(14)幕引き
今までお世話になっていた宿の一室で、考助達が話し合っていた。
部屋の中には、考助達普段のメンバーだけではなくレナルド王子達もいる。
考助と向き合って座っているレナルド王子が、改めて考助へ頭を下げていた。
「あの~? 一国の王子がこうも簡単に頭を下げてもいいものなんでしょうか?」
考助が若干引き気味に、側近の二人に聞いた。
問われた二人は、お互いに顔を見合わせて苦笑している。
「普通ならあり得ないでしょうな」
「ですが、貴方の場合は話が違ってきますから」
既に考助の立場を聞いている二人が、そう言って来た。
さらに頭を下げていたレナルド王子が加わった。
「今回の件に関しては、完全に私どもの不手際ですからね。ましてや貴方は現人神なんです。私程度の頭で済むのならいくらでも下げますよ」
「ああ~、いや。もうお腹一杯だからいいです」
そう言った瞬間、オーケとアルミンの二人の表情がホッとしたものになったのを見逃さなかった考助である。
それに気づいているのかいないのか、レナルド王子が今回の件に関して話し始めた。
「そうですか・・・・・・。まあ、それはともかくとして、今回の件は関わった貴族の財産没収とある程度の資格の停止と言った感じになりそうです」
考助としては、罰の内容などは完全に王国側に任せるつもりだったので、いきなり聞かされた話に目をぱちくりとさせた。
「僕にその話をされてもいいんですか?」
「勿論です。貴方は当事者ですからね」
にっこりと笑って言うレナルド王子に、考助が多少疑いの眼差しで見つめた。
「結果を知らせて、了承したからといって、責任は負いませんからね?」
何かを言って来るより先に、考助が前もって釘を刺しておいた。
罰に関して考助(現人神)も了承しているのだから文句を言うな、と発表されるようなことがあってはたまらない。
そんなところまで責任を負うつもりは、当然考助には無いのだ。
その言葉に、レナルド王子は苦笑した。
「まさか。そんなことはしませんよ。はっきり言えば、そんなことをして貴方の傍にいる方の怒りを買うほうが怖いです」
そう言って、ミツキを見た。
その表情はいつもと変わらなかったが、目は笑っていなかった。
レナルド王子もミツキがどういう存在であるかを分かっていて話をしているのだ。
「貴族たちに対する罰はそれだけになりそうですが、財産没収で得た資金で冒険者たちに対する何かをすることになりそうです」
「何か?」
曖昧な言い方に、考助は首を傾げた。
「いや、実はまだ決まっていないんですよ。彼らも完全にランダムに徴収していたようで、もはや誰から取っていたかもわかっていない状況です」
レナルド王子の言葉に、オーケが付け足した。
「分かっているのなら返還することも出来たんですが、それも無理そうです。何よりかなり前からやっていたようなので、最早この国にいない者もいますからな」
それに関しては、考助も分かっていた。
国から国への移動も珍しくない冒険者だ。
その一人一人を探し出すだけでも没収した財産を使い切ってしまうだろう。
「一番無難なものでは、国から出す依頼を増やすとかそういう事になりそうですが、それもまだ正式には決まっていません」
苦りきった表情でアルミンも付け加えた。
場合によっては軍の仕事を取られると思っているのかもしれない。
「あとは、それだけだと不満を抑えれらない可能性もありますので、王の引退も併せて行われます」
この情報に焦ったのが、オーケとアルミンだった。
「王子!?」
「ほ、本当ですか?!」
二人とも寝耳に水の話だったのだ。
「この件を理由に王が引退をするとなれば、大多数の不満を抑えられるだろう? 王もタイミング的に丁度いいと言っていた」
レナルド王子はここに来る前に、内々にその話をフィリップ国王から直接聞いていた。
勿論この話を考助に直接伝える為に、レナルド王子にだけ話をしていたのだ。
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慌てるオーケとアルミンの二人を余所に、考助は冷静に返した。
「確かに、今の元気なうちに辞めておけば、塔に来ることもできるでしょうからね」
「おや。ご存知でしたか」
「アレクがもしかしたら、と言っていたよ」
「さすが、叔父上ですね」
考助の言い分にも慌てずに対処するレナルド王子は流石だろう。
他の二人は、完全に話についていけていないようだった。
「レ、レナルド王子? どういう事ですか?」
聞いていいのかどうなのか悩んでから、オーケが恐る恐る聞いてきた。
「何。フローリアに子供が出来たとアレク叔父上から聞いた国王の事だ。何としても会いに行くと考えるだろう?」
「フローリア女王に子供、ですか」
その話を聞いた側近二人はいろんな意味で驚いた。
元フロレス王国の王女であるフローリアが、ラゼクアマミヤの女王になったことは勿論知っている。
即位したばかりのはずだが、その女王が既に妊娠しているとなるとラゼクアマミヤでは、国中でおめでたい騒ぎになるだろう。
同時に、フィリップ国王が引退するという理由にも納得した。
国王のままでは、自由に国外に行くこともままならない。
引退してしまえば、ひ孫に会うためにラゼクアマミヤを訪れることも可能になるだろう。
しかも元国王が行けば、王国同士の外交的な話もより簡単に進めることが出来る。
出来たばかりの国であるラゼクアマミヤだが、既にその存在を軽視する国家はどこにもない。
であるならば、なるべくいい条件で条約なりを締結したいというのが、現在の各国のラゼクアマミヤに対する流れだった。
勿論フロレス王国もその中の一つだ。
いくらフローリアが血縁関係にあるからと言って、油断するわけにはいかないのだ。
「フィリップ国王の子煩悩、いえ、この場合は孫煩悩でしょうか? ともかくそれに関しては、国内では有名ですからね」
側近二人が諦めたような表情になったのを見て、レナルド王子が苦笑した。
「はあ。そんなのでいいんですか?」
なんと返事をしていいのか分からない考助が、無難にそう返した。
「幸いにして我が国は次代の王も既に確定していますからね。貴族たちが何かを言って来たとしても抑え込めるでしょう」
他国ならいざ知らず、フロレス王国は既に次代の王がレナルド王子の父であるマクシムと決まっている。
それだけで、代替わり時の政変のごたごたが起きにくいのだ。
ついでに、この世界では既に老齢をとっくに超えているフィリップ国王から若い(?)マクシムに変わることは、むしろ歓迎されるだろう。
「そんなもんなんですか」
「そんなものです。少なくとも今のわが国では」
名目上は、今回の責任を取ってということだが、実際は勇退という形に近いだろう。
冒険者がそれに対してどう反応するかは未知数だが、少なくともそれなりの数の不満は抑えられると考えている。
「そうですか。僕としては、冒険者が冒険者らしく活動できるようになれば文句はないです」
考助にしてもこれ以上国のごたごたに首を突っ込むつもりはない。
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「この後はどうされるので?」
ある程度の話が終わった所で、レナルド王子がそう聞いてきた。
「そうですね。冒険者活動をしながら、もう少し各地を回って見ようと思います。・・・・・・自由気ままに、という事は無理そうですが」
考助はそう言いつつアルミンを見た。
アルミンを見たのは、どうせ軍部かどこかでどうせ監視を付けるのだろうという意味だ。
それを察したレナルド王子が一応フォローを入れた。
「それに関しては勘弁してください。我が国としても、貴方のような方を放置するわけには行かないんです」
「そうでしょうね。別に逃げようと思えばいつでも逃げれるので、それは構いませんよ」
さらりと言い放った考助に、アルミンの視線の落ち着きがなくなった。
確かに考助達が本気で監視から逃げようと思えば、簡単に逃げられるだろう。
「まあ・・・・・・お手柔らかにお願いします」
そもそも考助の行動を止めることなど出来ないレナルド王子としては、そう答えることしかできないのであった。
これで「旅(フロレス王国編)」は終わりになります。
この後も考助達はフロレス王国の視察(?)をしますが、特に大きな事件は起こらずに無事に旅を終えます。
最後にエイレンの町から去るときの他の冒険者たちとの別れのシーンも書こうと思いましたが、中途半端になりそうなので止めておきます。
某時代劇の最後の別れのシーンを思い浮かべていただけると分かりやすいかと思いますw




