(9)棚ぼたCランク?
ノールが作りだした岩を思いっきり頭にぶつけられて、気絶した状態で男が運び出されるのを、考助が不思議そうな顔をして見ていた。
「どうした? なんか、納得いかないって面してるな?」
そんな考助を、ガゼランが面白そうな物を見つけたような表情になっていた。
「あ、いや。納得いかないと言うか、よくわからないと言うか?」
「ほう? 何がだ?」
「いや。ああいう人って、それこそどこにでもいるけど、僕みたいなのを倒してその後どうするのかなって」
考助の言い分に、ガゼランは首を傾げた。
「いや、だって、セシルやアリサだって意思があるんだから、僕を倒したところでどうにもならないと思うのだけど?」
考助は、心底不思議そうな顔をして首を捻っていた。
そんな考助を見て、ガゼランはクツクツと笑っていた。
「そもそもそんなことを考える頭があったら、人様に絡もうなんて思わんだろうぜ?」
「・・・・・・そうなの?」
「ああ、そうだろうさ。そして、ここにいる半数は、そんな奴らだぜ?」
ガゼランのその言葉に、今まで二人の戦闘を見ていた者達からブーイングが起こった。
つい先程まで、考助の呼び出した妖精にのまれていたのに、立ち直りが早い。
そしてそれが、冒険者として生き延びるためのコツなのかもしれない。
そんなどうでもいいことを考えた考助は、一つため息を吐いた。
「そう。まあ、いいや。これでもう用はないよね?」
「ああ、ちょっと待て」
もう要件は終わったとばかりに、帰ろうとした考助をガゼランが止めた。
「? まだ何か?」
「折角だからこのままランクアップ試験を受けて行かないか? 部門長特権でCランク」
その申し出に、考助は驚いた。
何しろ「コウ」として活動しているのは、ほんのわずかだ。
実績などつい先ほど持って帰って来た討伐部位くらいである。
そんなルーキーをいきなりCランクと言うのは、いくらなんでもあり得ないだろう。
案の定、先程とは違ったブーイングが周囲から起こっていた。
「うるさいぞ、お前ら! 腕のいい冒険者は、人が足りないんだよ! 何だったら、こいつを倒せたやつがCランクってことで良いぞ?」
「ちょっ、まっ・・・・・・!?」
ガゼランの言葉に、騒いでいた者達がピタリと止まった。
慌てて考助が止めたが、時既に遅し。
既にその気になっている者が何人かいた。
「その言葉、本当だろうな、部門長?」
その内の一人が、前に出てきつつそう言って来た。
その男にガゼランがニヤリと笑った。
「おうよ。俺は部門長だぜ。それくらいの手続きは、ちょちょいだぜ?」
考助は、それを聞いて内心で頭を抱えた。
いくらなんでも部門長が規則を破るようなことをしていいとは思わないが、今の考助はガゼランに意見できるような立場にいないのだ。
「なんか勘違いしてるみたいだが、部門長特権てのは本当にあるんだぜ?」
ガゼランが唐突にそんなことを言って来た。
「え? 本当に」
「おう。きっちり規約にも書いてある。後で確認してみな?」
どうやら嘘ではないらしい。
この騒ぎを見守っていたセシルとアリサが、上下に首を振っていた。
「じゃあ、それはいいんだけど・・・・・・って、良くないよ! 何でそんな面倒なことしないと駄目なのさ。僕は普通に上がって行くから特例はいらないから!」
「いやいや。そう言うなって。それに、もう遅いぞ?」
ガゼランがそう言って、訓練場の入口を見た。
二つある入口は、どちらもニヤニヤしている冒険者たちで塞がれていた。
考助を閉じ込めようと言うわけではなく、この面白い騒ぎをきっちり見届けたいという事なのだ。
それを見て、考助はガクリと肩を落とした。
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結論から言えば、考助は「コウ」としてCランクになることが出来た。
向かって来た冒険者全員をなぎ倒したのだ。
ノールに引き続いて、サラまで見せることになってしまったのだが。
最後の方は、ランクアップ試験がどうのと言うより、考助を倒すことになっていた感じだったが。
中には既にCランクになっている者達もいたので、実際その感覚は当たっていた。
「おお、見事見事。これでコウがCランクになることに文句を言うやつはいないだろう」
そんな中、ガゼランが満足したような様子を見せていた。
実際、考助の戦いぶりを見て安心したと言うのもあるのだろう。
確かにこれだけの戦いぶりを見せられれば、大抵のことは切り抜けられる。
ガゼランは、考助に威圧されたことはあっても、実際に戦う所は見たことが無かったので、どれくらいの実力があるのか、しっかりと知りたかったのだ。
「まあ、いいけど・・・・・・。それで? ランクアップはしてもらえるの?」
考助は疲れたように、ガゼランにそう確認を取った。
いや、実際に疲れていた。
「おうよ。任せろ! 頼んだぞ?」
ガゼランはそう言って、今までの様子を見ていた職員にそう声を掛けた。
だが、その職員は首を左右に振った。
「いえ。それは無理です」
「何!? どういう事だ?」
「先ほど部門長が仰ったとおりです。特例ですから私達では処理できません。部門長自ら処理していただかないと」
「お? おお!? そうだったか?」
そう言って驚くガゼランに、考助はジト目を向けるのであった。
「おう。これで終わりだぜ?」
「なんで疑問形?」
首を傾げつつ「コウ」のクラウンカードを渡して来たガゼランに、考助が訪ねた。
「がはは。なんせ特例なんて初めてだからな。上手くできてるか分からん!」
「威張って言わないでよ」
ポツリと言ったその台詞は、ガゼランには届かなかった。
いや、あえて無視しているのだ。
様子を見守っていた受付が頷いているのを見て、確信した。
「まあ、いいけど」
考助が『見た』限りでは、確かにきちんとCランクに改定されていて、特におかしいところは無かった。
「じゃあ、折角だから何か依頼を受けて帰ろうか」
考助は、今まで見守っていたセシルとアリサにそう言った。
二人もそれに否やはなく頷くのであった。
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適当な依頼を受けてから、取ってある宿に向かう三人。
セシルとアリサの二人は、既に理由を聞いているので、宿に向かう事は不思議に思っていない。
今までであれば、宿ではなくそのまま百合之神社に戻るところなのだが、考助が宿に行く以上自分達も宿に泊まることにしている。
いくら何でも、考助を一人きりにするわけには行かないのだ。
傍には最強の護衛であるナナがいるとはいえ。
「はあ。疲れた」
宿の部屋のベットに腰かけた考助は、そう呟いた。
流石に、二人と同じ部屋にはなっていない。
当然のようにナナが傍にいるが。
考助にしてみれば、モンスターの討伐よりもクラウン本部に戻ってからのイベントの方が疲れた。
肉体的にと言うよりも、精神的に。
でもまあそのおかげで、Cランクになることが出来たので、結果としてはよかったのだろう。
ガゼランがそれを狙っていたのも分かっている。
とは言え、疲れたというのも本当なので、この日はそのままさっさと寝ることにしたのであった。
ある意味テンプレ通りののイベントでしたw




