
「フローリア、どうして教えてくれなかったの?」
そのフローリアは、ばつが悪そうな表情になった。
「いや、最初から迷惑をかけるのは、と思ってな」
「いやいや。そういう事だったら、手助けくらいするのに。むしろこういう時こそ出番だよね?」
「そうとも言うな」
フローリアは何とも言えない表情で、鼻の頭を指で掻いている。
二人の会話の意味が分からないアレクは、キョトンとした表情で聞いていたが、やがてあることに思い当たった。
「まさか・・・・・・城が造れるのか?」
何で、とは問わない。
こんな話をするという事は、塔の機能であることは間違いがないのだ。
「西洋東洋問わず、各種取り揃えてまっせ」
アレクの問いかけに、ニンマリと笑った考助は、何故かエセ関西弁でそう答えるのであった。
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当初は神殿を立てた時のように、セレモニーとして建てることを計画していたのだが、それは断念するしかなかった。
神殿と違って、規模が規模だけに安全を確保する意味でも難しかったのだ。
結果として、建国を宣言してから城を置くことになった。
大々的に建国のセレモニーが行われてから数日後。
既に外部のお偉いさんなどは、地元に帰っている。
賓客がいる場合は警備など様々な手続きに追われることになるので、ここ数日は全員がその対応に追われていた。
それも収まったため、ようやく女王であるフローリアの居城を用意することになったのだ。
当初は第五層以外の層に置くことも考えられていたのだが、そうする意味がないというわけで、最終的には街がある第五層に置かれることになった。
場所は、街のすぐわきになる。
さらに街が発展していけば、城が中心になるように計画もされている。
計画通りに人口が増えて行くかどうかは、まだまだ未知数な所もあるのだが。
城が立てられる予定の場所は、厳重な警備がされていた。
警備というよりも、中に誰も入らないように警戒している。
何しろ今は何もない場所に、いきなり大きな建築物が建つのだ。
何が起こるのか分からない。
警備を任されている者達には、もし指定範囲内に入った場合は何が起こるか分からないと再三忠告している。
その忠告を無視して事故でも起こった場合は、自己責任という事になっていた。
そのことを十分に理解しているのか、警備担当の者達の空気はピリピリとしている。
勿論、現場に新女王が来ているのもその空気を作っている原因の一つだ。
女王がいる場所は、他の場所以上にピリピリしていた。
すぐ傍に新女王がいるのだから当然だろう。
その女王であるフローリアはというと、アレクを含めた高官たちに囲まれて考助と交信していた。
勿論神力を使った通信だ。
「こっちの準備は整ったぞ? ・・・・・・ああ、分かった。ちょっと待ってくれ」
一度考助との通信を切ったフローリアは、再度現場の状態の確認を行う。
「もう一度、立ち入っている者がいないかを確認してくれ」
城が建つ予定の場所だ。
土地の広さもかなりの場所を確保しているため、確認もそれだけ時間がかかる。
念の為、城が建つ予定よりも広めの土地を確保している。
「やってくれ。・・・・・・ああ。3、2、1・・・・・・!!」
フローリアの秒読みが終わると同時に、建設予定地には立派な城が出来ていた。
建てる城は、フローリアが設置物のリストから選んだものだ。
既に神殿で同じようなことをやっているのだが、それでも今回は規模が段違いだ。
「呆れればいいのか、当然の事と認めるべきか・・・・・・」
「当然だと思うのはいいんだが、慣れるべきではないだろうな」
隣に立ってそんなことを呟いたアレクに、フローリアはそういい返した。
毎度毎度同じようなことを期待されても困るのだ。
むしろ、提案したとしても拒否されるだろう。
「そうだな」
アレクもそう言って頷いた。
塔の機能だけを使ってこういう事を行っても、国民たちの間で技術が育たなくなってしまう。
そうなれば、国としては終わってしまうこともありえるのだ。
そんなことは望んでいない高官たちも、今回限りという事はちゃんと納得している。
それに、この城を維持管理は、人の手でやっていくのだからその辺のノウハウもちゃんと蓄積してくだろう。
ただし、新しい城を一から建てるのと、建っている物を維持管理するのでは、全く違う技術が要求される。
場合によっては、別の場所にきちんと城を建てて技術者を養成しないといけないと考えるアレクであった。
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「おー。よしよし。ベロベロベロ」
「だーっ!!」
「おお。そうかそうか」
傍から見ていると全く分からないが、本人は大真面目に話しかけていた。
抱かれている赤ん坊の名前はトワであり、そのトワを抱いているのは、曽祖父に当たるフィリップだ。
引退を宣言してからさっさと自らの息子に国王の座を譲ったフィリップは、早速とばかりにラゼクアマミヤを訪ねてきた。
正確にはトワに会いに来ているのだが、そんなことを真面目に受け取る国家はないだろう。
当事国であるフロレス王国とラゼクアマミヤ王国以外には。
乳母に「ここまでです」と止められるまで散々ひ孫をかわいがったフィリップだったが、まだ不満そうな表情を見せていた。
「ところで、この城だが・・・・・・どうなっているんだ?」
唐突な質問に、アレクが首を傾げた。
「と、いうと?」
「気づいていないのか? 崖をくりぬいて作ったと言われてもおかしくないくらい継ぎ目とかが見当たらないぞ?」
そう言われて初めて気づいたアレクは、フローリアと顔を見合わせた。
その後、二人で同時に苦笑をした。
「まあ、神の御業だと思ってもらって構わない」
何とも曖昧な返事に、フィリップが視線だけで先を促した。
「別に隠しているわけではないぞ? 塔の力を使って建てただけだ。あの一瞬で建つ様は、神の御業と言ってもいいだろう」
「そうだな」
アレクの言葉に追従するように、フローリアも頷いている。
それを聞いたフィリップは、腕を組んでから唸り声を上げた。
「うーむ。なるほどな。噂には聞いていたのだが、本当だったのか」
「嘘をついても仕方あるまい」
噂としては把握をしていたフィリップだったが、どこまで本当かを図りかねていたのだ。
実際は、噂の方が控えめだったりするのだが、そんなことは予想の範疇外だった。
呆れた表情を見せるフィリップに、アレクは肩をすくめるのであった。
というわけで、フローリアたちの第五層での住居です。
城なんですがw
色々考えましたが、塔の機能を使って建てることにしました。
第二部で、今まで書いてきた話に矛盾があるかもしれませんので、おかしいと思った場合はご指摘ください><




