(3)考助に出来ること
子供のことについては、出来れば考助には、最後まで知られたくなかった話だったが、それも限界だったと言える。
それも第五層の街、というより行政府の機能が上手く行き過ぎるほど上手くいっているために起こったのだ。
建国するという話が、夢物語ではないくらいに順調に行っているために。
それ自体は喜ぶべきことなのだろう。
例えそれにまつわる様々な面倒事が増えるとしても。
その一番最初の厄介ごとが、子供の事に関してだったというのは、良い事なのか悪いことなのかは分からない。
だが、確実にこの問題の表面化は、管理層のメンバーに何かしらの影響を与えた。
それが小さく済むのか、大きくなるのか。あるいは、いい方向に進むのか、悪い方向に進むのかは、まだ決まっていない。
「コウスケさん、大丈夫ですか?」
「え? あ、うん。大丈夫だよ。というか、僕より皆の方が心配だけど?」
「私達は・・・・・・以前から知っていましたから」
シルヴィアは、そう言って微笑んだ。
「前から皆で、何かやっているなとは思ってたけど、このことだったんだね」
「あ、いえ。別に最後まで隠そうとしたわけではないのですが・・・・・・」
「うん。それは分かっているから大丈夫だよ。心配かけたくなかったんだよね?」
考助にしてみれば、言ってくれれば、という思いもなくはない。
だが、言わなかった女性陣の気持ちも分かるので、それについてどうこう言うつもりは無かった。
「はい・・・・・・」
「いや、そんな顔しなくても。そもそも皆の方が前向きになっているのに、僕が沈むわけには行かないからね」
その言葉に、シルヴィアは顔を上げて考助を見た。
その考助は笑顔を浮かべている。
それを見たシルヴィアは、少なくとも考助が今回の件を悪い方向で考えていないことを知ってホッとした。
勿論考助も自分が暗くなれば、それが女性陣に悪い影響を与えることも分かっているのだ。
「そうじゃなくて、僕にも出来ることがないかちょっと考えてたんだけどね・・・・・・」
「これは、私達の問題よ? 上位種になれば問題ないんだし」
考助とシルヴィアの話を聞いていたコレットが、口を挟んできた。
ちなみに、この場には全員が揃って話を聞いている。
「いや、そうなんだけど・・・・・・いや、そうなのか? そもそも僕が、現人神なんかに・・・・・・」
「コウスケ様! それは・・・・・・それだけは、言ってはいけません!!」
考助が思わず神になったことを否定しようとすると、慌ててシルヴィアが遮った。
神である考助が、自身を否定するとどうなるのか、考助以上にシルヴィアが知っているのだ。
神に関しては、生きて来た世界が違っている考助よりも、シルヴィアの方が圧倒的に知っているのだ。
「・・・・・・ごめん・・・・・・」
「そうだの。少なくとも、吾等はコウスケが神であることは否定しておらん。今のはそれすらも無下にしかねない言葉だったの」
「そうだね。ごめん」
考助はもう一度謝って、頭を下げた。
「いや、分かってもらえればそれで良い」
「とにかく、この問題は私達の側の問題ですので、コウスケ様に出来ることは、今まで通りにしてもらうのが一番です」
そう言って来たシルヴィアに、考助は渋い顔をした。
「いや、そうなのかな?」
考助にしてみれば、自分が何も出来ないことがもどかしいのだ。
だが、残念ながら女性陣が理解している通り、本当に今の時点で考助が出来ることはほとんどないのだ。
「もしあるとすれば、それはコウスケ様が神の力で私達を作り変えてしまうくらいですが、そんなことをされたいのですか?」
「・・・・・・う」
勿論そんなことはしたくはない。
考助がここで何かをしようとすれば、彼女たち自身の力で運命を変えるのではなく、考助の神の力で変えることになってしまう。
加護を与えたりするのも、その一環と言えなくはないが、それはあくまで受け取る側の希望を聞いたうえで与えている。
ただ、子を産めない身体を作り変えることは、明らかにその範疇を超えている。
まあ加護を与えた上で、進化を促していること自体、そう言えなくもないのだが。
それはあくまでも本人たちの努力や苦労があった上でのことだ。
考助の意思一つで、他人の体を作り変えるのとは、少なくとも考助にとっては意味が違うのだ。
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女性陣の言いたいことを理解した上で、それでも何かできないかとしばらく考えていた考助だったが、ふと思いついたようにその時傍にいたシュレインに言った。
「ちょっと神域行ってくる」
「え? おい、ちょっと・・・・・・!!」
止めようとしたシュレインだったが、既に考助は行動を起こしていた。
さっさと神域に移動するための送還陣を展開する階層へと向かったのである。
「それで、神域に行ってしまったのか」
「止める暇もなくの」
考助がいなくなった管理層では、女性陣が集まっていた。
「仕方ありません。本来であれば、私達で分からせればよかったんですが・・・・・・」
若干沈んだ表情で、シルヴィアがそう言った。
「それはもう言っても仕方ないの。神々に任せるしかあるまい」
「それよりも~。帰ってきたときに、私達が普通通りにしていないと、またおかしなことになってしまいますよ」
「それは、私も同感だ」
ピーチの言葉に、フローリアも同意した。
「そうですね。あとは神々に任せましょうか」
最後にシルヴィアがそう言って頷くのであった。
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「勇んできたところ悪いけれど、今のところ貴方が出来ることは、本当に何もないわよ?」
「はやっ・・・・・・!?」
何となくデジャヴを感じるが、転移してきて速攻でアスラに否定された。
「いや、でも・・・・・・」
更に言葉を続けようとする考助を、アスラが溜息を吐いて遮った。
「あのね、考助。ここまで来て貴方が何とかしようとするのは、傲慢、とまで言わないまでも過信しすぎよ?」
「・・・・・・・・・・・・!!!?」
アスラのその言葉に、考助は思わず言葉を失った。
「やっぱり自覚なかったのね。まあ、そういう神もいないわけではない・・・・・・というか、ほとんどそうなんだけど、考助はそんな神になりたいの?」
「いや、それは・・・・・・だけど・・・・・・」
「本当に、今の段階で貴方が出来ることは、今まで通り接してあげることだけよ。それ以上を望むという事は、神の力で強引に相手の運命を捻じ曲げるという事」
加護を与えるだけなら、本人たちの努力の余地があるからまだいい。
だが、今アスラが言っている運命を捻じ曲げるという事は、神の力で強引にその人のあり方を変えてしまうという事だ。
それは第三者から見れば、神の力で干渉している時点で同じことじゃないか、と言う事も出来る。
だが、あくまでも力を分け与えて、後は本人の努力が必要な場合と、そう言った余地もなしに神の力で変えてしまう場合とでは、少なくとも考助にとっては大きな違いがある。
言葉失っている考助を、アスラは一旦区切ってジッと考助を見詰めてからさらに続けた。
「勿論、現人神である貴方は、やろうと思えば、そういったことも恐らくできるわ。けれど・・・・・・本当にそういう存在になることを貴方は望むの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「そして、そうなった貴方をあの娘達は、貴方として認めるのかしらね?」
「・・・・・・」
「ああ、こういう言い方はあの娘達に悪かったわね。貴方がどんな神になろうと、きっとあの娘達は支え続けるでしょうから」
アスラの言葉が一つ一つ考助の中に響いてくる。
「勿論、私も貴方がそうなることを止めるつもりはない。けれど、一度そういう事をしてしまえば・・・・・・戻れないわよ?」
それはまさしく、アスラの神としての言葉だった。
その言葉を受け入れると同時に、考助は管理層でのことも思い出した。
彼女たちも同じようなことを言っていなかったか。
その彼女たちに自分はどういう対応をしたか。
まさしくアスラが言っていたようなことをしていなかっただろうか。
それこそ、考助がどこかで嫌っていた傲慢な神としての態度ではなかっただろうかと。
そんな考えが、考助の中でグルグルと駆け巡ったのであった。
これを機に考助には神としての立ち位置をはっきりと決めてもらいます。
自分の都合のいいように力を使う傲慢な神になるのか、あるいは今回の事のようなことが起こってもある程度は我慢するのか(今まで通りか)。
どういう答えを出すかは次回です。




