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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2部 塔のあれこれ(その2)
348/1358

(3)コウスケ神の教え?

いつまでたっても慣れないです。「コウスケ神」

 ラゼクアマミヤという国が出来る前のこと。

 塔で活動する冒険者たちの間で、ある噂が流れた。

 その噂とは、冒険者が現人神コウスケを信仰の対象とすると、希少な素材が手に入りやすくなるというものだった。

 その噂を初めて聞いた考助は、何だそれはと思ったのだが、気が付いたときには冒険者中に広まっていたのでどうしようも無かった。

 噂の内容が悪い物ではなく、むしろ信仰を広める物だったために、コウヒやミツキも動くことは無かった。

 どちらかと言えば、その噂が広まることを推奨している面もあった。

 この件に関しては、考助一人で対処するしかないと悟った時点で、放置することに決めたのである。

 更に悪いことに、リリカの存在がその噂を裏付ける根拠となっていた。

 リリカ自身も、加護の事は話に出さずに、貴重な薬草などが発見しやすくなったことを素直に話していたのである。

 そして不思議なことに、それから神殿通いをしはじめた冒険者たちから次々と希少品の発見の報告が上がってきた。

 偶然だと考えていた考助は、いずれ治まるだろうと放置することに決めたのであった。

 それが後々のちょっとした騒ぎになるとも知らずに。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 現人神の力の噂が流れ始めてかなりたったある日のこと。

 シルヴィアが、リリカからある報告を受けていた。

「騒ぎになっている?」

「は、はい。とにかくコウスケ様を出せと」

 リリカからその報告を受けたシルヴィアは、眉をしかめてため息を吐いた。

「まずいですわね」

「はい。とにかく騒ぎを抑えないと・・・・・・」

 第五層にある神殿の前に、冒険者たちが神の力を与えてくれと騒ぎになっているというのがリリカからの報告だった。

 なぜ今更こんな騒ぎになっているかというと、元々は一部の冒険者たちの間で伝わっていた話が、ひょんなことから塔の外にも広まったのだ。

 その噂を広めた冒険者も悪意があったわけではない。

 商隊の護衛中の退屈しのぎの噂話として話をしただけだった。

 その程度の事は今までもあったのだが、なぜかこの時に限ってはその話を起点にしてあっという間に広まったのである。

 本来であれば、ただの気のせい、あるいは笑い話の一つとして広まるはずだったのが、これまた確信をもって噂が広まって行った。

 何故なら、別の冒険者が次々と塔の外でも希少価値の高い素材を見つけ始めたのだ。

 更にそれを聞いた冒険者が、考助を神として崇め始めた。

 それだけで済んでいればいいのだが、中には馬鹿な者も出てくる。

 自分はしっかりと信仰しているのに、全く発見率が上がらないという言い掛かりを付けてくる者だ。

 そもそもそんなことを考える人間に、そんな幸運など舞い降りてくるはずがないというのが当たり前の話なのだが、そう言う輩に限ってそれでは納得しないのだ。

 そうした者が集まって、第五層の神殿の前で騒ぎを起こしているというのが事の真相だった。

 シルヴィアにしてみれば、わざわざ塔までやってきて騒ぎを起こす暇があるなら冒険者としての腕を磨けと言いたい。

 

 リリカの言葉から自分が考えている事とは、ずれていることを察したシルヴィアが訂正しようとしたその時、シルヴィアの執務室に入ってくる者がいた。

 ラゼクアマミヤ女王のフローリアであった。

 シルヴィアのお付きになってしばらく経つリリカであったが、いつも突然現れるフローリアには、いつまでたっても慣れないようだった。

 この時もまた、慌てて椅子から立ち上がり、直立不動の姿勢になった。

「そんな固くなる必要はないと何度も言っているのだがな」

 その姿を見てフローリアも、そう言って毎度苦笑している。

「そ、そう言うわけには・・・・・・!」

 慌てて言いつのろうとするリリカに、フローリアは片手で遮った。

「すまんが、今回はそのやり取りをする時間も惜しいから、話をするから座れ」

「は、はい!」

 フローリアに促されて慌てて座るリリカを、シルヴィアは苦笑しつつ見ている。

 だが、すぐにその視線をフローリアへと戻した。


「騒ぎの件ね?」

「ああ。そうだ」

 そろそろ長い付き合いと言って良い二人だ。

 そのやり取りだけでお互いに何が言いたいのかをすぐに察した。

「まずいわね」

「まずいなんてもんじゃない。流石に王都であの騒ぎはごめんだぞ?」

 そう言ってからお互いにため息を吐いた。

 第五層の街は、女王であるフローリアがいる時点で、王都として機能している。

 余談だが、王都なのに未だ正式な街の名前が決まっていないという極めて珍しい存在になっていたりする。

 塔の外からは、塔の街とか単純に王都と呼ばれているのだ。

「コウヒさんやミツキさんに知られる前に、騒ぎを収めないとね」

「ああ、任せろ」

「ごめんなさいね。本当なら私が動くべきなのだけど・・・・・・」

 今回の話は、考助への信仰の話なのだからシルヴィアが動くべきことなのだが、既に身重になっている身としてそうそう気軽に移動したりできないのである。

「何、気にするな。私が身重だったときは、ずいぶん助けられたからな。今度は私の番だろう?」

 既に長女に当たる第二子を産んでいるフローリアは、そう言う意味ではメンバーたちの間では先輩と言えるのだ。

 

 そんな会話をしていた二人を、リリカが不思議そうな顔をして見ていた。

「あの・・・・・・いいでしょうか?」

「どうした?」

 言いづらそうにしているリリカに、フローリアが首を傾げた。

「ミツキ様でしたら、先ほどこちらに来る前にお見かけしましたが?」

 シルヴィア傍にいる巫女となったリリカは、既に何度かコウヒやミツキと顔を合わせている。

 その顔を見忘れるはずもないので、先程遠目で見たのは間違いなくミツキだと断言できる。

 そのリリカの言葉を聞いた二人は顔を見合わせて、同じことを言った。

 即ち、「手遅れだったか(わね)」と。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 騒ぎの中心になっている神殿に着いたフローリアは、その光景を見て内心でホッとため息を吐いた。

 最悪の状況になっていなくてよかった、と。

 もっとも、フローリアに付いてきていたリリカや護衛達は顔を引き攣らせていた。

 何しろ神殿の入口を中心にして、扇形状に冒険者らしき者達が男も女も関係なく倒れていたのだから。

 そしてその中心に美貌の女性が一人立っていて、

「そんな事に文句を言う暇があるんだったら、冒険者としての腕を上げなさい。みっともない」

 などとのたまわっていた。

 

「手助けしようと思ったのだが、必要なかったか?」

 ミツキに近づきつつ、フローリアがそう確認を取った。

 機嫌の悪い時に手を出して、とばっちりを受けたくはないのだ。

「あら。フローリア、遅かったわね。いかに自分達が身の程知らずだったか理解できたでしょうから、もう必要ないわよ」

 無理やり肉体に叩き込まれればそうなるだろうな、と状況を見つつフローリアがそんなことを考えた。

 自分も身に覚えがあるからなおさらだ。

 それが、今のような関係になっているのだから人生は分からないと、若干逃避気味にどうでもいいことを考えた。

 それに、ミツキが代弁者としてではなく、単に戦闘力だけで彼らを抑えたのもフローリアにとっては安心できることだった。

 ここまでコテンパンにやられてしまえば、二度と同じことをしようとは考えないだろう。

 数に任せて襲い掛かったにもかかわらず、その相手は息を切らすことさえしていないのだから。

「そのようだな。後は、こちらに任せてもらってもいいか?」

「そう? それじゃあ任せたわ」

 ミツキはそう言った後、片手を上げて去って行った。

 それを見送ったフローリアは、実際にため息を吐いて、一緒に付いてきた警備兵たちに指示を出すのであった。

 

 ちなみにこの騒ぎの後は、シルヴィアの指示を受けたリリカが、二つの教えを広めたおかげで同じような騒ぎが起こることは無かった。

 教えの一つは、安易に求める者は手に入らず。

 もう一つの教えは、触らぬ神に祟りなし、であった。

安易に求める者は手に入らず → むやみやたらにほしがっても手に入りません。しっかりとやるべきことをやっていると自然に手に入りますよ、という意味。


一つ目は自分で作りました。

似たような言葉があった気がしましたが、ピンとくるものがなかったので。

なんかいい言葉がありそうな気がするんですが・・・・・・。

二つ目は解説必要ないですよね?w

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