(4)反省した考助
アスラの屋敷の部屋にあるベットで、考助は先ほどアスラから言われたことを考えていた。
考助としては、シルヴィア達をどうにかして助けてあげたい。
だがそれは、考助が手助けをすると神の力で、他者の運命を変えるという事。
それは、考助自身が神になって一番やりたくないことだった。
神の手で人の運命が強引に変えられて、人生を狂わされる物語など、前の世界ではそれこそ星の数ほど物語で存在している。
ある意味でそれは神らしい一面として捉えられていたが、考助はそこまで傲慢にはなりたくなかった。
それが例え両者の思惑が一致したとしてもだ。
この場合は、考助の想いと子供を授かりたいと言う彼女たちの想いになる。
考助の躊躇いもきちんと予想していたのだろう。
たとえどんな場合であっても、一度実行してしまえば、歯止めがかからなくなるとアスラから忠告されてしまった。
まさしく、神としての忠告だった。
もし聞かずに神の力を行使すれば、間違いなく後悔しただろう。
アスラは、後から悔いたりしないように、初めに忠告していたのだ。
「あー、駄目だ。眠れないや」
長い間ベッドの中でごろごろしていたが、どうしても寝付けなかった。
一晩寝たらいい考えも浮かぶだろうと思ったのだが、そううまくはいかないらしい。
むくりと起き上がって、以前のように外の散策をすることにした。
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今回は前回のようにあてどもなくうろつくのではなく、ある場所を目指して散策をした。
気を紛らわせるためと言うのもあるのだが、それ以外の目的もある。
「ああ、あったあった」
それは以前、世界記録と邂逅した時に触れた岩だった。
今回は、迷わず、惑わされずに来ることが出来た。
ここに来たのには、ある期待がある。
もう一度世界記録と会うためだ。
世界記録に会えれば、何か解決策を示してくれるかもしれない。
そうした考えがあってここに来たのである。
以前と同じように岩を背にしてもたれかかる。
前の時は、そのまま気を失うようにして世界記録と会ったのだが、今回はそういう事は起きなかった。
前に会ったときに気を失ったように寝たのが、辺りを彷徨って疲れて寝てしまったのか、本当に気を失ったのかは分からない。
どちらにせよ意識が催眠状態に無いと会えないのかと思い、何とか寝付こうとするが、そううまくはいかなかった。
「・・・・・・やっぱり、邪念とかあると駄目なのかね?」
若干落ち込みつつ、そう呟いた。
ここに来れた時はもしかして、と思ったのだが、そうそう簡単に会える存在ではないようだった。
「まあ、しょうがないか・・・・・・」
世界記録に会うのは諦めたが、しばらくこの場所にいることにした。
岩にもたれかかりながら寝転んでいると、吹いてくる風が心地よかった。
先程までの考えをきれいさっぱり忘れさせてくれる、とまでは行かないが、それでも何となくあった焦燥のようなものが無くなっていくような感じがしたのだ。
どれくらいそうしていたのかは分からないが、気が付いていた時には眠っていた。
世界記録に会ったというわけではなく、本当に眠っていただけだ。
それでも起きた時には、眠る前の時のような感じは完全になくなっていた。
「我ながら単純だなあ」
苦笑しつつそれでもさっぱりとした表情になっていた。
寝たのが良かったのか、それともこの場所に来たのが良かったのかは分からない。
既に寝る前にあった迷いはなくなっていた。
腹をくくったとも言える。
来た時とは違い、非常にさっぱりとした表情で、アスラの屋敷に戻る考助であった。
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「あら。すっきりした顔してるわね。吹っ切れた?」
アスラに会うなりいきなりそんなことを言って来た。
考助は、思わず頬を撫でてしまった。
「・・・・・・そんなに違った?」
「それはもう。何かに憑かれているかと思ったわよ?」
クツクツと笑いながらアスラは、口に手を当てている。
「それはひどいな」
考助自身としては、普段と変わりないつもりだったのだが、周りから見れば全く違ったようだった。
今の考助は、以前アスラが見た時の考助と変わらない様子だった。
「それで? 決断できたんでしょう?」
考助の様子を見れば、そんな決断をしたかも一目瞭然だったが、敢えてアスラはそう問いかけた。
「まあね。結局、僕はどこまで行っても、自分にしかなれないという事が分かったよ」
考助のその返事は、アスラにとって満足のいく返答だったらしい。
笑みを浮かべて大きく頷いた。
「それが分かれば上出来よ」
「・・・・・・やっぱり間違ってるかな?」
「さあ? でも違った道をあの娘たちが望んでいたかは、微妙な所だと思うわよ?」
「そうかな?」
「勿論、昨日も言った通り貴方の選んだ道だと言えば、付いて来ただろうけれどね」
「そうかな」
「そうよ」
未だ少しだけ不安な表情を浮かべた考助に、アスラは笑いかけた。
「貴方はもう少しだけ自分に自信を持った方がいいわね。今回みたいに暴走しないように」
アスラの忠告に、考助は顔をしかめた。
「それはひどいな。・・・・・・暴走って」
「でも間違っていないでしょう?」
「・・・・・・確かに」
考助としても多少の自覚はあるのだ。
「だったら、さっさと戻って安心させてあげなさい」
「ああ、そうするよ。・・・・・・アスラ」
「何?」
「有難う」
「どういたしまして。出来ればもう少し甘えに来てほしいけど?」
頭を下げた考助に、アスラは悪戯っぽく返事を返した。
「それは遠慮しておくよ」
「そう。残念」
お互いに冗談だと分かっているので、言い終えた後は顔を見合わせて二人そろって笑ったのであった。
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「心配かけて、ごめんなさい」
管理層へと戻った考助は、皆と会うなり頭を下げた。
ここでしれっとして、いつものように接するほど、厚顔無恥ではないつもりだ。
そんな考助を見たメンバーは、ホッとした表情を浮かべていた。
昨日とは全く違った表情だと気づいたのだ。
少なくとも皆が考えていた悪い方へとは行っていないという事が分かったのだ。
勿論、シルヴィアが交神して大体のことは聞いていたので、安心はしていた。
とはいえ、他人(他神?)からの聞き伝えと、本人を前にしての印象は全く違う。
女性陣は、考助がどんな決断を下したのかまでは聞いていない。
だが、シルヴィアがエリスと交神した際も、こうして目の前で会ってみても、昨日より悪い方に考えていないことは分かる。
「いえ。いいのですわ。こうしてきちんと戻ってきてくれただけで」
だからこそ、シルヴィアがそう言ったことに、全員が素直に頷いた。
「そうか。有難う」
考助は安心した表情になって、もう一度頭を下げた。
「もう。そんなに頭を下げなくても良いですわ」
「そうだの。それ以上されると、逆にうっとうしくなるの」
シルヴィアの言葉に、シュレインが冗談を返した。
「うわ。ひどっ」
いつものようなやり取りに、ようやく全員が笑顔になったのであった。




