(4)一時的な帰省
考助は一時的に管理層へと戻ってきていた。
一時的にと言うのは、まだ完全には戻れないからだ。
そもそも今回戻って来たのは、皆にそれぞれ伝えたいことがあったからだ。
完全に戻ってしまうと、せっかくうまくいっている加護の力の発現がここで止まってしまう可能性がある。
そんなことは考助としても避けたいので、あくまで一時的という事にしたのである。
「主様!」
「考助様!」
やはりと言うか、考助が戻って来た事に最初に気付いたのは、コウヒとミツキだった。
「やあ。ちょっと一時的に戻って来たよ」
「一時的、ですか?」
考助の言い方に引っかかったミツキが首を傾げた。
コウヒも言葉にはしていないが同じような表情になっている。
「ああ。まだ完全には戻らないよ。・・・・・・理由は、他の皆にもきちんと話すから」
「わかったわ」
聞きたいことがあるのは確かだが、他のメンバーと一緒の方がいいのは確かだろうと、ミツキが頷いた。
そのコウヒとミツキの声が聞こえたのだろう。
他のメンバーたちも駆け寄って来た。
「「「「「コウスケ(さん、様)!!!!」」」」」
「お父様!」
全員で名前の大合唱だった。
一人だけ毛色が違っていたが、これはハクなので当然と言えば当然だろう。
「やあ。皆、元気そうだね。それから先に謝っておくけど、勝手に出て行ってごめん」
そう言って頭を下げた考助に、全員が顔を見合わせた後、シュレインが一歩前に出て答えた。
「まあ、なんだ。何も言わずに何故だ、と文句も言いたいが、理由が理由だけにな。今の言葉だけで取りあえずは、よしとしよう」
「とりあえず、ね」
「無論だ」
そう言って頷くシュレインに、考助は若干早まったかと思ったが、それでも先に言っておかなければならないことがある。
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「まず先に言っておくけど、今回戻って来たのは、あくまでも一時的だから」
「そうなの?」
考助の言葉に、メンバーが浮かべた表情はどちらかと言えば、戸惑いと言った方が強かった。
「その理由なんだけど・・・・・・ピーチから説明したほうがいいかな?」
「私ですか~?」
突然話を振られたピーチが、首を傾げた。
「うん。だって、理由分かるよね?」
「理由・・・・・・」
しばらく考えていたピーチが、ハッとした表情になった。
「もしかして、今朝見た夢のことですか~?」
「そういう事だね。そもそも僕が戻って来た理由って、それだし」
以前、ピーチが考助の夢を見たことは話していたが、今朝見たという夢に関しては、誰も聞いていなかったためにメンバーたちは顔を見合わせている。
というよりも、そもそもピーチも今朝見た夢に意味があるとは考えていなかったのだ。
だが、考助は確実にピーチが加護の力を発動したのを感じたのだ。
ピーチはしばらく考えて夢のことを思い出そうとしている。
言われてみれば、確かに夢にしては鮮明で、記憶もしっかりと残っていた。
「確か、コウスケさんとシュレインが、何かの儀式をしていたような夢だったです~」
「何だと・・・・・・!?」
ピーチの言葉に、シュレインが激しく反応した。
その様子に、他のメンバーが驚いた顔になっている。
「そう言うわけだから、準備よろしくね」
「あ、ああ。分かった」
考助がそう言うと、シュレインが慌てたように、駆け出して行った。
儀式を行うための道具を揃えるために、ヴァミリニア城へと向かったのだ。
「儀式・・・・・・ですか?」
シルヴィアが疑問を投げかけて来た。
「ああ。僕も詳しくはわからないんだけどね。ヴァンパイア一族に伝わる儀式らしい。・・・・・・ああ、危険はないから大丈夫だよ」
微妙な表情を浮かべるミツキに、考助が苦笑しつつ付け加えた。
ヴァンパイア一族に伝わる儀式には、一部危険な物があるのを分かっているのだ。
だが、今回シュレインが行おうとしているのは、むしろ危険があるとすればシュレインの側にある。
今までシュレインがこの儀式を行おうとしなかったのは、いくつもある条件に合致していないと思っていたためだ。
確かに、その考えは間違ってはいなかったのだが、今回ピーチが夢を見たことでその条件が揃った。
その条件とは、第三者に儀式の内容を知られるという事。
ただし、その儀式を行う者が第三者に伝えてはならないという制約がある。
ピーチがその内容を夢という形で知ることが出来たので、その条件を満たしたのだ。
「というと、加護に関係するもの?」
コレットが首を傾げつつ聞いてきた。
「いや。加護と言うよりも、どちらかと言えば、ヴァンパイア一族に伝わっているのは、進化するための儀式としてらしい」
考助が聞き伝えなのは、この話を知ったのが、アスラから聞いたからだ。
ピーチが加護の力で夢を見たのを知ってはいても、その内容がよくわからなかったので確認したのだ。
「では、今回コウスケさんが戻って来たのは、その儀式をするため?」
「ああ。シュレインにとっては、間違いなく先に進めるからね。あとは、その儀式は僕がいないと駄目らしいし」
「コウスケが必要と言うのは?」
「さあ、流石にそこまでは・・・・・・。詳しくはシュレインに聞いた方がいいかな?」
考助としても儀式の全ての内容を知っているわけではないのだ。
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「あと、待っている間に、せっかくだから付け加えておくけど・・・・・・。コレット、シルヴィア、それからフローリア」
「「「はい・・・・・・!」」」
「三人とも、方向性は間違っていないから焦らずに進めて行ったらいいと思うよ」
今回考助が来たのは、これを伝えたくて来たのもある。
ピーチが先行する形で加護の力を発現しているが、三人にはそれぞれの進め方があるのだ。
「焦ると逆に駄目になってしまう可能性もあるからね。まあ、三人とも言われていると思うけど」
シルヴィアはエリスから、フローリアはスピカから、コレットはシェリルから、それぞれ焦ってはダメだと釘を刺されている。
これで考助からも改めて言われたことになる。
「心配しなくても、ちゃんと全員が発現できると思っているから。最後の一人になったとしても焦らないで・・・・・・といってもなかなか難しいと思うけどね」
そう言って考助は苦笑した。
だからと言って、最後の一人を置き去りにするつもりは毛頭ない。
ただ、何となくだが、考助は最後に一人だけになるとは何故か予想していない。
これも神としての勘なのかもしれないが、最後は同時に発現に成功するような気がしているのだ。
あくまでも勘なのだが。
勘であることは言わないが、だからこそ焦る必要はないと言う必要があったのである。
考助から助言をもらった三人は、少しだけホッとしたような表情になった。
やはりどこかに焦りのような物は出ていたのだろう。
勿論考助が焦るなと言ったからと言って、その思いが完全になくなるわけではない。
人というのは、他人に先んじられると、どうしたって焦りのような物は出るものなのだから。
それが悪いことだとは考助も考えていない。
むしろそれがいい結果を生むことだってあるのだ。
三人のその表情を見て、今回戻って来た目的を果たせたと確信した考助であった。
と言うわけで、一時的な帰省ですw
次話は、シュレインとの儀式になります。
といっても長々と書くつもりはありません。
・・・・・・まだどうなるのかは決めてませんが。




