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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第24章 塔と加護の力
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閑話 貿易量

 バーム・エドリア・コラム国王は、自らの執務室で考え事に耽っていた。

 本来であれば、書類整理に忙殺されているはずなのだが、時にはこうして思いを巡らせることもある。

 国王であるバームの頭を悩ませることは多々あるが、現在もっとも考える時間を使わせられているのは、セントラル大陸の問題だった。

 以前にちょっかいを出したこともあるコラム王国だが、今のところ国内でそうした声が再発することは無いようである。

 だが、いつまた攻めるべきだと言う声が出てきてもおかしくはない。

 結局、前に自らの国で出した艦隊が、今のところセントラル大陸に軍事的行動をとった唯一のものになっている。

 バームとしては、すぐにでも他の国がちょっかいを出してくると思っていたのだったが、アマミヤの塔の意外な攻撃力がそれに歯止めをかけていた。

 中にはただの噂だとしている国もあるのだが、実際に行動に移るところまで行っている所は、バームが掴んでいる情報の中では見受けられない。

 少し前には、セントラル大陸の北の方で海賊騒ぎが起こっていたようだったが、それも現在では下火になっている。

 位置的に離れたコラム国にも裏にはどこかの国家が関わっているという話もあったが、結局大した効果は挙げられていないようだった。

 バームとしては、裏にいる国家がしびれを切らして、直接的に行動してくれればと考えているのだが、そうそう都合よく話は進まないのが世の常だ。

 アマミヤの塔に関しては、もはや国としての体裁が整いつつある。

 ただ、国家としてあるべき軍隊の存在が無いのだが、そもそも警備隊は必要だとしてもすぐに軍隊が必要かといえば、そうでもない。

 何しろあの大陸には国家というものが、今まで存在していなかったのだ。

 それだけ特異な大陸なのだが、塔が攻略されてからは状況が一変したのは周知の事実だ。

 転移門の存在が大陸の状況を大きく動かすことになった。

 コラム王国がある西大陸にも当然のように塔が存在していて、攻略されている塔もある。

 だが、どういうわけだか転移門のような存在は聞いたことが無かった。

 あるいは、何かあった時のために存在を隠している可能性もある。

 一瞬で塔という安全地帯に移動できる手段は、王族にとっては秘匿すべき隠し通路のような扱いになっていたりするかもしれない。

 バームがもし塔の所有者で、転移門があればそのように扱っていてもおかしくはない。

 もしくは転移門の存在自体がその塔には無いのか。

 何しろ過去に攻略されてから何度も所有している国が変わったりしているので、その際に上手く所有者の変更がされていないことも考えられる。

 むしろこちらの方が可能性としては大きいだろう。

 わざわざ敵対している国家に、塔という重要な資産をまともに渡すはずもない。

 塔のシステムがどういった物かよくわからない以上、どうしても推測になってしまうのだが。

 そこまで考えたバームは、無い物のことを考えてもしょうがないと、脱線した思考を元に戻した。

 

 今考えるべきは、コラム王国としてアマミヤの塔とどう相対していくかという問題だ。

 今のところ強硬派は、再び軍を出すことは言っていない。

 だが、いずれまたそういった声も出てきてもおかしくはない。

 その時に、強硬派を黙らせることができる材料が無いとだめなのだ。

 バームとしては、危ない橋を渡るつもりないので、海軍を出すつもりはない。

 だが、その声が大きくなれば無視できないのも事実である。

 そんなことを考えてたバーム国王は、ある書類に視線が止まった。

 それはこれから処理を行う予定だった報告書の一つだった。

 しかもクラウンに関してのものだ。

 ついでだとばかりにその書類に目を通し始めるバーム国王。

 やがてその表情が綻んできた。

 その報告書通りなら、もしかすると強硬派を黙らせることもできる可能性がある。

 どうしても詳しく話を聞く必要があった。

 すぐにその書類に関係した重鎮を呼び出すことにした。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 バームに呼び出された担当者は、税務に関係している部署の者だった。

 その報告書は、クラウンに関係している商人ギルドからの税収が増えているという報告だったのだ。

 絶対額で考えれば、さほど大きい額ではない。

 だが、伸び率でみれば他のどの商人ギルドよりも大きいのだ。

 勿論それは、商人ギルドだけに限ったものではない。

 クラウンから輸入した商品を加工したりしている工芸ギルドも似たり寄ったりの状況になっていた。

 

「この報告書は先月分だが、それ以前はどうだったのだ?」

「は、はは。状況が顕著になったのは、先月からでその前はさほどではないです。ただ、今月はさらに増えそうな勢いです」

 担当者の報告に、バームは首を傾げた。

「何故これらの業者が伸びている?」

「あの・・・・・・」

「構わん。推測でもいいから話してみよ」

 担当者が言いよどんだのを見て、察したバームが続きを促した。

「恐らくですが、クラウンからの素材の質が良いからかと思われます」

 その一言で担当者が言いたいことが分かった。

「・・・・・・それほどなのか?」

「調査した限りでは、工芸品・工業品、あるいは嗜好品どれをとってもかなりの物だそうで。国内もそうですが、なにより国外への輸出が伸びているとのことです」

 バーム王国では、アマミヤの塔から産出した製品を素材のままで買取り、それを加工したりしている。

 もともとセントラル大陸から素材を輸入していたために、そういった技術の下地があったのだ。

 そもそもセントラル大陸の素材は質が良い事で有名だ。

 塔産出の素材はそれらと同等かあるいは、上を行く場合もあるということだった。

 そうした物を国外に売り込むと高く売れるために、そうした商売に関わっているギルドが売り上げを伸ばしているのだ。

 結果として税収の増加につながっているということだった。

 

「クラウンが意図して我が国に輸出を増加しているという事は?」

 そう質問した意図は、以前の騒ぎがあるので、商業的なつながりを強化しているのではないかと疑っているのだ。

「他の国の状況は正確につかめませんが、恐らくそれはないかと。単純にアマミヤの塔からの資源の産出が増加しているようです」

 塔で活動している冒険者あるいは、それに類する業務に従事する者の増加によって、資源の産出が増えているということだった。

 当然それによって外に輸出できる資源の量も増えるという事になる。

 結果として、コラム王国に入ってくる素材の量が増え、それに関係しているギルドの売り上げが伸びているのだ。

 問題があるとすれば、その伸びがどこまで続くかという事だ。

 いくら塔とはいえ、資源が無限に取れるわけではないだろう。

 あるいは、それを採取する冒険者たちの数が足りなくなるかもしれない。

 必ずどこかで伸びが止まることになる。

 流石にそれは、予想できるものではない。

 ある程度の推測は可能かもしれないが、それはあくまでも予想であって絶対ではないのだ。

 だが、それはともかくとして、この状況はこの国にとっても使えるものだ。

 何しろ税収が伸びているのだ。

 下手に手を出せばその税収が失われるかもしれない。

 これは、強硬派を黙らせるための一つの材料にできる。

 もっとも、そう言う輩の中には、だからこそ攻めるべきだと言う者もいるのだが。

 そこまで短絡的な者は、さほど多くはない、はずだ。

 

 セントラル大陸からの素材によって税収が増えるという事は、短期的に見ればコラム王国にとっては良い事だろう。

 だが、長期的に見た時に、あるいはセントラル大陸に塔を中心とした国が出来た時に、そのことが良い事になるかどうか。

 それはまだ未知数だとバームは胸のうちに刻むのであった。

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