(6)絡め手
考助がアキレスを追い払ってから数日。
直接の徴収を諦めたのか、今度は嫌がらせという手を使って来た。
具体的には、泊まっている宿に対しての嫌がらせだ。
ただし、宿の女将や主人は気にするなと笑っているが。
もともと考助達が使っている宿は冒険者御用達の宿だけあって、変な嫌がらせには大して効果が無いのだ。
なにより、あの日の考助とのやり取りで、泊まっている冒険者を味方につけたのが大きかった。
宿の経営には全くと言って良い程影響が無かったのである。
それどころか、考助のやり取りはその場にいた冒険者から他の冒険者に伝わっていき、突発的な税の徴収が出来なくなっている始末だった。
完全にランダムで行っていた税の徴収が出来なくなったことで、少なからず影響が出ているようだ。
ちなみに、ランダムで行われる税の徴収に今まで疑問を感じなかったのかと考助は感じたが、これには理由がある。
そもそも冒険者の税の支払いは、定期的に徴取されるものと不定期的に徴取されるものの二種類がある。
定期的な物は、年の初めに徴取される人頭税に当たるものだ。
これは、その年の一番初めの月にいる町で徴取されるものだ。
場合によっては国をまたいで活動している冒険者の場合、一つの国家に納めるのが難しい場合もある。
そのために、各国で協定を結んで取り決めたのが、この年の初めに取るというやり方だった。
一度払えば領収書のようなものが出されるので、別の国に移動してもその年はもう払わなくてもよくなる。
問題なのは、不定期的に徴取される税だ。
これは冒険者が狩るモンスターや採取する物に掛けられる税なのだが、対応はまちまちになっている。
公的ギルドで出ている依頼の場合は、その依頼から徴取できるようにすればいい。
問題は、冒険者たちが直接卸している素材などの分をどうやって徴取するのか、ということだ。
これに関しては、各国で対応がまちまちだったりするのである。
そのため冒険者もその税が正しいものかどうか、一々確認を取ったりせずに払ったりしているのだ。
そうした傾向は、特に移動が多い冒険者達に多く見られる。
その点から考えれば、国境の町となっているこのエイレンの町で、突然の税の徴収があることも疑問に思わないのもある意味しょうがないことなのだ。
今回の考助とのやり取りで不正に取られているかもしれないというのだから考助の味方をしたくなるのも当然だろう。
勿論、考助のやり取りに説得力があったという前提があるのだが。
そんなわけで、現在のエイレンの町では、冒険者からの税の臨時徴収がままならない状態になっている。
その矛先を考助に向けてきているのだが、それも効果を発揮しているとは言い難い状態だった。
となれば、その矛先を変えてくるのは当然の対応といえるのかもしれない。
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冒険者として活動している考助としては、特にエイレンの町にこだわって居続ける必要はない。
だが、これだけの騒動を起こした以上は、最後まで見届けるつもりでいた。
そんな中、考助の所にある情報がもたらされた。
その情報を持ってきたのは、デフレイヤ一族だ。
デフレイヤ一族は数人考助に付いてきているのだ。
任務としては、考助への情報提供もあるのだが、メインはクラウンの支部を置くことになる場合の情報収集を務めているのである。
その者が持ってきた情報を聞いた考助は、すぐさま宿の女将のところへと向かったのであった。
「おや。血相変えてどうしたんだい?」
慌ててやって来た考助を見て、女将は不思議そうな顔をしていた。
その顔をみた考助は、プロだなあと感心した。
「どうもこうもないですよ。折角他の冒険者たちが協力してくれているのに、女将さんたちだけが苦労してどうするんですか?」
「い、いきなり、何の話だい・・・・・・!?」
それはほんの少しだけの変化だったが、最初から分かっていた考助は見逃さなかった。
若干だが、女将の表情が慌てたような顔になったのだ。
「・・・・・・ん? なんだ、どうしたんだ?」
そんなことをしていると、他の冒険者も気づいて近寄って来た。
「この店で出している食材の購入を断られているそうですね」
「何?」
考助の言葉に、冒険者は驚き、女将は諦めたような表情になった。
隠しきれないと観念したのだろう。
その顔を見て冒険者も事実だと分かったのだろう。
状況を察して、どこかに行こうとした。
「待ちなよ・・・・・・!」
女将が慌てて止めるが、言葉で止められるはずもない。
だが次の瞬間には、その冒険者はあっさりとミツキに止められていた。
「なぜ止めるんだ・・・・・・!?」
「落ち着けって。この状態で店に駆け込んだところで、店主だってどうしようもないよ」
「そうだよ。相手は領主様の手下なんだ。逆らうわけにはいかないだろう?」
考助と女将に宥められて、ようやくその冒険者は落ち着いたようだった。
「だがよう。どうするんだ? 食事なしはいやだぜ? 折角主人の飯上手いのに」
「ははは。そう言ってくれるだけでありがたいさ。食材は何とかするから心配するな」
女将は笑ってそう言ったが、状況を知っている考助としては頷けなかった。
「駄目ですよ。保存がきく肉類はともかくとして、野菜類は手に入らなくなっているよね?」
冒険者は肉を好む者が多いので気づかれにくくいが、少しずつ量を調整して何とかやりくりしている状態なのだ。
「というわけで、ミツキ」
「はいはい」
考助がミツキに指示をすると、そのすぐ後にどっかりと野菜類が出現していた。
「な、何だい!? どうやって・・・・・・」
「ま、まさか、アイテムボックスの魔法か!?」
女将は知らなかったようだが、冒険者はアイテムボックスの魔法を知っていたらしい。
驚いてミツキを見ている。
「これだけあれば数日は持つよね? 足りなければ他からきちんと仕入れてきますから」
「い、いや、それはありがたいけど、仕入れるってどこから?」
女将と主人はここ数日色々な所を回って仕入れを確保しようとしたが、既に手が回っていて駄目だったのだ。
「ああ。別にこの街で仕入れるわけではないですよ。他の場所に行って仕入れてきます」
ミツキにしても考助にしても塔に戻る手段はいくつか確保している。
一番簡単な方法は、百合之神社に戻って転移魔法を使って戻ってくる方法だ。
神域にさえ行けるようになっている考助なのだ。
これくらいの転移は、大した負担ではない。
詳しくは語らなかった考助だったが、何となく転移魔法を使う事は察したのだろう。
冒険者が息を飲んで、考助を見てきた。
「お、お前。もしかして転移魔法を使えるのか?」
「もしかしなくても使えますね」
「は、はは。まじかよ。例の件からただ者じゃねえと思っていたが・・・・・・。女将、ここはこいつに頼ったほうがよさそうだぞ?」
転移魔法を自由自在に使える魔法使いなど、ほんの一握りの者達だけなのだ。
それだけでもかなりの実力を持っていることがうかがえる。
その冒険者の言葉を聞いて、女将も諦めたようにため息を吐いた。
「そうかい。本当ならお客に手間を掛けさせたくないんだがね・・・・・・。ここで意地を張ってもしょうがないね」
「そういうことだ」
「そうですね。それに、もし女将の気が引けるというのであれば、宿代とか食事代で賄うとかでどうでしょうか?」
考助の提案に、女将も頷いた。
「そうだね。そうさせてもらおうか」
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これで宿の食事に関しては、問題が片付いたのだが所詮は目先の対処だけだ。
根本を解決しないと似たようなことは続くだろう。
それを心配した冒険者が聞いてきた。
「だが、この状態がいつまでも持つわけじゃないぞ?」
その言葉に、考助は意味ありげな視線を向けた。
「ああ。大丈夫ですよ。せいぜいあと一週間程度ですから」
いきなりそんなことを言って来た考助に、周囲の者達は訝しげな表情になったが、それ以上を聞いてくることは無かった。
先程のやり取りでもそうだが、考助がごく普通の冒険者ではないという事は、既に冒険者たちにも分かってきているのであった。
考助のチートっぷりが明らかになってきました。
次回はいよいよ大詰め・・・・・・になるといいなあ。




