(3)フローリアの指揮
考助が感じ取っているモンスターの弱点は、それぞれの個体で微妙に違いがある。
同じ種のモンスターで目が弱点だとしても、目そのものなのか、あるいは目の周辺なのか、違いがあるのだ。
その細かい場所をナナに教えて、その場所をナナが攻撃する。
ナナの攻撃と言っても単純にその場所に体当たりをしたり、牙を突き立てたり、魔法を駆使したりと様々だ。
その方法は、ナナに任せてある。
そこまで考助が口を出すと、まともに動けなくなってしまう可能性があるためだ。
ミツキの予想通り、何度か繰り返すことによってナナも慣れて来たのか、的確に考助が指示した場所を突けるようになってきた。
その結果がどういうものであるかというと。
「おっ。また一撃か」
ナナがモンスターの脇腹に噛みつくと、その一撃だけでモンスターが倒れた。
ゲームで言う所のクリティカルヒットのような攻撃になっているのだ。
「なんというか・・・・・・すごいですわね」
「唖然です~」
その結果を見て、シルヴィアとピーチが驚きを示していた。
言うまでもないが、今ナナが相手をしていたモンスターは、通常であれば危険指定したうえで、大人数の物量で攻め無いといけないようなモンスターだ。
そのモンスターを牙の一撃で倒してしまうのだから、驚くのも当然だろう。
二人がこの程度の驚きで済んでいるのは、今までの成果を見て来たからだ。
現に、たった今この場所に来てナナの戦闘を見たフローリアはというと、
「な、なんだ、今のは!」
と、驚愕していた。
何故ここにフローリアがいるかというと、一旦管理層に戻った考助達が、今回の検証の話をすると興味を示したのだ。
そして、様子を見に来たいと言って来たのだが、特に断る理由はないのでそのまま一緒に来たというわけだ。
その結果が、先ほどの台詞という事になる。
一通り驚愕を示したフローリアが、呆れたように溜息を吐いた。
「話に聞くのと、実際に目の前で見るのとでは、全然違うな」
そもそも管理層で実験の様子を聞いているはずなのに、ここまで驚いているのは今言った通りなのだろう。
管理層では、一撃で倒せるのはたまにという話しかしてなかったこともあるのだろうが。
「そんなもんかな?」
「ああ。こんな光景を他の・・・・・・例えば、冒険者とかに見せてみろ。とんでもないことになるぞ?」
その光景を想像したのか、シルヴィアが勢いよく縦に首を振っていた。
自分自身も冒険者だったシルヴィアは、その辺の事情もある程度は知っているのだ。
一方で、短期間しか冒険者活動をしていない考助には、ピンとこない話でもある。
そもそも、考助がこの世界に来て一番最初の戦闘が、コウヒとミツキの物なのだ。
「そんなもんか」
結果として、こんな感想になってしまうのは、しょうがないのだろう。
ナナが一撃でモンスターを倒せるようになって、考助の目的も達成することが出来た。
あとは回数をこなして、その精度を上げるだけだ。
最初は勘にこだわっていた感じだったが、今では完全に見えていると言っていいだろう。
「見える」といっても、モンスターの身体の一部が光ったりするわけではないのだが。
今回の能力が、右目で見ているのか左目で見ているのか、考助自身もはっきりしていない。
考助自身が使っている感じでは、左目の能力の延長のような感じを受けている。
あるいは、また別の能力と言う可能性もある。
その辺は、おいおいわかってくるだろうと、深くは考えていない考助であった。
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考助の力に関しては、ある程度の目途がついたという事で、今度は他のメンバーに関して調べることにした。
先程の光景を目の当たりにしたフローリアも、何か思う事があったのか、色々と考えているようだった。
もっともフローリアの発現した加護の力が、今回の件に役立つとは考助も考えていない。
これがきっかけになって、別の何かに繋がればそれはそれでいい結果になる。
「じゃあ、誰からやってみる?」
考助の言葉に、三人が視線を合わせた。
その中で、シルヴィアとピーチの二人は小さく首を振っていた。
それを見たフローリアが、進み出て来た。
「では、私でいいだろうか?」
「お? うん。勿論いいよ」
意外にも最初に立候補してきたのが、フローリアだった。
何か思いついたことでもあるのだろう。
いきなりこんなことを言って来た。
「それで、相談なのだが、狼達を借りていいだろうか?」
「狼達を? いや、それは勿論良いけど・・・・・・どうするの?」
「私の加護の力だが、指示出しに使えないかと思ってな」
「指示出し? ・・・・・・ああ、なるほど」
要は、連携の指示の際に、加護の力を使う事が出来るのではないか、という事だ。
「といっても、狼達は連携して倒してるけど、その辺は大丈夫?」
「まあ、最初は彼らの狩りの様子に少しずつ口を出して行く感じで行こうかと思う」
「そういう事か。じゃあ、後はナナにお願いをしてみてね」
ナナの了承さえもらえれば、狼達が断ることはまずない。
そう思って考助はそう言ったのだが、二人の話をしっかり聞いていたナナが断るはずもないのであった。
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フローリアは、最初からいきなり指示を出すのではなく、まずは狼達が群れでどういう狩りをしているのかから確認をしていた。
「いや。見事な物だな」
「全くだね」
当然、ナナのように実力差で圧倒するような戦い方ではない。
しかしながら、彼らの戦い方は群れで追い立てて、確実に仕留めるような戦い方だった。
考助から見ればその連携は見事の一言だったので、これに口を出すことは出来ないと思われた。
「では、次は私が指示出しをしてみようか」
考助には穴がないように見えた連携も、フローリアには違っていたようで、次は彼女自身も指示出しをすると言ってきた。
フローリアの指示出しは、常に狼達に声を掛けるような物ではない。
要所要所で的を絞って指示を出していた。
だが、それだけでもかなりの効果があったようで、先程とはまた違った動きを見せていた。
更に狼達もその指示に、戸惑いなどは感じていないようだった。
「なんというか・・・・・・すごいなあ」
そう漏らしたのは考助だったが、傍で見ていたシルヴィアやピーチも同じような表情をしていた。
いまフローリアがしていることは、加護の力と言うよりも地力で指示出しをしているのだ。
それは明らかに軍の指揮官としての感覚で行っていた。
なぜ元王女がそんな能力を持っているのか、深くは聞かないことにしようと思う考助であった。
「こんなもんか」
見事にモンスターを討伐し終えたフローリアは、一つため息を吐いた。
ちなみに今、狼達が相手取ったモンスターは一頭だけではない。
複数のモンスターを見事に狩り取っていた。
明らかに、フローリアの指示が無かったときとは、効率が全く違っていた。
そのことが分かっているのだろう、戦闘に参加した狼達がフローリアの足元に近寄ってきていた。
「お、おお・・・・・・?! こら、そんなにはしゃぐな。私は、コウスケではないぞ?」
その言葉はどうなんですかフローリアさん、と思わず言いそうになった考助だが、それは我慢して別のことを聞いた。
「いや、見事だったんだけど、加護の力は使った?」
別に加護の力は使ってなくても構わないのだが、気づかなかったので、敢えてそう聞いた。
「使ったぞ? 指示を出しているときに」
「指示を・・・・・・? ああ、そういう事か」
王者の威圧は、相手を威圧するだけではなく、意思を強く伝えるという事にも使える。
今回フローリアが使ったのは、そちらの方だったのだ。
フローリアに言われて、ようやくそのことに気づく考助なのであった。




