(6)神様の加護
昨日上げた5話ですが、最後にセシルとアリサが考助の奴隷として云々、と言う話になっていましたが、二人がクラウンの奴隷であることは知っている人がいるのにまずいのでは、という指摘をいただきましたので、最後の十何行かを丸々修正しております。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、ご確認よろしくお願いします。
21時半ごろに訂正したので、それ以降にお読みいただいた方は訂正済みの文章になっています。
コウヒとミツキの戦闘は避けられた管理層だったが、二人を除くメンバーはまだ状況がよくわかっていなかった。
考助が手紙を置いて管理層から離れたことは分かっている。
だが、どうしてそんなことになっているかは、何もわかっていないのだ。
とはいえ、置手紙だけでそんなことは分かるはずもない。
本人を追いかけにいく、という事も考えたのだが、コウヒとミツキの様子からそれは許されないだろう。
どうやら二人は、考助が管理層にいるメンバーと離れて行動することを望んでいるようなのだ。
勿論、渋々なのだが。
それを差し置いて、自分たちが考助を追いかけるわけには行かない。
結局、シルヴィアの交神を頼りにすることになったのである。
何気に考助が傍にいない状態での交神は初めてだと気づいたシルヴィアだったが、交神自体は普通に行うことができた。
これで、もし交神が出来なければ、考助の状態を知るすべがなくなるので、内心ドキドキだったが。
エリサミール神と交神してすぐに、今回の考助の件を伺った。
『手紙一枚でいなくなった考助様を、薄情だと思いますか?』
『そ、それは・・・・・・』
当然どこかでそう思う気持ちはある。
離れて過ごすのなら、せめてきちんと相談して欲しかった。
『では聞きますが、もしこのことを貴方達に相談したらどうなっていましたか? 間違いなく止めていませんでしたか?』
『それは・・・・・・。理由次第だと思いますが・・・・・・?』
『そうでしょうか? 何が何でも、とは言いませんが、強く残ることを希望したのではありませんか?』
エリサミール神のその言い分は、間違いなく正しかった。
シルヴィアは理由次第だと言ったが、その前にまず止めることを優先しただろう。
『・・・・・・』
『そうなったら、貴方達には甘い考助様の事です。ずるずると残ることになったのではありませんか?』
それは、十分に考えられることだった。
そうしたことを考助がきちんと考えた上での今回の行動だという事も理解できた。
『あ、あの・・・・・・それはわかりました。では、そもそもいなくなった理由を知りたいのですが?』
『そうですね。貴方達のために、一度距離を置いた方がいいと考えているのでしょう。私もそれを支持します』
それは、考助の残した手紙にも書いてあった。
だが、その理由を知りたいのだ。
『私達のために距離を置く、ですか。 ・・・・・・それはどういう事でしょうか?』
『今の貴方達の一番の目的はなんですか?』
『それは・・・・・・子供を授かりたいという事ですわ』
シルヴィアだけではない。
それは、メンバーたち全員の願いでもある。
『その子供を授かるのに、考助様の加護を授かったのは良いのですが、それはきちんと発現できないと意味がない物と言うのは分かりますね?』
『は、はい』
『その加護の力を発現するのに、自分が傍にいると邪魔になると考えたのですよ』
思ってもみなかった理由に、シルヴィアは黙り込んだ。
次いで、そんなわけはない、と言おうとしたが、それは次のエリスの言葉で遮られた。
『考助様が加護を与えた相手に、リリカという方がいるでしょう?』
『え? ええ』
『その彼女は、人類種の中で今のところ一番上手く加護の力を発動しているようですよ』
『そうなんですか!?』
シルヴィアは、リリカに加護を与えたことは知っていても、まさかきちんと加護の力を使っているとは思っていなかった。
シルヴィアだけではなく、他のメンバーも同じだろう。
『ええ。考助様は、それが何故かと考えて、自分と離れているからと考えたのでしょう。そして、それはある意味で間違っていないのです』
『・・・・・・どういう事でしょう?』
『簡単な話です。そもそも加護と言うのは、神と離れている者に対して、その者を護る目的で授ける物です』
『・・・・・・・・・・・・常に、近くにいる私達が加護の力を発現できなかったのはそのためと?』
『勿論、理由はそれだけではないんですが、それもあるということですね』
エリスの言葉に、シルヴィアが沈黙した。
『勘違いしてほしくはないんですが、別に近くにいるからといって、絶対発現しないというわけではないです。でも、発現するまでには、それなりの時間がかかります。
ですが、貴方達は出来るだけ早く結果が欲しかったのですよね?』
最初、女性メンバーだけで原因を確認していた時は、そうでもなかった。
アレクのあの言葉が無ければ、もう少しゆっくり考えていたかもしれない。
だが、あの時から少し焦りのような物が出ていたのも確かだった。
考助は、それを敏感に察したのかもしれない。
「普段は察しが悪いのに、どうしてこういうときだけ・・・・・・」
言葉に出すつもりはなかったのに、思わず言葉にしてしまったらしい。
ただの呟きだったのだが、交神相手のエリスには、しっかりと聞こえたらしい。
交神具からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
思わず口を押えたが、時既に遅かった。
『良くも悪くもそれが考助様、という事でしょう?』
『そうですね』
ついでに、こんな助言(?)までもらってしまい、同意するしかないシルヴィアであった。
エリサミール神との交神内容は、すぐに他のメンバーに伝えた。
結局、この話により今はこのままの状態で本人が帰ってくるまで待ちましょうという事になった。
結論がそうなったのだが、その話を聞いたメンバーの全員が、シルヴィアと似たような感想を持ったことは、ここだけの話である。
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冒険者として活動することになった考助だが、クラウンカードの登録は勿論飛ばしている。
既に管理層で、コウという名前のものを用意してあった。
窓口で作っていないという意味では、偽造という事になるのだが、偽物か本物かと言うと本物だという事になる。
何しろ、クラウンカードの大元を作ったのは考助自身なのだから。
当然、本部の窓口にある認証機で読み取っても正常に動作するわけになる。
「はい。これで、コウ様のパーティ認証が終わりました」
クラウン本部の窓口で考助は、既にパーティ登録してあるセシルとアリサのパーティに加える手続きを行っていた。
クラウンの冒険者たちの間では、既に有名になっている二人だが、当然その傍にいる考助に注目が集まっていた。
似たような視線を感じたことのある考助だったが、こればかりはいつまで経っても慣れる気がしない。
慣れたら慣れたで駄目なような気もするが、スルー出来るくらいにはなりたいなあ、と思う考助だった。
それはともかくとして、セシルとアリサはこれまで従魔以外の者とパーティを組むことは無かった。
その二人が、今回パーティを組むことになった考助に注目が集まるのも当然と言えた。
さっさとこの視線から逃れたい考助だったが、今回は依頼を受けるつもりで来ているので、パーティ申請をして終わりというわけにもいかなかった。
カードを受け取った考助は、二人を伴って早速掲示板へと向かう。
ただし、鬱陶しい視線はあるが、そこはクラウンの本部内だったためか、他の冒険者に絡まれるという事はなかった。
選んだ依頼も、冒険者ランクが低い考助に合わせた物になっている。
そもそもセシルとアリサの二人も、指名依頼ばかりだったので、こうして通常の依頼を受けること自体が珍しい。
どの依頼を受けるのか、慎重に選びながら受付へと持って行った。
その依頼を見た受付嬢は、考助の顔と二人を交互に見ながら確認をしてきた。
「お二人のランクであれば確かにこの依頼は受けられますが、本当によろしいでしょうか?」
ランクが低い考助が受けるには、若干難易度が高めの依頼だったのだ。
実体を知らない受付嬢としては、正しい対応をしたと言える。
実際には、気楽に四種の妖精を呼び出せる考助が、二人より弱いということはあり得ない。
そうしたことも知っているため、セシルが代表して答えた。
「はい。大丈夫です」
「かしこまりました。では、お気を付けてください」
処理を済ませた受付嬢が、営業スマイルで依頼表を差し出した。
考助がそれを受け取り、三人は本部の冒険者スペースから出ていった。
「はー、やれやれ。あの視線はどうにかならないかな?」
外に出て来た考助が、大きく伸びをした後でそう言った。
「済みません。私達のせいで」
「いやいや。別に二人が謝ることでもないよ」
誰が悪いと言えば、無遠慮な視線をぶつけてくる冒険者たちが悪いと言えるのだが、わざわざ騒ぎを起こすつもりもない。
結局、放置するしかないのだ。
「まあ、いいや。取りあえず宿に戻って、食事にしよう。それで今日はもう終わり」
「「はい」」
依頼は受けたが、別に今日中に完了しなければならないと言うわけではない。
というよりも、数日かかるのが前提になっている依頼だった。
そのため、この日は宿に戻って一泊した後、翌日から依頼を達成するために動くことにしたのである。




