(10)最後のおまけ
死屍累々。
武闘大会の会場である闘技場に、今大会で見事優勝した優勝チームのパーティメンバーが倒れていた。
その結果を引き起こした原因は、闘技場の中央に立っている。
ちなみにその原因は戦闘が始まってからほとんど移動していない。
優勝チームは、その相手に傷一つ付けずに終わってしまったのだ。
逆に優勝チームは、先のような有様である。
折角の強者との対戦と息巻いていたのだが、ほとんど何もできずに終わってしまった。
見ていた観客もまた優勝チームをこんな状態にした相手の圧倒的な強さに惜しみない拍手を送った。
そもそもどうしてこんなことになっているのか。
それは、決勝戦が終わって表彰が終わった後、エキシビションマッチとして優勝チームには最後にもう一戦待っていた。
勿論、今まで激戦を繰り広げて来た後の事だ。
司会者は、しっかりともう一戦やるかどうかを優勝チームに聞いていた。
そして、メンバー全員が息巻いて、その戦闘に同意した。
何故ならその相手と言うのが、このアマミヤの塔を攻略したメンバーの一人だと言うのだから当然だろう。
もはや冒険者たちにとっては、この塔を攻略したパーティの噂は、伝説の域に達していた。
街が出来てから既に一年が経っている上に、これほどのお膳立てをされているにもかかわらず、塔の攻略どころか未だ全容すら見ることが出来ない。
それどころか、前線の冒険者たちがもたらす情報によって、現状ではこれ以上の攻略は不可能とさえ言われている。
なぜそこまで言われているかと言うと、上級モンスターが闊歩している階層に到達しているからだ。
今の冒険者のレベルでは、その階層を攻略するのは無理なのである。
アマミヤの塔を攻略したパーティは、これらの階層全てを攻略できたからこそ、今現在このアマミヤの塔を支配しているのだ。
その強さは、間違いなく現存する冒険者の中で最高レベルだろう。
その冒険者と直接対戦できるのだ。
こんなチャンスは滅多に来るものではない。
優勝チームが息巻くのも当然だろう。
攻略メンバーの一人として出て来たのは、仮面を付けたミツキだった。
こちらもガゼランにダメもとで頼まれていたのだ。
そのミツキは、考助の許可を取ってから、出ることを了承したのだが。
元々ミツキは、この塔を攻略している冒険者の強さに興味があったのだ。
その結果は、ご覧のとおりとなったのだが。
「これじゃあ、いつになっても塔の攻略は無理ね」
思わずそう呟いたミツキに反応したのは、何とかダメージから復活したパーティのリーダーだった。
「参考までに伺うが、攻略するにはどの程度の強さが必要だ?」
「そうねえ・・・・・・少なくともドラゴンを一人で圧倒できる強さがないと無理じゃないかしら?」
ミツキの言葉に、パーティ全員が「そりゃ無理だ」と突っ込んだのは、言うまでもない。
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「ずいぶん派手にやったわねー」
特別席で見ていたコレットが、楽しげにそう言って来た。
「いや、多分ああしないと怪我するかもしれなかったからだよね?」
「そうなの?」
考助の台詞に、ワンリが不思議そうな顔をした。
「相手が、だけどね。時間を掛けたら大技の一つでも出して来ただろうしね。その返しをするとどうしても相手が傷ついてしまうから。それが来ないうちにさっさと倒したんだと思うよ」
ハクがコウヒを見ると、コウヒもカクカクと頷いていた。
実際考助の言う通りで、ミツキがさっさと倒したのは、そう言った事情があったためだ。
武闘大会なのだから、出ている方もある程度の怪我は織り込み済みだろうが、そこはそれ、怪我をさせないことに越したことはないのだ。
ついでに、塔の攻略メンバーの強さも見せられたのだから問題ないだろう。
勿論ミツキは、事前にどの程度の強さを見せていいのか考助に確認を取っている。
今の結果もその範囲内だった。
何故今回ミツキの参加を認めたかと言うと、一人歩きをし始めている噂に歯止めをかけるためだ。
中にはとんでもない噂も出始めていたので、その噂にストップを掛けたかったのだ。
下手をすると、以前のコウヒの暴走のようなことになりかねなかったので、タイミングとしては丁度よかったのだ。
「やれやれ。ああもあっさり片づけられると、立場がないな」
笑いながらそう言って近づいてきたのは、ガゼランだった。
考助達が今いるのは特別席だが、他にも招待客たちがいる。
全員が仮面を付けているので、顔までは分かっていないが、それでも周囲の注目を集めている。
以前に神殿の落成式に出たことのある考助はともかく、他のメンバーの情報はほとんど出回っていないためだ。
「それを狙っていたからわざわざ呼んだんだよね?」
「まあそれもある」
ガゼランは、ニヤリと笑ってあっさりとそう言って来た。
一部の噂では、戦闘など行わずに、裏道を抜けて攻略をしたんじゃないかという噂さえ出始めていた。
実際のコウヒとミツキを見ているガゼランは、そんなことはないと分かっていたので、その噂を断ち切りたかったのだ。
その噂に従って馬鹿な真似をする冒険者を止めたかったのもある。
勿論考助もそう言った狙いを分かった上で、許可を出したのだが。
「まあ、それはいいんだけど、目的は達成できた?」
「ああ、おかげでやりやすくなった」
「それはよかった」
考助も仮面の下で笑顔を浮かべた。
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武闘大会の終了をもって、三日にわたって開かれていたお祭りは、閉幕となった。
予定外の事はあったが、概ねいい結果を残せただろう。
何が予定外だったかというと、ディオンの事ではなく、リリカの事だ。
こんな簡単に、管理メンバー以外に加護を与えられる人材を見つけることが出来るとは思っていなかったのだ。
勿論、リリカ自身の行いにも大きく左右されている。
清掃活動に従事していなかったら間違いなく発現はしていなかっただろう。
そう言う意味では、リリカにとっても考助にとっても、絶妙のタイミングで会えたと言える。
加護を与えたのが不意打ちだったため、交神具は渡せていない。
そもそも自分と交神するための神具など作ったことが無いので、多少アレンジをする必要がある。
作り終わったら後でシルヴィアにでも渡してもらうつもりだ。
管理層に戻ってから神託も試してみたのだが、考助の神としての力が足りないのか、話にならなかった。
突然の事で、リリカの準備が出来ていなかったからという事もあるのだが。
神具を渡すのにはもう一つ理由があって、シルヴィア以外にも使うことが出来るのかを確認する目的がある。
リリカに加護を与えたおかげで、色々なことが試せそうだった。
冒険者としての活動を邪魔するつもりはない。
むしろ是非とも今まで通りの活動をしてほしかった。
その上で、どういう事が出来るのかを知りたかったのだ。
もっとも、加護を得たことでリリカがどういう判断をするのかは、彼女次第だと思っている。
教会へ行きたいと言うのなら止めるつもりはない。
教会から誘われて、行くのを嫌がった場合は、守るつもりでもいるのだが。
加護を渡した時の様子を見る限りでは、冒険者としての活動を止めるつもりはなさそうだった。
それはそれで、どういった力の使い方をするのか楽しみなので、この先のことを期待している考助であった。
【おまけ】
ミツキ「あの子はここ(管理層)へは連れてこないの?」
考助 「うん」
ミツキ「なぜ?」
考助 「なんでだろう? 何となく?」
ミツキ「なんだ。私はてっきり・・・・・・」
考助 「・・・・・・てっきり?」
ミツキ「好みのタイプじゃないからかと」
考助 「ち、違うから! そんなんじゃないから!」
注)本編とは関係がありません。ご注意ください。
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茶番はともかくとして、今話をもちまして第22章の本編が終わりました。
閑話を三話ほど挟んでから第23章になります。
第23章は、塔の中と外で色々起こります。・・・・・・タブン。
それにしても優勝チームの影の薄いこと。
今までの話で何チームか出ているので、その再登場を期待された方もいらっしゃったようですが、期待に応えられず済みません><
それらのチームは、現在クラウンの主力として忙しく動いております。
こういったお祭りは、後進に譲っているとお考えください。




