(5) 村づくりスタート
村づくり本格スタート?
リュウセンからの転移門が開通してから一週間後。
リュウセン側の拠点である「アマミヤの館」は、これまでになく多くの人が訪れていた。
今日までは、一日十組くらいしかこの館を利用していなかったのだ。
それは、そもそもリュウセン活動組であるワーヒドたちが、冒険者活動で知り合った者達にしか話をしていなかったせいでもある。
そもそも転移門を使用するための利用料は、高めに設定してある。
それでも構わないという者や、第五層にある建物を借りて最初から塔内で活動することを前提とした者に絞りたかったのだ。
その結果が、現在の状況である。
昨日、塔の村(予定)で活動する者達の一部が、高値で売れる薬草を含んだ様々な素材を持ち帰った。
それらは、モンスター自体はある程度のランクの冒険者であれば狩ることができるが、リュウセン周辺では採取が珍しい物だったりしたため、かなりの高値で処理されたのだ。
その噂が一夜にして冒険者たちの間を駆け巡った。
結果、アマミヤの館の周辺は多くの冒険者でごった返していた。
中には我先にと館へ入ろうとして、割り込むものまで出てきて、そろそろ混乱が大きくなりそうになっていた。
その時である。
館の中から一人の女性、サラーサが出てきて、周囲に呼びかけた。
「聞いてくださーい。見ての通り今日は、多くの皆さんが門を利用してくださっています。残念ながらここは、一組一組の利用時間がかかるシステムになっていますので、ここにいる全員が利用し終わるまでには、かなりの時間がかかることをご了承くださーい」
その説明に、冒険者たちの中からふざけるな、早くしろ、などの怒鳴り声が上がる。
「文句がある方は、利用しなくて結構ですよー」
その一言に、怒鳴り声も静まった。
「というわけですから、きちんと並んで待つようにしてください。ちなみに横入りなどされた方や暴力沙汰など起こした方は、利用禁止などの処分もしますから注意してくださーい」
その忠告に、冒険者たちはしぶしぶと列を作りだした。
「ありがとうございまーす。あとこれはアドバイスですが、野営の準備などをされていない方は、きちんと用意することをお勧めしまーす。日帰りで行けるようなところには、もう目ぼしい物は残ってないそうですよ」
その言葉に、この場に来ていた冒険者の約半数が、リュウセンへと帰って行った。
後に残された者達は、おとなしく順番に利用することになるのだった。
その様子を建物の二階の窓から見ている者がいた。
ワーヒドである。
「・・・全く・・・。冒険者でありながら、野営の準備すらしてこないとは、どういうつもりでしょうね」
ワーヒドのその言葉を聞いて、苦笑している者がいた。
「昨日から出回っている噂の中には、塔に入ってすぐお宝が得られるというものまでありましたからね」
「そうでしたか・・・まあ、そのような噂もすぐに鎮静化するでしょう」
いくらなんでも第五層には、薬草などはともかく高価な素材を落とすモンスターなどはそうそう出てきたりはしないのだ。
「やはりそうですか・・・」
ワーヒドのその言葉に頷いているのは、商人のシュミットだ。
シュミットはある目的のためワーヒドに呼ばれてここまで来ていた。
それは塔の村(予定)に、店を構えないかというお誘いを受けていたのだ。
ちなみにワーヒドは、シュミットが考助がこの世界に来て一番最初にお世話になった商人だとは知らない。
シュミットも当然、ワーヒドと考助につながりがあるとは思ってもいない。
行商人としてなかなか優秀な人材として、幾人かのリュウセンの商人から話を聞いてワーヒドからコンタクトを取ったのだった。
「それで、わざわざこうして訪ねていただいたということは、以前の話を検討していただいたということでしょうか?」
「・・・ええ。流石にあのような結果を出されてしまってはね・・・。商人としては見過ごせない話でしょう?」
苦笑してそう言うシュミットに、ワーヒドは笑顔を見せた。
「まあ、そうでしょうね。・・・それで条件の方は、以前お話しした通りでよろしいですか?」
「ええ。勿論です。むしろ前も言った通り、こちらが本当によろしいんですかと、お聞きしたいほどです」
ワーヒドがシュミットを村(予定)に店を構えるのに出した条件は、かなり破格の内容だった。
むしろそのため、シュミットの方が疑ってしまう、ということになってしまったのだ。
「勿論です。では早速向こうへ参りましょうか・・・と言いたいのですが、現在はこのような感じなので、また後ほど来ていただいてもよろしいですか?」
「わかりました。そうですね、その方がいいでしょう」
シュミットも頷いてそれに同意した。
その日の夕方、ようやく混乱が落ち着いたところでワーヒドはシュミットを引き連れて、村(予定)へと向かうことになるのだった。
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「おや、シュミットじゃないか。行商人が何だってこんなところに来たんだい?」
村(予定)を訪れたシュミットに、声をかけてくる知り合いの冒険者がいた。
「おや。ザサンですか。貴方はこちらで狩りに?」
「おうよ。塔の中で拠点が借りられるって聞いてな。試しに借りてみたんだよ。払えない値段じゃなかったしな」
「なるほど。それで? 成果の方はいかがですか?」
シュミットのその言葉に、ザサンと呼ばれた男はニヤリと笑った。
「お前さんもあいつ等の噂を聞いたんじゃないのかい?」
「まあ、そうなんですがね。ここに店を構える予定の身としては、出来るだけ正確に知っておきたいんですよ」
「・・・なんとまあ。お前さん、ここに店を構えるのかい?」
「そのつもりですよ」
「なるほどな。そういうことなら、ぜひ見てってくれや。わざわざ門をくぐらないで、素材を処理できるならそれに越したことはないからな」
「ありがとうございます。・・・ですが、さすがに今日買い取るのは無理ですよ? さすがに手持ちもありませんし」
「それくらい、わかってらあ」
そういった後、ザサンはガハハと豪快に笑った。
ザサンのパーティメンバーが利用している拠点に向かう間に、お互いにちょっとした情報収集を行うことにした。
「で、そちら側の感触としてはどうなんでしょう?」
「悪くないな。今はともかく、人が増えて本格的に村にでもなったら、他の階層はともかく、ここはルーキーの育成に使えそうじゃないか?」
「・・・・・・なるほど。ということは、他の階層にももう既に行かれてるのですか?」
「俺たちはまだだな。ガザーラ達が第六層に行ったと言っていたな。さすがにここから日帰りは無理みたいだが」
ガザーラとはリュウセンでそこそこ有名な冒険者パーティだ。
ついでに、リュウセンへ先日素材を持ち帰ってきたパーティでもあった。
「それはまた・・・」
その情報にシュミットは目を丸くした。
流石に一層がそこまで広いとは思っていなかったのだ。
ザサンもそれが分かったのか、
「俺たちもさすがにここまで広いとは思ってなかったからな。気持ちはわかるぜ。・・・全く、ここを攻略したってやつは、一体どんなやつなんだか」
「聞いた話だと、五十層以上あるとのことですが?」
「ああ、全く冗談じゃないぜ」
そんな雑談を交わしながらザサンの拠点に到着する。
すぐに一時保管場所へ通されたシュミットは、そこに並べられた品に目を丸くした。
「これは、また・・・」
そこにある品々は、場所によっては特に珍しいものではない。
だがそれは、場所によっては、である。
生活に必要な消耗品やある程度の需要がある物でも、リュウセンでは外からの交易によって手に入れているようなものがある。
そういった品がいくつか存在しているのだ。
「どうだい?」
「いやはや、大したものですね。これが毎日のように採れるのであれば、リュウセンの生活は変わりますね」
「いや、流石に毎日は・・・いや、それこそ数次第か? ・・・まあそんなことになったら、この辺り一帯狩り尽されそうだがな」
「やはりそうですか・・・」
「まあ、実際はどの程度ここが大きくなるかにもよると思うがね」
シュミットもその言葉に再度頷いた。
「ありがとうございます。店を開く上で大変参考になりました」
「おうよ。・・・できれば、酒場なんぞも開いてくれると、うれしいがね」
「・・・考えておきましょう」
「そいつはありがたい」
そんな会話をして二人は、その場で別れた。
結局、シュミットは考助が用意してあった中規模用店舗を使って二日後に仮の店を開くことになるのであった。
考「・・・で、出番は?」
作「あ」
2014/5/11 会話の矛盾訂正。訂正に伴ってガザーラのパーティの補足追加




