(8)テンプレ
「おい、てめえ。無視してんじゃねーよ!」
考助はその声を聴き流しながら、「おお。テンプレだ」と若干ずれたことを考えていた。
勿論その男は、考助に向かって言ってるのだが、わざわざ相手にする価値もないことなのだ。
「おい! ・・・・・・っ!?」
カキンと言う音が、クラウンの窓口がある部屋に響いた。
無視し続ける考助に、いい加減焦れた男が考助を強引に振り向かせようと肩に触れようとした所で、絡んでいた男に向かって来た短剣を弾き落としたのだ。
弾かれた短剣は、その様子を見ていた冒険者たちの所に向かっていったが、その程度で慌てる者達はここには誰もいない。
慌てず騒がず短剣を処理して、騒ぎの方に集中していた。
「なんだ? どういうつもりだ、おい?!」
「どうもこうもありません。これ以上、コウ様に危害を加えるなら私達が黙っていませんよ?」
そう言ったのは、男に向かって短剣を飛ばしたアリサだった。
そのすぐ傍では、セシルがうんうんと頷いていた。
「おいおい。なんか勘違いしてねーか? 俺は騙されているあんたらを・・・・・・」
「騙されてる? どの口がそれを言いますか! どちらかと言えば、貴方の方が騙そうとしているのでしょう?」
アリサの言い草に、その騒ぎを見ていた冒険者達の中からプッという音が聞こえて来た。
「おい! 今、笑ったのは誰だ!」
当然、男が言い掛かりを付けようとするが、冒険者達は視線をそらしてどこ吹く風だった。
そもそもこんなことになっているのは、セシルとアリサに注目した男が考助に言い掛かりを付けてきたことから始まっていた。
セシルとアリサの態度が、考助を敬ってさえいそうな態度であることがそれに拍車をかけたらしい。
それを見ていた冒険者たちも何か思う所があるのか、それを止めようとする者はいない状態だったのだ。
本来であれば、クラウンの冒険者部門本部でこんなことをすれば、出入り禁止になりかねない行為なのだが、この男は最近来たばかりで、そういったことを他の者から情報として仕入れていなかったらしい。
少なくなっているとはいえ、こういった輩は今でも時々出てきているのだ。
いい加減止めようかな、と考えていた考助だったが、その前に割って入る者がいた。
「おいおい。何だ、この騒ぎは? 冒険者同士のトラブルは、ここでは御法度だろう?」
その声の方に視線が集まり、その後で若干の騒めきが起こった。
その声の主は、クラウンの冒険者部門の部門長であるガゼランだったのだ。
「なんだ、てめーは? 無関係な者は、引っ込んでろ!」
無謀にも考助に絡んでいた男は、ガゼランにも因縁をつけ始めた。
ガゼランがどういう立場にいるのか知らないのだろう。
知っていれば、こんな馬鹿げたことはしない。
実際この男は、最近この塔にやってきてクラウンに正式登録したばかりだった。
因縁を付けられたガゼランは、怒るわけでもなく、逆に面白そうな表情になった。
部門長と言う役職についてからは、めっきりこういったことが減ってしまっていたのだ。
「おうおう。威勢がいいな。いっそのことその威勢は、戦闘でぶつけないか?」
「・・・・・・どういう事だ?」
突然のガゼランの提案に、男がいぶかしげな表情になった。
「何。どうせだったら冒険者らしく戦闘で決着を付けたらどうだと言ってるんだが? それとも今までのはただの虚勢か?」
ガゼランの言葉に、男はにやりと笑った。
「いいぜ。乗った。そっちの臆病者が乗るかは知らねーがな」
「ちょ・・・・・・!? ガゼラン?」
いきなりの提案に、考助はめんどくさげに抗議した。
ガゼランは既に、考助が「コウ」として冒険者として活動していることは知っていた。
流石に冒険者として活動するのに、ガゼランに何も言わないわけには行かなかったからだ。
「まあまあ。どうせこのまま、なあなあじゃ治まらねーよ。それに、他の奴らの面倒も減らせるぞ?」
ガゼランが考助の傍に寄ってきて、ひそひそとそうささやいた。
「どうせだったら面倒事は一度に片づけた方がいい」
もっともらしいことを言うガゼランに、考助は眉を顰めた。
「とか言って、本当は妖精が見たいとかじゃないの?」
「おお? 見せてくれるのか?」
考助の冗談に、ガゼランが意外なことに乗り気になった。
こんなところで妖精など見せれば、余計騒ぎになるだけだと思った考助が、思わず問いかけた。
「見せていいの!?」
「むしろ、そっちの方が後々面倒が無くていいと思うぞ?」
考助の疑問に、あっさりとガゼランがそう答えた。
「それなら話は簡単だからいいけど・・・・・・本当にいいの?」
「おう。どんどん見せてやれ。そっちの方が、皆の刺激になっていいだろ?」
ガゼランの本来の目的はこっちだったらしい。
どうやら考助が妖精を使役するところを見せて、冒険者たちの向上心を上げることを狙っているのだ。
そういうことなら、と考助もようやくやる気になった。
「なんだ? 話はまとまったのか? それとも勝てないから、不正の話か?」
男がニヤニヤしながらそう言って来た。
「ああ、いやいや。渋っていたから、ちょっと説得をな。心配しなくてもすぐ場所を用意するからそこへ行っておけ」
ガゼランがそう言って、受付にちょっとした指示をした。
指示と言っても空いている訓練所を用意するだけだったが。
その用意された訓練所に、男は喜び勇んで向かっていった。
自分が勝つのが当然だと思っているのだ。
「おう。ここにいる暇な奴らも、出来るだけ見ておいた方がいいぞ? なかなか面白いものが見れるだろうからな」
ガゼランが、今まで騒ぎを見守っていた冒険者たちにそう言って来た。
当然そこにいるほとんどの者が、ガゼランの事を知っている。
そのガゼランがそんなことを言うのなら、という事で、今まで動こうとしなかった上位の冒険者たちまでその訓練場に向かい始めた。
「・・・・・・出来るだけ目立ちたくなかったんだけどなあ」
「何を言っている。この二人と一緒に行動している時点で、それは無理な相談だ」
ガゼランの言葉に、今まで黙って様子を見ていた受付嬢が、頷いていた。
「それはそうなんだけどさ」
「申し訳ありません」
肩を落とす考助に、セシルが頭を下げた。
「ああ、いや。わざわざ謝ってもらうほどの事でもないけどね」
考助はそう言って、諦めたように訓練場へと向かうのであった。
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剣を振りかざして向かって来た男に、考助はたった一言だけ発してそれを防いだ。
殺すのは禁止事項だったはずだが、男は明らかに殺しに来ていた。
「ノール、お願い」
考助がそう言うと、一瞬その周辺で光を発した。
振り下ろされた男の剣は、カキンと高い音を出して弾かれてしまった。
「お、おい。何だよそれは? ふざけるなよ!?」
ふざけているのは、どっちだと思ったが、わざわざそんなことを言って煽ってもしょうがないので、別のことを言った。
「それで終わり? この光を突破できないと、傷付けることすら難しいけど? あ、あと殺しは禁止だったはずだよ?」
「う、うるせえ!!」
なるべく穏やかに言ったつもりだったが、煽った結果になってしまった。
逆上した男は、周囲の様子にも気づかず、同じように突っ込んできた。
男は気づいていなかったが、周囲の者の中で騒いでいるのは、精霊を使える者達だった。
考助が呼び出した者が何かを薄々察したのだろう。
セシルとアリサの傍にいたガゼランが、聞いてきた。
「あれが、妖精ってやつか?」
ガゼランの視線の先には、考助の周りにふよふよと浮いている光が見えていた。
精霊を使える者達には、それが小人の姿に見えているだろう。
「はい。そうです」
ガゼランの質問に、セシルが感極まったようにその妖精を見ている。
それもそうだろう。
そもそも妖精と言うのは、ほとんど伝説のような存在になっているのだから。
あのコレットでさえ、気軽に召喚するなど出来ないのだ。
それをあっさりと名前を呼ぶだけで呼び出した考助は、それだけでとんでもない存在だという事になる。
当然、周囲にいる精霊を使える者達もそれが理解できているのだ。
実際に見たことは無くても、精霊を扱っていれば目の前の小人が力を持っていることが分かる。
その力からそれが妖精だろうと推測できるのだ。
それらの者達から、その話が周囲の者へと伝わって行っていた。
当事者である男一人を除いてだが。
結局男は、最後の最後まで、その様子には気づくことが出来なかったのであった。
男の名前は出しません。モブですしw
職員たちがいい加減止めようとしたところで、ガゼラン登場というわけで止まりませんでした。
ついでにガゼランが悪だくみをしたために、出入り禁止の話はうやむやになっています。
いい感じでかませ犬になってくれたということでw
もっとも、気が付いた男は、今回の件で塔から自主的に出て行ってしまいます。




