(9)フローリアの覚醒
考助がナナの力を借りて何をしようとしていたのかというと、敵の弱点を「見る」ことが出来ないか、ということを確認していたのだ。
結論から言えば、ナナの攻撃が強すぎて、どちらのおかげで倒せていたのかまで確認できなかった。
セシルとアリサが連れている狼達を使って確認しようかとおもったのだが、それは後回しにすることにした。
今はサリーのパーティと一緒に来ているのだ。
言えばさらに延長も許可してくれるだろうが、流石にそれは遠慮するべきだと思ったのだ。
何よりわざわざ別のパーティがいる所で、見せつける必要はないだろうと。
「うん。もういいや。結局、よくわかんなかった」
考助はそう言いつつ、サリーの所に戻った。
「なんだ、それは? 何を調べてたんだ?」
「いや、ブランベアの急所をつけたら一撃で倒せるかを確認したかったんだけど・・・・・・」
考助が言いよどんでナナに視線を向けた。
それを見て、サリーも苦笑した。
「ああ。この子の力が強すぎてよくわからなかったという事か」
「そういう事。ここじゃ確認できないことが分かったから、さっさと戻ろう」
考助が戻ると言ったことには、勿論根拠がある。
すぐに戻らずにここを狩場にするとなると、テントも張らずに自分の事を見続けることなどあり得ないのだ。
サリーは、その辺はリーダーとしてしっかりしている。
「わかった。おい、お前らも休憩は十分だろう。街に引き返すぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
サリーが声を掛けるとパーティメンバー達から返事が返って来た。
新規参入したメンバーも調子を揃えていることから、懸念した問題も出ていないようだった。
結局この後は、移動中に襲い掛かってくるモンスターを露払いしつつ、街に戻りサリーたちと分かれた。
考助はというと、実験の事も忘れて宿で数日寛ぐのであった。
管理組のメンバー達が加護の力を使いこなし始めているのを感じながら。
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フローリアは、ハクと一緒に南西の塔へと来ていた。
ハクを連れてきているのは、護衛を兼ねている。
塔の様子を見に来たと言うのもあるのだが、今回はそれ以外の目的もある。
その目的を確認するために、ゴブリンたちがいる階層に来ていた。
「確認することって何?」
ゴブリンの拠点があるところに行く途中で、ハクがフローリアに聞いてきた。
「ああ。ちょっと試してみたいことがあってな」
「ふーん?」
フローリアの濁した言い方に、ハクは首を傾げつつ一応は頷いた。
ゴブリンたちの所で何かをしようとしているのは確かなのだから、その時にまた確認しようと思ったのだ。
転移門のある位置からゴブリンたちのいる拠点までは、さほど距離が離れているわけではないので、すぐに目的地に着いた。
すると、何匹かのゴブリンたちが、フローリアに気づいて近寄って来た。
他の塔もそうなのだが、あくまでも所有者は考助になっている。
そのため召喚されているゴブリンたちも<考助の眷属>となっているが、フローリアが実質的に管理しているのを理解しているのか、彼らが襲ってくることは無い。
そもそも召喚陣から彼らを召喚しているのは、フローリアなのでこの世界に出てきて最初に見ているのが彼女と言うことになる。
別に刷り込み現象が起きているわけではないが、親に似た何かのような存在には思っているのだろう。
他のメンバー達の状況も似たような感じだった。
そんな彼らの所に来て、フローリアが何をしようとしているのかと言うと、当然ながら加護の力の確認だ。
シルヴィアに確認してもらって、考助の加護を確認していた時に、ふと思いついたことがあったのだ。
思いついたというよりも、直感したと言う方が正しいかもしれない。
その直感に従ってみようと思ってここにきているのだ。
フローリアとハクがしばらくその場にいると、拠点にいた残りのゴブリンたちも集まっていた。
他の者達は狩りにでも出ているのだろう。
その中には鬼人へと進化している者もいた。
鬼人まで進化していると、人の言葉もある程度理解できているようで、フローリアの指示も通じる。
「済まないが、お前と他に何人か残して後はいつも通りにしてもらえるか?」
鬼人になっている者にそう指示をすると、その鬼人がくぐもった言葉を発してゴブリンたちに指示を出した。
するとフローリアが言った通り、鬼人が一匹と後は普通のゴブリンが四匹その場に残っていた。
鬼人が確認するようにフローリアを見て来たので、一度だけ頷いて大丈夫だと伝えた。
フローリアは、一度目を閉じて精神を集中した。
本来であれば、こんなことをせずに出来るようにならないといけないのだろうが、まだまだ未熟者としてはこうするしか方法がない。
集中して自分の中にある考助の力を感じ取ったフローリアは、次の瞬間に目を開けてそのまま感じ取った力を解放した。
すると、目の前にいたゴブリンたちが、一斉に膝をついた。
それを見てフローリアは、見事に加護の力を発現できたことを確信した。
すぐにその力を解放して、ゴブリンたちに謝った。
「すまん。ちょっと試してみたかったんだ」
彼らは、今フローリアが解放した力をもろに感じ取った。
しかもその力は、考助の物だったのだ。
思わず膝をついたのもそのためだ。
いないはずの考助の力を感じ取ったのだから、さぞ混乱しただろう。
フローリアが力を解放すると、あからさまに安心したような空気が漂った。
「凄いねえ。お父様の力?」
「ああ、そうだ」
フローリアはまだ何も言っていないのだが、ハクはすぐに今解放した力が何かを理解したらしい。
「お父様の力そのもの、というわけではない?」
「凄いな。わかるのか」
たったあれだけの事で、ハクは力の本質を見抜いたらしい。
フローリアも隠すつもりはないので、すぐに頷いた。
「そうだな。もらった加護の力そのものをそのまま解放すると、多分私の身が持たない」
「そうなの?」
「ああ。そこはまだまだ修練が足りない、という事かな」
だが少なくとも、これでフローリアも加護の力を解放することができると確信できた。
あとは、管理層へ帰って仲間達に感じ取ってもらうだけである。
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管理層へと戻ったフローリアは、すぐに皆の前でゴブリンたちに行ったことと同じことを実行した。
加護の力を解放する。
ただそれだけのことなのに、すぐにメンバー達はフローリアが何を行ったのか理解したらしい。
「なるほどの。さしずめ<王者の威圧>といったところか?」
「上手い言い回しですわ」
「いやまて。いささかそれは大げさすぎないか?」
シュレインとシルヴィアの言い草に、フローリアが慌てたように口を挟んだ。
確かに、この力を伸ばすことが出来れば、モンスターを抑え込めることもできるようになるだろう。
だが、今のところは低ランクのモンスターを抑え込むのがやっとと言ったところだ。
先程確認したゴブリンたちの様子を見てそう確信した。
何より、一々目を閉じないと使えないなど、実戦では使うことなどできないだろう。
「でも、いずれそうなるんだから最初からそう呼んでもいいと思うわよ?」
コレットがそう言うと、シュレインとシルヴィアが頷いた。
何気に、傍で話を聞いていたコウヒも頷いていた。
ちなみに、ミツキは食事を用意している。
この後ミツキが加わりフローリア一人が反対する中で、他の全員の一致をもってフローリアの加護の力の名前は<王者の威圧>に決まったのであった。
というわけで、フローリアの加護の力でした。
最初はいきなり人間相手に通じるようにするつもりでしたが、流石にそれはやりすぎだと思ったので、はじめは低ランクモンスター程度にしましたw
コレットとシルヴィアは、次の話で・・・・・・収まらないかもしれません><




